櫻井よしこ著作のページ


1945年ベトナム生、ハワイ州立大学歴史学部卒。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙 東京支局員、日本TVニュースキャスター等を経て、現在フリー・ジャーナリスト。「エイズ犯罪・血友病患者の悲劇」(中央公論社)にて第26回大宅壮一ノンフィクション賞、「日本の危機」等の業績により第46回菊池寛賞受賞。


1.日本の危機

2.日本の危機2

3.迷走日本の原点

4.日本のブラックホール−特殊法人を潰せ−

 


 

1.

●「日本の危機」● 




1998年8月
新潮社刊
(1500円+税)

2000年4月
新潮文庫化
(552円+税)

 

1998/11/26

日本人が実際に背負っていながら、政治家や官僚に誤魔化されている、 21の問題をクローズ・アップした本です。
とにかく一番に感じることは、日本政府の危機管理能力の欠如
もっとも、選挙権利者でありながらすぐその権利を放棄してしまう我々にも、責任の一端はあると認識せざるをえませんが。
日本は先の大戦後、戦争を放棄しました。でもそれは武力行使のことであって、外交交渉、情報戦争、自国権益の死守まで放棄したわけではない筈です。ところが、戦争放棄の美名の元に、堅持すべき危機管理能力まで放棄してしまったのか、とつくづく嘆きたくなります。
本書で取り上げられた諸問題にしても、状況変化についての認識・対応能力を欠いているからにほかなりません。そもそも、太平洋戦争にあってもそうした能力の欠如をさらけ出した日本軍ではありましたが。

とくに気になったこと:医療費の増大、年金資金のムダ使い、コスト無視の郵貯肥大化、税制の歪み、日本外交のお粗末、少子化問題、農協のための農業政策、脅しに弱い国民性。

誰も止められない国民医療費の巨大化 /年金資金を食い潰す官僚の無責任/国民の知らない地方自治体「大借金」の惨状/族議員に壟断された郵政民営化の 潰滅/新聞が絶対書かない「拡販」の大罪/沖縄問題で地元紙報道への大疑問/朝日新聞「人権報道」に疑義あり /税制の歪みが日本人を不幸にしている/中国の掌で踊る日本外交のお粗末/教育荒廃の元凶は親と日教組にあり /母性は何故喪失したか/少子化は国を滅ぼす/農協は農民の診方か敵か/国民の声を聞かない官僚の法律づくり /スピード裁判なぜできない/政治への無関心があなたの利益を損なう/人権を弄ぶ人権派の罪 /今、女性は輝いているか、自立しているか/優柔不断な青白い官僚たち/事実へのこだわりを忘れた大メディア /闘いを忘れた脆弱な国民性

 

2.

●「日本の危機2−解決への助走−」● ★★




2000年3月
新潮社刊
(1600円+税)

 2002年6月
新潮文庫化

 

2000/04/04

「週刊新潮」に連載されたものの単行本化2冊目。現在の日本の状況、課題をあますところなく的確に指摘している点で、評価できる著書です。
本書でまず取り上げられている問題は、教育の荒廃化。とくに小学校レベルでの問題が重いと著書も指摘しています。その原因として、教育の現場も知らない文部官僚が理屈だけで教育方針を振り回し、その挙げ句に教師自体がマニュアルに頼らないとどう教えて良いのかも判らないという状況に陥っている。
次いで、自衛隊の問題。その法的に矛盾した存在に依存する結果、日本の国防自体が非常に危ういレベルに落ち込んでいる事実。中国、北朝鮮の脅威が増す中で、主体性を持たずに他国(アメリカ)頼みという姿勢が、外国諸国にどのように映っているのか、政治家たちは真剣に考えた事があるのでしょうか。
そして、まるで国民=納税者にたかっているとしか思えない官僚たちの既得益確保。民営化の掛け声の下に多数の団体を作り、天下りして高給を食んでいる事実は、許せないと言う他ありません。
曲がりなりにも民間が必死になっているのに対し、政治家・官僚たちの危機意識は、日本国についてより、自分達の地位・利益の固持ばかりという気がします。所詮、大きくなりすぎた組織は、組織維持がその目的となり、変化に対して柔軟な対応力を欠くという、典型的な見本と言えるわけですが、あまりにも情けない。
しかし、櫻井さんが言うように、絶望することはない。民間では役所に頼らず自力で道を切り開いている動きもあるし、ドイツ等他国では既に実践しているところもあります。見習うべき例は多くあるのです。ただ、上級官僚は余りに秀才に過ぎ、自負が強過ぎるというか....

家庭教育が招いた「学級崩壊」 /変わった子供と変わった親が増えている/教育を荒廃させる文部官僚たち/学生たちの学力低下は何故起きたか /幼児虐待の悲劇が止まらない/少年犯罪大国を招いた少年法の理不尽/日本よ、米中の狭間に埋没するなかれ /知られざる中国の軍事力の脅威/手足を縛られた自衛隊に何ができるか/地方自治の崩壊、大分、高知のケース /「箱物」建設で税金を浪費する自治体の犯罪/自治体の高金利土地買取りの野放図/年金資金を食い潰す厚生族の背信 /環境汚染行政はこれでいいのか/ゴミ大国の汚名は返上できるか/郵政省独占事業必要論の欺瞞 /警察腐敗の原因はキャリア制度にあり/新たな薬害「ヤコブ病」を放置した厚生省の卑劣 /労働組合に覇気なし理想なし/金融危機は終わっていない/日本を狙い撃ちするヘッジファンド /国籍の意味を忘れた日本/北朝鮮闇送金ルート脅威の実体/拉致問題を棚上げした日朝国交正常化交渉の裏切り

   

3.

●「迷走日本の原点」● 




2001年4月
新潮社刊
(1300円+税)

2003年4月
新潮文庫化

 

2001/05/16

題名だけで本書の内容を推測することはできませんが、読んでみると、この「迷走日本の原点」という題名が如何に適格に内容を表しているか、がよく判ります。
過去に読んだ「日本の危機」2冊は個別の問題について具体的な言及を行い、問題点を明らかにしたものですが、本書の内容は少し違います。即ち、個別問題についての印象は弱い。その代りに浮かび上がってくるものは、今の日本に自立した国家意識というものが如何に欠如しているか、ということです。これは、政治、官僚、国民、各々において言えることであり、各々責任を分かち合うべきことでしょうが、最も責任が重いのはやはり政治=政治家と思わざるを得ません。
そのことは、第2章「経済至上主義が日本を呪縛する」が象徴的に表しています。池田元首相が言い残したという、「自分は国民を甘やかす政治をしてしまった」という言葉は、とても大きな意味を持っています。その結果として、国家意識、国防意識を欠いた戦後日本を作ってしまった、という自戒の言葉らしい。
本書で取上げられたその他の点でも、戦後における政治の舵取りがすべてだったと言って、言い過ぎではないと思います。その意味で、今の日本が迷走を続け、脱却する気配すら感じられないことの原点は、戦後政治にあったのです。本書の内容および題名の意味を、私はそう理解しました。

自立的日本人をつくるために/行革を骨抜きにする官僚たちの反撃/経済至上主義が日本を呪縛する/生き残った系列システムの毒素/憲法改正がいつも挫折する理由/税制が日本人の自立を阻んでいる/平等教育が学校を崩壊させた/国籍と参政権を曖昧にするなかれ/防衛意識が育たないこれだけの理由/国益を見失って久しい外務官僚/バラマキ農政のアリ地獄ふたたび/フリーター二百万人の漂流

  

4.

●「日本のブラックホール−特殊法人を潰せ−」● ★☆




2001年8月
新潮社刊
(1400円+税)

 

2001/09/22

小泉首相の、道路公団を代表例とした特殊法人改革方針を受けて、急遽出版された観のある本書ですが、櫻井さんらしく、内容は明解に判り易くまとめられています。
本書で明記されることが事実なら、「改革」という言葉さえ生温いと言いたくなる程の特殊法人の実態ですが、現実を直視するなら、その内容でさえホンの氷山の一角だろうと思うのです。
小泉首相の主張する特殊法人改革、民営化路線が正しいのか、自民党族議員が主張する従来路線が正しいのか、今後それらを判断していくためには、場当たり的なニュース、新聞記事等だけでなく、本書のようなまとまった意見も読んでおく必要があると思います。
まず取り上げられているのは日本道路公団。道路公団のみならず、特殊法人の実態を知ると、絶望感、暗澹たる気分に捕らわれます。現状が悪いだけではないのです。今後ますます悪くなり続けることが、あまりに明白! そんな窮状を招いた理由は、ひとつには政治家および高級官僚の自己権益の為に言いように利用されてきたこと、ひとつには企業会計のような会計処理がなされていない為ずっと財務実態が隠されてきたこと、にあります。減価償却がなされていないなどは、考えられないこと!
日本道路公団については、その事業内容が旧国鉄に似ており、旧国鉄に比較することでより理解がし易いものです。そして、その資産・財務状況は旧国鉄よりはるかに悪いというのですから、驚くというより唖然とせざる得ません。最終的には、旧国鉄がそうであったように税金、つまり国民にそのつけが回ってくることはほぼ間違いないことでしょう。
一体、その分誰が得をしてきたのか。国民の一部も得をしたということは否定できないでしょう。しかし、それ以上に政治家、高級官僚が利益をむさぼってきた事実は、もはや明瞭。そして、何故そんなにも思うまま権益を手中にしてこれたのかと言えば、政治家および高級官僚が一緒になって国民を騙し続けてきたからこそでしょう。つまり、政官共謀による大々的な“詐欺”です。
それを象徴するようなエピソードが本書に書かれています。「どんな虚構の論を展開しても目が動揺の表情を見せなくなるところまで訓練をつんだ時に、彼の所には重要な仕事が回ってくるようになったというのだ。」(本書77頁)
石油公団の章も印象に強く残りました。富士急グループの経営経験ある堀内元通産大臣が、石油公団の杜撰会計を糾弾したのに対し、前後の通産大臣経験者2人の意見はまるで正反対。
基本的に、官庁にはスクラップ・アンド・ビルトの発想がないところが問題。特殊法人の不要を指摘されると、さらに事業を拡大することでそれを守ろうとする。その代表例のひとつが、郵便貯金でしょう。そしてまた、郵貯が資金を集めまくったからこそ、特殊法人へジャブジャブと資金を回すことができたのであり、特殊法人改革においては郵貯も大きな課題だろうと思います。

日本のブラックホール・特殊法人77の犯罪/未曾有の大赤字法人・日本道路公団/赤字にまみれた夢の架け橋・本州四国連絡橋公団/再建は可能か、再び日本道路公団/巨大な遺物・住宅金融公庫/終わりなき自己増殖・都市基盤整備公団/サッカーくじtotoと文部官僚の暗躍/水資源開発公団・不自然な水とのつきあい方/国有銀行・郵貯の暴走を許すな/石油公団・杜撰経営と通算官僚の隠蔽工作/<小泉首相特別対談>焼け太りした郵政省を監視せよ/※特殊法人リスト

 


 

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