金成隆一(かなり・りゅういち)著作のページ


1976年生、2000年朝日新聞社入社。大阪社会部、米ハーバード大学日米関係プログラム研究員、国際報道部等を経て、14年 9月からニューヨーク特派員。

 


       

「記者、ラストベルトに住む-トランプ王国、冷めぬ熱狂- ★★


記者、ラストベルトに住む

2018年10月
朝日新聞出版

(1400円+税)



2018/12/18



amazon.co.jp

米国大統領の選挙戦中、トランプ支持者の肉声を「ルポ トランプ王国-もう一つのアメリカを行く」としてまとめた筆者が、大統領就任後の一年半、米国の中西部、ラストベルト(さびついた工業地帯=Rust Belt)に住み込んで綴った新たなルポ。

本書内容について筆者曰く、
第1章:選挙後、日常に戻ったラストベルトの人々の暮らし
第2章:
オハイオ州トランブル郡ウォーレンでのアパート生活
第3章:トランプ当選を機に蠢き始めた白人民族主義者の動向
第4章:トランプ就任後、各地で抗議運動を展開する人々のこと
第5章:トランプが正しい選択だったか、迷い始めた人々のこと

前半、外から見るトランプの姿と、米国中西部から見えるトランプの姿には大きな違いがある、ということをまざまざ感じさせられた思いです。
工場の閉鎖により就くべき仕事がない、東西海岸地域との大きな貧富差、将来への希望のなさ、等々。
でも何故こんな格差が、一国の中で生まれたのでしょうか。
そこには利益さえ出せば経営者として評価される、巨額の報酬が得られるという流れがあり、そこにおいて工場労働者の生活のことなど一顧にされず、されてこなかったという現実があるのではないか。富の分配どころか、富の少数集中という仕組みにも社会的問題があるのではないかと感じた次第です。
これまでのどの政治家も、まるで自分たちの生活を改善してくれなかった、そんな感情がトランプ支持に向かったという解説は、当然の傾向として受け留めざるを得ません。

後半は一転、白人そして男性優位社会を露骨に目指すトランプへの、女性たちの畏怖、マイノリティーたちの懸念が根強く広がっている事実を肌にしみて感じます。
銃規制を全く考えようともせず、むしろ抑圧しようとするかのような政治家ならびに政治団体への高校生たちの怒りも、同様のものでしょう。

TVニュースは新聞からだけでは分からない米国の現実、米国民の肉声が、本書においてありのままに綴られています。
何よりも強く感じることは、前半と後半の違いのとおり、米国社会の分断化が強まっていること。
米国内部の“今”を知るのに格好のルポ。お薦めです。


写真で見る、トランプ大統領以後のアメリカ-巻頭/はじめに/プロローグ/
1.日常に戻ったラストベルト/2.この街でアパートを借りる?/3.貧困につけこむ白人民族主義/4.抵抗のうねり/5.揺れる人々/6.軋むアメリカ/エピローグ/おわりに

   


  

to Top Page     to エッセィ等 Index