鳥越俊太郎著作のページ


1940年生、福岡県出身。毎日新聞大阪本社社会部、東京本社社会部、テヘラン特派員、「サンデー毎日」編集長を経て、89年よりニュースキャスター。著書多数あり。

 


 

●「桶川女子大生ストーカー殺人事件」(鳥越&取材班)●  ★★




2000年10月
メディアファクトリー刊
(1500円+税)

 

2000/10/26

1999年10月26日、桶川駅前で女子大生・猪野詩織さん(21歳)が殺害されたという、未だ記憶に生々しい殺人事件。本書は、報道番組“ザ・スクープ”が5回連続にてこの事件を取り上げた、取材当初からの経過をまとめた記録です。
事件そのものの解明にあたっては、雑誌“フォーカス”清水記者が尽力したとのことであり、本人がその経緯をまとめた遺言という本がやはり今月刊行されています。その「遺言」を図書館にリクエストした時、本書が既に新刊棚にあったことから借り出してきたものです。流れから言うと先に「遺言」を読むのが良いのでしょうが、図書館頼みの身、あまり贅沢は言えません。

第一に感じたことは、ストーカー行為の酷さと被害者家族の苦しみの大きさ。唖然とするばかりです。
第二に、被害者の実像と当初マスコミが与えた印象との大きな差。マスコミの怖さをつくづく思い知ったという気持ち。
第三に、鳥越さんらの報道姿勢の在り方。遺族の気持ちを優先する、事実の究明を重んじる、遺族・警察の両方に公平を努める、その姿勢が前述のマスコミと対照的であり印象的でした。
そして、特に強い印象を受けたのは、被害者の父親に対する鳥越さんの一言。マスコミに不信感を抱き(当然と感じますが)、世間の目から逃れようとする遺族に対して、娘さんのことを思うなら世間の目をにらみ返すくらいでいいのではないか、という意見でした。単なる取材者と取材を受ける側という関係ではなく、お互いの間に信頼関係を築こう、共に事実究明のため闘おう、という鳥越さんの強い意志を感じました。

遺族に対する取材の苦労を経て、テレビ放映という段階に進むと、直接警察との対決が明らかになるため、緊迫感、臨場感を強く感じます。事実を脚色なしに報道しようとする姿勢あってのことだと思います。そこから明白になった事実は驚くべきものでしたが、さらに埼玉県警の調査報告書を読むと、サラリーマン社会特有の上下関係が起因としてあったことが判り、呆然と立ちすくむ思いにかられます。
一市民はとても無力なものです。それに対して、如何にマスコミが暴力的になれるかということ。そして、社会の悪に対しては、社会が一丸となって対抗していく必要がある(本人、警察、マスコミ等)ということを、強く感じさせられた一冊です。

 


 

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