表題作の「溺れる人」、昨年8月読売新聞朝刊に6日間にわたって連載されたときに読み、その壮絶さに胸がいっぱいになりました。今回単行本になって改めて読み直したのですが、その壮絶さに圧倒され、胸がいっぱいになったのは以前と少しも変わりません。
本作品は、麻里さんが23歳の時からの7年間、アルコール依存症に苦しんだ日々を書きつづった記録です。
今回他の受賞作と一緒に読むと、「溺れる人」が他の受賞作をはるかに超えて秀逸な作品であることがよく判ります。
他の作品もそれぞれに筆者の今日に至るまでの苦労を描いていますが、そこに在るのは基本的に“肯定”です。しかし、「溺れる人」は全く違う。敢えて言うならば“懺悔”なのです。
酒に溺れ、そこから抜け出したいと何度あがいても抜け出せない日々、愛する人たちの気持ちを思って苦しむ日々。現在はその地獄から抜け出したといっても、そこに満足感などあろう筈がありません。
本作品はまず文章がいい。悲惨な状況を率直に語っていながらもどこか小気味良さがあります。そして、医師によるアルコール依存症の説明を合間に交えながら、それを実証するかのように自らが辿った経緯を語るという構成が巧みです。本作品はノンフィクションですけれど、小説であっても名作であったことでしょう。読む側にとっては事実だろうと小説だろうと関係なく、感動に胸がいっぱいになることを留めることはできません。
「好きでお酒を飲んでるのではありません」、「酒がいちばん大事なのではない」、「主人に離れていかれるのが、何より怖いことだった」・・・本作品には一度読んだら忘れられない言葉がいくつもあります。
若い女性がこうした経歴を赤裸々に語るのは勇気のいることだったでしょう。でも、この作品には多くの人へのメッセージがこめられています。だからこそ、この作品を書いてくれたことを麻里さんにありがとうと言いたい。
「夜はこれから」
職を失い貧乏な未婚の状況から子供を産み育てた半生記。
「人生どんとこい」
病気や失敗を乗り越えて目一杯に生きた半生記。
「夏樹と雅代」
脳性麻痺の姉から学ぶことを知った思い出の記。
「自分を信じて」
ブロードウェイの舞台に立つという夢を実現する迄の苦闘記。
|