笠原英彦著作のページ


1956年生、慶応義塾大学卒、同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。慶応義塾大学法学部教授、法学博士、スタンフォード大学訪問研究員。専攻は日本政治史、日本行政史、皇室制度史。

 


             

「皇室がなくなる日−「生前退位」が突きつける皇位継承の危機− ★★


皇室がなくなる日

2012年02月
新潮選書刊
(1300円+税)



2017/05/01



amazon.co.jp

若い男性皇族はたった一人で、それ以外は皆女性皇族、しかも皆が適齢期というのが現在の皇室の状況。
今や待ったなし、という危機的状況にあるとしか思えないのですが、今上天皇の生前退位問題ですらやっとこさという有り様で、
女系天皇女性宮家という肝心の問題は少しも進まず。
以前から個人的にはいろいろ考えてきたのですが、一度整理して考えてみようと手に取ったのが本書。
問題点を整理して改めて考えてみるためには、格好の一冊でした。

本書は3部構成。
まずは、神話による成り立ちから、
天智・天武・持統という3天皇時代での転換。
何故、天皇の血筋にあれだけこだわるのかという問題はともかく、天智前までは
“世代間継承(兄弟)”が通例。それを天智が“直系継承(親子)”を進めようとしたために天武による壬申の乱が起き、それなのに持統が天智以上に血筋にこだわったという歴史的事実。
そして第2部は幕末から明治にかけての天皇制国家の成立経緯等あれこれ。
そして第3部は、現在の皇室を取り巻く状況について。

こうして歴史を踏まえて考えてみると、天皇という存在感の大きさを感じると共に、所詮その時その時の状況があって
“万世一系”が維持されてきたことがはっきりと認識されます。
過去は、側室を何人も持つことが出来る時代でしたし皇族も多くいました。
しかし、今や側室など許される時代ではありませんし、天皇家といえども少子化の時代、そのうえ女性皇族は結婚すれが皇籍離脱という定め。それにもかかわらずこれまで通り皇位継承を男系男子に限定するのは、皇統が断絶しかねない畏れ大と思わざるを得ません。
皇室が消滅しても良いのか、昭和天皇を軸として考えた場合に傍系男子の皇族復帰による皇位継承と直系女帝による継承とどちらが納得できるかを考えれば、おのずと考えは定まってくるように思います。

日本国民にとっても喫緊の問題。多くの人が一人一人考えてみることが必要だと思います。


第T部 古代日本の天皇制国会−律令国家の形成
1.記紀神話を造った古代人の知恵−現人神としての天皇/2.女帝の世紀と王位継承の異変−譲位・重祚・称制/3.王権としての「天皇制」−天皇制国家の形成と譲位の慣行/4.脆弱であった天智・天武の二大政権−持統女帝のみた実相/5.天皇制国家の成立と皇位継承−不比等政権の実力
第U部 近代日本の天皇制国家−明治国家の建設
1.欧米列強の外圧と幕末の天皇/2.再び求められた天皇制国家−近代への胎動/3.形骸化された「天皇親政」/4.明治憲法体制と旧皇室典範
第V部 皇統の危機に直面する現代の日本
1.象徴天皇制度と現行皇室典範/2.皇位継承問題とは何か/3.皇統の危機とどう向き合うか

  


 

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