東日本大震災の後、亡くなった人ともう一度話をしたいという思いに応えるため設置されたという、岩手県大槌町浪板に実在する私設電話ボックス“風の電話”を題材にしたストーリィ。
主人公のハル(春香)は現在、17歳の高校三年生。8年前の東日本大震災の大津波で両親と弟を失い、今は広島で叔母と二人暮らし。
その叔母が急に倒れて入院。それが引き金となって、家族を失う痛みを蘇らせてしまったのか、たった一人、ヒッチハイクで故郷の大槌町を目指すというロードムービー。
故郷を目指す旅に出る前、旅に出てから、ハルは様々な家族の姿を目にします。
土砂崩れで崩壊した町に老母と共に住む中年男、未婚で高齢出産ながら子供を産もうと決意して実家に帰る途中の女性、入国管理庁に拘留された夫かつ父親の帰りを待つクルド人一家、ハルを助け車で大槌町へ向かってくれる森尾、そしてその実家。悲しみを抱え今も苦しんでいるのはハルだけでなく、そうした人が多くいることをハルは旅を続ける中で知っていきます。
そしてついに大槌町の自宅があった場所に、そして偶然知った“風の電話”へ。
ハルが無口で無表情、不愛想だったのは、溢れ出しかねない悲しみ、痛みをずっと胸の内に押し殺していたからではないかと、最後になって気づかされます。
風の電話に向かってハルが家族への思いを溢れ出すシーン、そしてハルが亡き家族へ話しかける言葉。胸が熱くなって堪りません。
これを経てハルが一歩でも前に進むことができればいいと、心から願う気持ちになります。
極めて地味な作品です。用意された感動はそこにはありません。
ただ、あの大震災の被害、悲劇、悲しみ、そして多くの人の心の痛みを改めて感じるばかりです。
主演のモトーラ世理奈さんが、被災家族の一人である女子高生を好演。
是非お薦めしたい逸品です。
2020.01.27
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