井原万見子
(まみこ)著作のページ


1963年和歌山県旧美山村(現日高郡日高川町)生まれ。イケモト書店枚方本店勤務を経て、95年イハラ・ハートショップのひとり店長になる。
「わたしは田舎の本屋さん」(「食農教育」2001.09〜02.07)、「小さな田舎の本屋通信」(「日高新報05.11〜07.06」)、「ようこそ !山の本屋へ」(朝日新聞和歌山版07.06〜08.05)等を連載。

  
イハラ・ハートショップHP → http://www5.ocn.ne.jp/~i-heart/


 


   

●「すごい本屋! IHARA HEART SHOP」● ★★




2008年12月
朝日新聞出版
(1600円+税)

 

2009/02/01

 

amazon.co.jp

書店店頭で本書を見たとき、いくら何でも大袈裟な!と思ったのですが、読み終わった今、この本屋さん、そして店主の井原さんは凄い!と心から思います。
本好きの人であれば、本のテーマパークに足を踏み入れたような楽しさをきっと感じるであろう一冊です。

著者の井原万見子さんが伯父さんから引き継いだのは、和歌山県中央部の山の中、美山村(現日高川町)にある僅か20坪程の小さな本屋さん。
平集落にあるたったひとつの小売店であるため、頼まれてお菓子や日用雑貨まで取り扱っている店でもあります。
本屋さんなのに何で「ハートショップ」という名前? 私はまず不思議だったのですが、その名前の由来を伺うととても愉快。それは本書を読んでのお楽しみです。

人口の少ない山の中の本屋さん、いくら住民から頼りにされる貴重な存在とはいえ経営は大変だろうと思ったのですが、ひとり店長の井原さんのバイタリティが凄い。
周辺の学校図書館巡回販売の営業に取り組んだり、生徒たち自身いによる選書会を提案したり、絵本の読み聞かせを始めたりと。
自分の城が小さいから、待っているだけでは何も始まらないからと自ら外に出て行く姿勢は、七つの海を支配したかつての大英帝国のチャレンジ精神に通じるものではないだろうか、と思いました。
そのうえさらに、交通費節約のために夜行バスを利用して何度も東京の出版社等々を訪れ、絵本や児童書の幾人もの人気作家の原画展、おはなし会、サイン会等々を実現してしまうのですから、何でもやってみようとすれば出来るものだなぁと、感じ入りました。
もちろん井原さんだけの努力では実現しないこと。本好きな子供たちのため遠くから足を運んでくれた作家さんたち、企画への強力を惜しまなかった取次、出版社の人たちの協力もあってのことですが、その根底に、本が好きな人たち、子供たちの気持ちに応えようとする熱い気持ちがあればこそと思います。その熱い思いが感じ取れるところが、本書を読んで得られる喜びです。

大きな書店ではなく小さな本屋さんにこそ、本に触れる喜びを知る原点があると思います。
私が本好きになった入り口も、小学校の門前にある文房具屋兼書店の小さな本屋さんからでしたから。そこで私はエラリー・クィーンの国名ミステリやE・E・スミス“レンズマン”シリーズを知り、広大な読書の海にはまり込んでいったのですから。
このイハラ・ハートショップ、小さいからこそ大きな世界への広がりを持っている本屋さんではないでしょうか。

山の本屋の春夏秋/冬山の本屋の事件簿/※本屋で出会ったひとびと

   


   

to Top Page     to エッセィ等 Index