国分 拓(こくぶん・ひろむ)著作のページ


1965年宮崎県生、早稲田大学法学部卒。現在NHK・大型企画開発センター専任ディレクター。2011年「ヤノマミ」にて石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞および第42回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。


1.ヤノマミ

2.
ノモレ

 


     

1.

「ヤノマミ」 ★★          大宅壮一ノンフィクション賞


ヤノマミ画像

2010年03月
NHK出版

(1700円+税)

2013年11月
新潮文庫



2011
/05/02



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“ヤノマミ族”はアマゾンの奥深く、ブラジルとベネズエラに跨る広大な森に生きる先住民で、推定25千人から3万人が2百以上の集落に分散して暮らしているとのこと。
本書は、ドキュメンタリー番組制作のため、2007年11月から翌年12月にかけての4回に亘り、ワトリキというヤノマミ族の集落に同居した体験を記したノンフィクション。
ワトリキの集落では、輪の形をした一つの大きな家に 167人が共同して暮らしていたという。

文明社会から隔絶したアマゾンの奥地、森の中での生活だけに、自然に沿った、自然と共存した生活。
男女とも全裸に近い生活なので、セックス面は大らか。でも各々の思いもまた大らかとは限らない、というところはやはり人間らしいと、可笑しくもあり共感するところもあり。

その一方、生と死について絶句するような慣行もある。女たちは森に入って出産し、生まれたばかりの子を精霊として返すのか、子として育てるのか、それを決めるのは産んだ女自身。生死を分かつ冷徹さ、厳しさには、圧倒されるばかりです。
それは女の世界のことであり、男が口を挟むことではないとされている理由は、男には耐えられないことだからかもしれません。ふと、ヘミングウェイの、インディアン部落での出産場面を描いた短篇を思い出します。

本書を読んで、ヤノマミ族社会と文明社会との差を比較することに意味はありません。この地で長く生き続けてきたヤノマミ族には、彼らなりのルールがあるのですから。
取材班が、比較、批評をするのではなく、ただ彼らの実態をルポすることに務めたのは、当然のことと思います。
本書は、その貴重なルポの記録、として読むべきでしょう。 

闇の中で全く知らない言語に囲まれた記憶/深い森へ/雨が降り出し、やがて止む/囲炉裏ができ、家族が増える/シャボリとホトカラ/女たちは森に消える/シャボリ・バタ、十九度の流転/彼らは残る/僕たちは去る

   

2.

「ノモレ ★★☆


ノモレ

2018年06月
新潮社

(1600円+税)

2022年05月
新潮文庫



2018/07/24



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2016年8月7日に放映されたNHKスペシャル「大アマゾン 最後の秘境」第4集「最後のイゾラド 森の果て 未知の人々」の取材から生まれた一冊とのこと。

“イゾラド”とは、文明と接触したことがない、あっても偶発的なものに限る先住民のこと、だそうです。
ペルー・アマゾンの奥地にイゾラドが現れたという知らせ。
先住民
<イネ族>の一人ながら、中心都市の専門学校で経営学を学び、現在は政府と先住民との仲立ち役を果たしているロメウ・ポンシアーノ・セバスチャン36歳は、政府の依頼でイゾラドが現れたという奥地の監視拠点へ向かいます。

実はロメウたちイネ族には、長老たちから言い伝えられている物語があった。それは 100年前、白人たちに強制労働させられていたイネ族が白人たちを殺して逃走し、追手から逃れるために2手に手に別れたという事実。
今回現れたイゾラドはその
ノモレ(仲間、友)ではないか?という思いを抱きつつ、ロメウはそのイゾラドのクッカ一家と接触することになります。 

川を境にして向かい合う、文明を知らぬ先住民と、文明を知る先住民。先祖が使っていた言葉に似ていて通じはするものの、ものの考え方が大きく異なり、ロメウはまるで手探りするように彼らとの関係を繫いで行こうとします。
本書は、ロメウとイゾラド一家との経緯を辿ったドキュメント。

両者は極めて対照的。どう違うのかというと、生活実態が充足しているものと充足していないものの違い・・・と、簡単に言えるものではないと次第に感じてきます。
森の中の生活は、そこにあるもので十分成り立っていたという。ところが、街へ出たことによってかえって不自由なことも生じている。恵まれているのは、ロメウ側なのか、それともクッカ一家側なのか、簡単にどちらとも決められない気がします。

本ドキュメントの中には、人間の在り方の根幹に関わる深い問題点が横たわっているのではないか。
本書を読んだ意義を、そこに見出した気がします。


序 生き残った者たちが言い遺した話/第一部 救世主の山へ/第二部 川を渡り来る者/そして、流木は大河を彷徨う

   


  

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