武田頼政著作のページ


1958年静岡県生、京都産業大学卒。「航空ジャーナル」記者を経てフリー。スポーツ界、角界、自衛隊等、多ジャンルでノンフィクションを執筆。

 


 

「桜 華−防衛大学校女子卒業生の戦い− ★★   


桜華

2022年12月
文芸春秋
(1800円+税)



2023/01/09



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幹部自衛官を育てるための防衛大学校が女性に門戸を開いてからちょうど30年だそうです。
本書は、初めて防大に入学して幹部自衛官となった女性自衛官たち一人一人を描いたノンフィクション。

本書には、幹部自衛官が自衛隊の中で辿る道を知る興味と、女性自衛官であるが故の苦労、いや苦闘の様を実感する、二つの面があります。
幹部自衛官については、国家公務員の総合職と似た面があるのでしょう。つまり、最初から幹部になることを前提に教育され、昇任していくという面。
その内容を知るにつけ、単に敵と戦うだけには収まらない、あらゆる面での研究、実践が必要であることを知り、驚くと同時に自分の知識不足を嘆きたくなります。

一方、防大の門戸が女性に解放されたからといって、男女差別がなかったとは言えないし、“配置制限”という任務制限が現実にあったことが語られています。
男女格差という点では、一部を除けば民間企業よりむしろ無いのが自衛隊でしょう。敵の前に男も女もないのですから。
しかし、結婚しても異動によって夫婦別居とならざるを得ない、出産・育児という点では、民間企業より遥かに深刻な面があることもよく分ります。
ただし、上記は幹部自衛官だからこそという面が大きい。

本書に描かれた女性自衛官の問題と、先般報道された女性自衛官へのセクハラ問題は、掛け離れたもののように感じますが、女性自衛官が当たり前のものとなっていけば、後者の問題も自ずと解決していくのではないかと祈りたいところです。

女性たちが社会で男性と同様に働けるようになるために、という点で通じるところもありますし、自衛隊という存在を理解するためにも貴重な一冊であると考えます。 お薦め!


まえがき
1.大谷三穂(海自一等海佐・イージス艦「みょうこう」艦長):普段から死を覚悟して
2.吉田ゆかり(空自衛隊一等空佐・航空幕僚監部総務部広報室長):ブルーインパルスよ東京の空を飛べ!
3.弥頭陽子(陸自一等陸佐・東北方面通信群群長):もう"女子初"なんていらない
4.野呂瀬葉子(陸自三等陸佐・教育訓練研究本部教育部):"国防の最後衛"として
5.佐々木千尋(空自二等空佐・航空幕僚監部航空システム通信隊):仕事と育児は上司との戦い
6.中岡絵梨子(空自二等空佐・宮古島分屯基地司令兼第53警戒隊長):命の覚悟をパイロットに問う
7.大ア香織(陸自一等陸佐・陸上幕僚監部副法務官):ゴジラと憲法9条の狭間
8.岩ア絢子(空自一等空尉・特別航空輸送隊第701飛行隊):「女が戦闘機を操縦しちゃいけないんですか」
9.東良子(海自一等海佐・福井地方協力本部部長):「自分が女だとは思っていない」
あとがき

 


  

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