“夕凪の街 桜の国” ★★★
(2007年日本映画)

監督:佐々部清
原作:こうの史代
脚本:国井桂、佐々部清
出演:
田中
麗奈、麻生久美子、吉沢悠、中越典子、伊崎充則、藤村志保、堺正章

 

原作が素晴らしい作品ですと、その映画化作品を観るとき、原作を損なってはいないかとつい心配してしまう。
本映画についてもそんな心配を抱きつつ、でも期待してという気持ちで観に行きました。

第一部の「夕凪の街」は、原作がどう映画化されたかという目でついつい見ていました。原作は語るところをかなり抑えた漫画ゆえ、どうしても相当部分を補わないと映画にはならない筈。そこにちょっと心配があった訳ですが、それは杞憂に過ぎませんでした。原作の良さを損なわず、原作に忠実に作られていた作品だと思う。
第二部の「桜の国」は、原作における「桜の国(一)」を飛ばして「桜の国(二)」の物語。「(一)」の部分は「(二)」の中で回想として描かれるという工夫が凝らされています。その分、原作とはまた違った映画作品の「桜の国」観たという気分でした。
原作とその映画化作品というより、漫画作品と映画作品、双子の関係にある両方の物語を観た気分、というのが適切でしょう。

原作と違い映画から強く感じたのは、あの廃墟からよくぞ今の広島の市街へと復興を成し得たものか、という思い。
それと同時に、その復興の中に原爆の被害に苦しみ、深い悲しみを負った多くの人々のことを忘れてはいけない、という思い。
そうした点で、原作とは別に、映画化によってそんな思いを改めて伝える本作品の意義、価値はとても高いと思う。
本作品の良さは、悲劇を謳うのではなくて、そんな悲劇を背負うてもなお生命を繋いでいこうとする人々の心情にあると思います。
原作もそうでしたが、本映画も人々に対する視線が優しく、温かい。そこに原作と共に本作品の素晴らしさがあります。

第二部の主人公である七波を演じる田中麗奈も好きですが、第一部の主人公・平野皆実を演じた麻生久美子がとても好い。
皆実という女性の柔らかい温かさ、そして明るさが見事に演じられていたと思います。

2007.11.25

 
 → 原作:「夕凪の街 桜の国

  


  

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