第3回
Woman's Beat大賞・受賞作品集
   藤崎麻里「溺れる人」のページ

 
「ウーマンズ・ビート」作品とは・・・
巻頭の紹介文を一部引用すると、「今を生きる女性たちの鼓動」を事実に基づいて自由に書きつづった文章。実録や日記、記録、エッセーという形式にとらわれず、女性を主人公としたドキュメンタリー作品 とのことです。

第3回受賞作品集に収録されている作品は、次のとおり。
・藤崎麻里 「溺れる人」(大賞・読者賞)
  1968年生、応募時35歳。茨城県牛久市在住、主婦。
・八木沼笙子「夜はこれから」(優秀賞)
  1942年生、応募時61歳。福島県福島市在住、企画・広告事務所経営。

・高橋和子 「人生どんとこい」
(入選)
  1948年生、応募時55歳。福島県福島市在住、飲食店経営。

・竹内みや子「夏樹と雅代」
(入選)
  1953年生、応募時49歳。岡山県瀬戸内市在住、主婦・筆ペン講師。

・カウマイヤー・香代子「自分を信じて」
(入選)
  1965年生、応募時38歳。米国加州在住、ダンス・インストラクター。

 


   

●藤崎麻里「溺れる人」 ★★★

  

  
2005年02月
中央公論新社

(1800円+税)

 

2005/03/05

 

amazon.co.jp

表題作の「溺れる人」、昨年8月読売新聞朝刊に6日間にわたって連載されたときに読み、その壮絶さに胸がいっぱいになりました。今回単行本になって改めて読み直したのですが、その壮絶さに圧倒され、胸がいっぱいになったのは以前と少しも変わりません。
本作品は、麻里さんが23歳の時からの7年間、アルコール依存症に苦しんだ日々を書きつづった記録です。

今回他の受賞作と一緒に読むと、「溺れる人」が他の受賞作をはるかに超えて秀逸な作品であることがよく判ります。
他の作品もそれぞれに筆者の今日に至るまでの苦労を描いていますが、そこに在るのは基本的に“肯定”です。しかし、「溺れる人」は全く違う。敢えて言うならば“懺悔”なのです。
酒に溺れ、そこから抜け出したいと何度あがいても抜け出せない日々、愛する人たちの気持ちを思って苦しむ日々。現在はその地獄から抜け出したといっても、そこに満足感などあろう筈がありません。
本作品はまず文章がいい。悲惨な状況を率直に語っていながらもどこか小気味良さがあります。そして、医師によるアルコール依存症の説明を合間に交えながら、それを実証するかのように自らが辿った経緯を語るという構成が巧みです。本作品はノンフィクションですけれど、小説であっても名作であったことでしょう。読む側にとっては事実だろうと小説だろうと関係なく、感動に胸がいっぱいになることを留めることはできません。
「好きでお酒を飲んでるのではありません」、「酒がいちばん大事なのではない」、「主人に離れていかれるのが、何より怖いことだった」・・・本作品には一度読んだら忘れられない言葉がいくつもあります。
若い女性がこうした経歴を赤裸々に語るのは勇気のいることだったでしょう。でも、この作品には多くの人へのメッセージがこめられています。だからこそ、この作品を書いてくれたことを麻里さんにありがとうと言いたい。

「夜はこれから」
職を失い貧乏な未婚の状況から子供を産み育てた半生記。
「人生どんとこい」
病気や失敗を乗り越えて目一杯に生きた半生記。
「夏樹と雅代」
脳性麻痺の姉から学ぶことを知った思い出の記。
「自分を信じて」
ブロードウェイの舞台に立つという夢を実現する迄の苦闘記。

  


     

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