NHKスペシャル取材班著作のページ



1.日本海軍400時間の証言

2.職場を襲う「新型うつ」

3.老後破産

4.「母親に、死んで欲しい」

5.高校生ワーキングプア

 

         

1.

「日本海軍400時間の証言−軍令部・参謀たちが語った敗戦− ★★☆


日本海軍400時間の証言画像

2011年07月
新潮社刊

(1700円+税)

2014年08月
新潮文庫化



2011/09/17



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2009年08月、3夜連続で放映されたNHKスペシャル番組の裏舞台をまとめた一冊。

終戦後、日本帝国海軍のOB組織である水交会で、生き残った軍令部を中心とした参謀たちによる「海軍反省会」が非公開という前提の下に、1980年から1991年まで12年間にわたり 計131回行われていたのだという。
その話をNHKの担当者が聞き知ったのは2004年08月のこと。
そしてその録音テープを入手した時から、本番組の制作計画が始まったのだそうです。
番組の基本コンセプトは、その中に低迷する現代の日本社会に共通する問題点があるのではないか、ということ。

ポイントは次の3点に絞られます。
1.何故、太平洋戦争の開戦はなされたのか。何故海軍は反対を貫かなかったのか。
2.特攻とは何だったのか。誰が命じたのか。(特攻が兵士から自主的に生まれたという論述の虚偽を明らかにする)
3.東京裁判において、何故海軍は陸軍に比較して、圧倒的に戦争犯罪人と指定された軍人が少なかったのか。

反省会といっても、どこまで真摯に反省が行われたのか、率直に言って疑問を感じざるを得ません。それはきっと取材した人たちも同じ気持ちだったことでしょう。
自分に責任がないことであれば、上層部の判断・行動についてあれこれ指摘する。一方、特攻については、形式的には決裁ラインにいなかったというものの実情は無関係と言い難い。すると口をつぐんでしまう、というパターン。
そもそも、戦後日本において戦争について真剣に反省がなされたのか?といえば、国も国民もついにそれをしなかったと言わざるを得ません。そしてそれが、現代日本の政治の低迷に繋がっているということも事実でしょう。
戦争を起し侵略した側でありながら、原爆投下により被害者という意識が広まってしまい、「終戦」という言葉で敗戦の事実をカモフラージュする。さらに「戦争放棄」という言葉の元に戦争責任のことはさも忘れてしまおうというように。
客観的に見て負けると判っているバカな戦争を誰が始めたのか、その原因はどこにあったのか、参謀たちも「もはや作戦とは言えない」という非道な特攻という戦法を誰が若者たちにやらせたのか、それらは結局きちんと整理されていないままここまで来てしまった
と言わざるを得ません。

反省のないところに改善も進歩もない、東日本大震災、福島原発事故をみても感じられることです。
本書を読んで、それらの真相が判るという簡単なものではありません。でも、明らかにされていないままという事実を知るだけでも、これからの一歩に繋がる気がします。
考え、そして学ぶべきところの多い、貴重な一冊です。

プロローグ(藤木達弘)/超一級資料との出会い(右田千代)/開戦 海軍あっての国家なし(横井秀信)/特攻 やましき沈黙(右田千代)/特攻 それぞれの戦後(吉田好克)/戦犯裁判 第二の戦争(内山拓)/エピローグ(小貫武)

               

2.

「職場を襲う「新型うつ」」 ★★


職場を襲う新型うつ

2013年04月
文芸春秋刊

(1300円+税)



2013/05/07



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若年層に急増しているという「新型うつ」。つい見逃してしまいそうになるのですが、後ろに“病”がつかないのだとか。
その理由は正式な病気として認定されていない為、だそうです。
だからこそ厄介だという。
つまり「うつ病」のようなはっきりとした症状、治療法がないのだそうです。その一方、会社で仕事に従事することはできないと言いつつ、ブログやツィッターで元気な様子を見せたり、海外旅行にまで出かけていく新型うつ者もいるという。単なる怠けなのではないか?と誰しも思いがち。
長期休務をとったそれらの人のカバーをするため、職場の人たちが余分に仕事を抱えこんでいるという状況の一方でそんな様子をみせられると、職場のモチベーション低下という事態にも繋がるという。

2012年04月放映のNHKスペシャルを単行本化した一冊。
そうした「新型うつ」の一因として、若年層のストレス耐性が弱化していることが挙げられるという。
私も実際に職場で「新型うつ」と届け出る人に出会ったらどう行動するか自信はないのですが、当事者たちばかりを非難することはできないのだろうな、と思います。
即ち、彼らをそうしてしまった責任は、親世代である我々にもあると思うからです(即ち、学校から競争を失くす、楽な方楽な方へと歩ませてしまった等々)。したがって職場等において本人が戻れる態勢作りが重要という意見には同感です。
若年層で増加しているという事実には憂いを感じますが、知っておくべき「新型うつ」の実態を知るうえで為になった一冊。

プロローグ−全国に広がる"負のスパイラル"/疲弊する職場−2200社アンケートの衝撃/いま、職場で何が起こっているのか/"新型うつ"は病気か?怠けか?/"新型うつ"回復への道のり/(colum:"新型うつ"と教育との関連性・社会学の見地から・医学の領域を超えて)/企業が始めた「復職」への取り組み/「私はこうして"新型うつ"を克服した」/おわりに−若者は「時代のカナリヤ」−現象が拡大する前に対策を(江川紹子)

           

3.
「老後破産−長寿という悪夢− ★★


老後破産

2015年07月
新潮社刊

(1300円+税)

2018年02月
新潮文庫化



2015/09/06



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年金だけでは生活できない、預貯金もない。といって生活保護の受給申請は申し訳ないという思い、受給できないという誤解。また、世間体を気にする身内の思惑によって受給や介護サービスを利用できない等々。その結果として、極限まで食費を削る、具合が悪くても病院に行かない、等々。
考えてみればすぐ想像つくことでしょうけれど、と言って想像してみようとも思わないこと、具体的な実例をこうして数々あげられ、「むしろ死にたい」という声を聞くと、身につまされる思いです。

本書に取り上げられている人たちに多く共通する点は、結婚しておらず近い身内者がいないこと、現役時代に働いての収入が不安定だったりしたこと、貯蓄ができていなかったこと、年金納付が十分ではなかったこと、等々。その中で特に悲惨なのは、中年の子が失職して生活を親の年金に頼る、という状況。
なお、都会生活だけでなく、農地を手放せない農村地域の老人たちの状況も心配だと言います。

現時点の状況にも勿論課題を感じますが、それ以上に気になるのは将来のこと。年金額は減額される方向の上に、フリーター等の非正規雇用者が増え、若い年代での結婚率が下がっている。
対策としては夫婦共稼ぎで現役時代の収入・貯蓄を増やすとなると、育児サポートが欠かせません。生活費の高い都会ではなく、安い地方への居住分散ということも、地方活性化の課題ということもあり重要ですが、現実は中々進みません。

こういう時にすぐ思い出してしまうのは、高校時代に読んだ
オルダス・ハックスリー「すばらしい新世界」。当時は遠い未来の絵空事と思っていましたが、今はもう目の前に迫った現実、と思えてきます。

序章.「老後破産」の現実/1.都市部で急増する独居高齢者の「老後破産」/2.夢を持てなくなった高齢者たち/3.なぜ「老後破産」に陥るのか〜社会保障制度の落とし穴/4.地方では見えにくい「老後破産」/5.急増する「老後破産」予備軍/終章.拡大再生産される「老後破産」

          

4.

母親に、死んで欲しい−介護殺人・当事者たちの告白− ★★


母親に、死んで欲しい

2017年10月
新潮社刊

(1300円+税)



2017/11/18



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表題からして、まず他人事ではありません。
自分自身が高齢化してきて、さらに親はもっと高齢化している。
いつ何時、自分が同様の状況に追い込まれても不思議ではない、そんな気持ちで読み進みました。

調査した2010〜15の6年間に介護殺人(未遂・傷害致死を含め)は 138件発生。しかも、77件中、介護1〜5年の間に起きたものは26件、1年未満で起きたものが20件。
また、67件中、50件において何らかのサービスを利用しており、全くの孤立状態ということではなかった、ということです。

具体的事例が11件紹介されています。
印象的なことは、殆どの加害者が真面目に介護に取り組んでいたこと。そして、介護離職という深刻な問題。
介護で散々苦しみ、苦しんだ末に犯行に及んでしまい、さらにそれを検察官・裁判官から糾弾される(執行猶予を受けるケースもあれば実刑を受けるケースもあり)。
そう思うと、被害者側の人権は重視されるものの、介護者側の人権は擁護されないのか、という疑問を抱かざるを得ません。
最低限の生きる権利も介護者には認められないのか。

人間の尊厳とは、何なのでしょう。
死んでさえいなければ、生き続けるという選択肢しか人間は許されないのでしょうか。一旦介護者側に回ってしまったら、その人は全てを犠牲にし続ける他ないのでしょうか。
行き着くところまで行けば、それは安楽死の是非という問題に行き着くのでしょうが、人間としての尊厳が守られてこその“生”と思うのですが・・・。


はじめに/1.介護は突然、始まった/2.別人のようになった妻でも離れたくない・・・/3.夫の介護は、私しかできない/4.介護離職の先にあるもの/5.事件の境界線はどこにあるのか/6.悲劇を未然に防ぐことはできるのか/終章.介護殺人を追って/あとがき

         

5.

「高校生ワーキングプア−「見えない貧困」の真実− ★★


高校生ワーキングプア

2018年02月
新潮社

(1300円+税)

2020年11月
新潮文庫



2018/03/09



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2017年02月12日に放送されたNHKスペシャル「見えない“貧困”〜未来を奪われる子どもたち〜」をベースにした書下ろしとのこと。

きちんと目を向けてれば気づく問題だったのかもしれませんが、きちんと見ずに済ませていた問題、という気がします。
“貧困”というと生きるか死ぬかの瀬戸際にあるという問題と捉えがちですが、本書でルポされているのは
“相対的貧困”
つまり平均的な家庭像に較べるとギリギリの生活を余儀なくされているという状況のこと。
その結果が現実的に現れるのは、高校生たちにおいて。
つまり、バイトによって働き手ともなり得、同時に進学という経済的悩みを余儀なくされるという点で。
バイト収入は小遣い稼ぎに留まらず家計の支えとなり、人手不足であるが故に労働力として重宝されますが、その結果本分である勉学が厳しい状況に追い込まれる。

本書では、懸命に頑張っている高校生やその弟妹たち、シングルマザーたちの姿が描き出されています。
何とかギリギリで頑張っている。ギリギリだから貧困そうには見えないが、何か事が起これば生活は破たんしかねません。
副題にある
「見えない貧困」とは、気付かれにくい、理解されにくい貧困のことであると、本書を読んでようやく知ることができました。

今、盛んに高齢者問題、介護問題が謳われていますが、高校生の貧困問題はそれ以上に重要な問題であると言えます。
つまり、高校生たちが将来に夢を描けるかどうか、という問題にかかわっているのですから。
本書を読んで、彼らの姿に感動を覚えると同時に、胸に痛みを感じました。この問題が、本書によって少しでも多くの人に伝わりますように。

※我が家の息子と娘2人とも、日本学生支援機構の奨学金を借りて大学進学費用を賄いましたが、いざとなれば親が肩代わりできるという状況での借金。
その当てがない多額の借金は、高校生にとって余りに重い、と感じます。


序章.働かなければ学べない/1.家計のために働く高校生たち/2.奨学金という"借金"を背負って進学する高校生たち/アルバイトで家計を支える高校生たち/4.「子どもの貧困」最前線を追う/5.「見えない貧困」を可視化する

    


 

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