塩野七生著作のページ No.4



30.小説イタリア・ルネサンス1−ヴェネツィア−

31.小説イタリア・ルネサンス2−フィレンツェ−

32.小説イタリア・ルネサンス3−ローマ−

33.小説イタリア・ルネサンス4−再び、ヴェネツィア−

【著者歴】、海の都の物語・続海の都の物語、マキアヴェッリ語録、ローマは一日にして成らず、ハンニバル戦記、勝者の混迷、ユリウス・カエサル−ルビコン以前、ユリウス・カエサル−ルビコン以後、パクス・ロマーナ、悪名高き皇帝たち、危機と克服

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賢帝の世紀、すべての道はローマに通ず、終わりの始まり、迷走する帝国、最後の努力、ローマ世界の終焉、「ローマ人の物語」スペシャル・ガイドブック、ローマ亡き後の地中海世界

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絵で見る十字軍物語、十字軍物語1、十字軍物語2、十字軍物語3、想いの軌跡、皇帝フリードリッヒ二世の生涯、ギリシア人の物語1、ギリシア人の物語2、ギリシア人の物語3

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30.
「小説イタリア・ルネサンス1−ヴェネツィア− ★★☆
 Romanzo storico Rinascimento Italiano1 Venezia


小説イタリア・ルネサンス1

2020年10月
新潮文庫

(1100円+税)



2020/11/22



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「緋色のヴェネツィア−聖マルコ殺人事件−」(1993年朝日文芸文庫刊)を改題の上大幅改稿した一冊。

朝日文芸文庫で刊行された3巻に、新たに書き下ろす4巻目を加えて4部作として完成する物語の始まり、第1巻。

主人公は、ヴェネツィア貴族の名門ダンドロ家の代表格であるマルコ・ダンドロ。30歳になってすぐ元老院議員となり、また異例の若さで十人委員会メンバーにも選ばれ、オスマン帝国との困難な外交事に関わることとなります。
そのマルコの親友であり、本巻でコンスタンティノープルを舞台に波乱万丈の冒険と挑戦を繰り広げるのが、当時のヴェネツィア元首
アンドレア・グリッティの庶子であるアルヴィーゼ・グリッティ(※なお、この父子は実在の人物)。

ヴェネツィアといえば
海の都の物語、私にとっては初めて読んだ塩野さんの著作だけにヴェネツィアと聞いただけで、ワクワクして来るようです。
しかし、本巻で描かれる時代は、西に
強国スペインを率いるカルロス王東にオスマン帝国を率いるスルタン・スレイマンと、2大君主国家に板挟みにされた苦難の時期。
民主主義を国是とする都市国家ヴェネツィアが生き残るためにと、コンスタンティノープルがオスマン帝国(スレイマン、
宰相イブラヒム)との駆け引き上、需要な舞台となります。

表面的にヴェネツィアの政略と思われるのを避けるために、アルヴィーゼにそのための行動が託されるのですが、アルヴィーゼの真の動機が20代の頃から忘れられる恋を成就するためだったとは・・・。
「聖マルコ殺人事件」という副題の意味が分かるのは、結末まで待つほかありません。

世紀の恋愛劇とも言える内容ですが、その背後にヴェネツィア共和国の歩んだ歴史があるからこその面白さです。
スケール、歴史の面白さ、登場人物たちの個性・存在感と、まさに読み応え存分。

なお、アルヴィーゼと彼の恋人との関係と対照的に映るのが、マルコと
高級遊女オリンピアの関係。高級遊女という存在はその時代のなせる業なのかもしれませんが、興味深いところです。

夜の紳士たち/恥じいる乞食/元首グリッティ/ローマからきた女/舞踏会/船出/「C・D・X」/地中海/コンスタンティノープル/「君主の息子」/奴隷から宰相になった男/スレイマン大帝/二枚の図面/後宮の内と外/ロシア人形/エメラルドの指輪/選択の最初の年/海の上の僧院/迷路/謀略/金角湾の夕陽/断崖/オリエントの風/柳の歌/帰郷/牢獄/謝肉祭最後の日/エピローグ

               

31.
「小説イタリア・ルネサンス2−フィレンツェ− ★☆
 Romanzo storico Rinascimento Italiano 2 Firenze


小説イタリア・ルネサンス2

2020年11月
新潮文庫

(1100円+税)



2020/12/01



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「銀色のフィレンツェ−メディチ家殺人事件−」(1993年朝日文芸文庫刊)を改題の上大幅改稿した一冊。

実際に起きたメディチ一族内での殺人事件を題材にしたストーリィ。
主人公は前作同様、ヴェネツィア貴族の
マルコ・ダンドロ、30代後半。3年間の公職追放を受け、この際ヴェネツィア以外の街も見てみようとフィレンツェにやって来た、という設定です。
そのフィレンツェ、民主主義の都市国家としての存在は失われ、今や
スペイン王カルロスの影響下。

メディチ家の後継者となった現公爵
アレッサンドロ・26歳、分家筋のロレンツィーノ・22歳、ロレンツィーノと又従兄弟の関係にあるコシモ・17歳というメディチ一族内での揉め事に、マルコ・ダンドロと偶然フィレンツェで再会したオリンピアが関わりを持つ、という内容。
1巻目
ヴェネツィアのようなスケールの大きさはなく、所詮一族内での争いごと止まり(フィレンツェ市民にも影響はあるのですが)という印象で、面白さとしては今一つ物足りず。

ただし、後半、マキアヴェッリとも親交があったフィレンツェ貴族で老練な政治家でもある
フランチェスコ・ヴェットーリが、マルコ相手に披露する政治体制論が興味深くかつ面白く、一聴の価値あり、です。

聖ミケーレ修道院/イリスの香り/半月館/メディチ家の人々/晩秋の一日/監獄・バルジェッロ/硬石の器/一つの考え/皇帝の間諜/刑場の朝/トレッビオの山荘/家族の団欒/ラファエッロの首飾り/冬晴れのフィレンツェ/『プリマヴェーラ(春)』/フィレンツェ魂/陰謀の解剖学/壁の中の道/反メディチの若き獅子/糸杉の道/反逆天使/遠方の光/アルノの向こう/エピファニアの夜/二人のマキアヴェリスト/その後

               

32.
「小説イタリア・ルネサンス3−ローマ− ★★
 Romanzo storico Rinascimento Italiano 3 Roma


小説イタリア・ルネサンス3

2020年12月
新潮文庫

(1100円+税)



2021/01/01



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「黄金のローマ−法王庁殺人事件−」(1995年朝日文芸文庫刊)を改題の上大幅改稿した一冊。

主人公
マルコ・ダンドロは本巻で40代前半。
オリンピアと一緒に、いよいよローマに至ります。
そこでマルコは、あらゆることが古代ローマに通じるこの都に見せられる一方、システィーナ礼拝堂の天井画「天地創造」を制作中の
ミケランジェロに出会うことができます。
そしてオリンピアについては、彼女の秘められた過去が明らかになります。

マルコが出逢った“ローマ”とは、古代の面影を未だ持つローマと、現ローマ法王庁なのかもしれません。
本巻は、その両面からローマが描かれます。
法王庁に関わる人物として、
法王パウロ三世の息子であるピエール・ルイジ・ファルネーゼ・34歳、その嫡男かつパウロ三世の孫であるアレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿が登場します。

しかし、古代ローマのイメージが強い所為か、本巻について歴史ドラマという印象は薄い。
本作で印象に残ったことと言えば、マルコにとって自由気ままでもあった<公職追放>という時節の終わり、そしてオリンピアとの関係の決着です。

朝日文芸文庫での刊行はこの3巻までで一旦終わっていたとのこと。当時の読者にとっては、さぞ物足りない、いや中途半端なままに置かれた、という思いが残ったのではないでしょうか。

その点、今回は4巻目も書き下ろされ四部作としての刊行とのこと。3巻まで読んでくるとそれはもう当然のことと思いますし、大いに喜ぶべきこと。
さあ、4巻目が楽しみです。


永遠の都/ミケランジェロ/ファルネーゼ家の人びと/神にも似た芸術家/二人の男/古代への旅/女の怖れ/アッピア街道/ヴェネツィアの貴族/枢機卿ガスパル・コンタリーニ/皇帝マルクス・アウレリアス/プレヴェザの海戦/帰国の決意/別れ/エピローグ

                  

33.
「小説イタリア・ルネサンス4−再び、ヴェネツィア− ★★☆
 Romanzo storico Rinascimento Italiano 4 Ritorno a Venezia


小説イタリア・ルネサンス4

2021年01月
新潮文庫

(1200円+税)



2021/01/31



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四部作の最終巻。そして前三作と異なり、新たな書き下ろし。

主人公である
マルコ・ダンドロが故国から呼び戻され、舞台は再びヴェネツィア。
再び政治の中枢を担うことになったマルコの40代から70代、まさにヴェネツィアが危機に直面する時代が描かれます。

前半は、前三作からの延長という印象。
アルヴィーゼの遺児であるリヴィアのこと。マルコが新たに出会った十人委員会の筆頭秘書官であるラムージオ、ユダヤ人医師ダニエルの言を通じて、ヴェネツィア社会の魅力=“自由”が語られます。
そして当時を代表する画家である
ティツィアーノ、パウロ・ヴェロネーゼ、ティンレットについても語られます。

そして後半に至ると、
スレイマンの跡を継いでスルタンの座についたセリム二世が領土拡張に意欲を抱いたことから、ヴェネツィアの領土であったキプロス島への侵攻が起こり、ここにきてヴェネツィアはトルコ帝国と全面対決するに至ります。
そして、
神聖同盟艦隊とトルコ軍艦隊が激突する“レパントの海戦(1571年)”へ。
両軍が死力を尽くしたこの大海戦場面が本巻の白眉、圧巻です。

しかし、ヴェネツィアを含む神聖同盟側が全面勝利したといっても、動き始めた時計を止めることはもはやできず。ヴェネツィアの困難な状況は変わることはなかったと言うべきでしょう。

最終的に、1797年ナポレオンによって<ヴェネツィア共和国>は終焉を迎えるわけですが、小さな都市国家が1千年以上も存続した偉業はあの<ローマ帝国>の偉業に匹敵すると思います。
なぜヴェネツィアはかくも長い間存続し得たのか、あれだけの存在感を示せたのか。小さな島国である日本は、そこから学ぶことが多いと思うのですが・・・。

塩野七生さんとの出会いは、36年も前に読んだ歴史書海の都の物語から。
その海の都の物語を、長い年月を経て、マルコ・ダンドロという一個人の視点から改めて読み直した・・・読み終えた今、そんな感慨を覚えます。


帰郷/職場復帰/ユダヤ人居留区/医師、ダニエル/女の香り/「タルバ(もぐら)」/音楽会/祖父と孫娘/秘書官ラムージオ/ヴェネツィアの矛盾/尼僧院脱出作戦/ローマ再訪/金角湾の夕陽/時代の変化/ヴェネツィアの芸術家(一)/ヴェネツィアの芸術家(二)/ヴェネツィアの芸術家(三)/対話の醍醐味/舵取りの苦労/マルタの鷹/現実主義者が誤るのは・・・・・/海将バルバリード/血を流さない戦争と、血を流す政治/戦雲にわかに(一)/戦雲にわかに(二)/「火」と「水」/レパントの道(一)/レパントの道(二)/レパントの道(三)/レパントの道(四)/レパントの海/最大にして最後の大海戦/血を流さない戦争(一)/血を流さない戦争(二)/血を流さない戦争(三)/隠退/その後のヴェネツィア

       

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