林 信吾著作のページ


1958年東京生。83年より10年間英国在住、ヨーロッパで初めての本格的現地発行日本語新聞「欧州ジャーナル」の初代編集長を務める。


1.これが英国労働党だ

2.英国議会政治に学べ

 


   

1.

●「これが英国労働党だ」● ★★




1999年4月
新潮選書刊
(1200円+税)

 

1999/05/17

「英国で如何にして労働党は復活したのか」「一度も政権党を打ち負かせたことがない 日本の社会主義政党とはどこが違うのか」という著者の疑問から書かれた本。
固そうな内容の本ですが、それに似合わず面白いです。
イギリスの社会構造、ソビエト革命、第2次大戦後の保守党・労働党の変遷等が明快に書かれていて、とても判り易いのがひとつ。
また、英国病長期炭坑スト、その後のサッチャー革命と、私も実際にその変遷をニュースで見聞きしてきただけに、謎解きをしてもらうような面白さがあります。
保守党、労働党といっても、必ずしも党内は一様でなく、考え方の違いがあるようです。サッチャーも党内傍流だったと言いますし、労働党を社会主義政党から脱皮させてしまったトニー・ブレアなどが登場してきたりします。そういった変化も、強い信念をもった人物にリーダーシップを委ねるという土壌があるためというのが林さんの分析。また、日本と同じく小選挙区制でありながら、候補者より党首の人気が投票の行方を左右するというイギリスの伝統も大きな要素だと言います。
イギリスが必ずしも優れているとは思いませんが、少なくとも、老人サークルが選挙民を平気で無視し、束になって若手を抑え込もうとしている日本の政権党と比べると、はるかに大人の世界のような気がします。
読みながら、J・アーチャー「めざせダウニング街10番地を思い出しました。未読の方には、本書と併せてお薦めです。

1.英国議会/2.社会主義者たち/3.社会主義英国/4.左翼台頭/5.サッチャー革命/6.労働党再生/7.歴史的勝利

 

2.

●「英国議会政治に学べ」● ★★




2001年1月
新潮選書刊
(1100円+税)

 

2001/02/03

林さんの英国政治の本は、これが2冊目。
冒頭は、英国成立の経緯と政治面の変遷という概略が述べられていますが、説明が明快で判り易く、とても面白いです。何故政治制度を語るについて英国なのか?という疑問も、すぐ納得できます。とにかく英国というのはユニークで、面白い(興味深い)国です。その根本的要因が多民族国家である点にあるとは、これまであまり意識してきませんでした。
日本と同じような島国ですけれど、アイルランド系のスコッツ人の土地(スコットランド)、異邦人の土地(ウェールズ)があって、アングロ・サクソンが支配していたイングランドに、更にノルマンが征服者として加わってくる。旧来の土着民族対新来の征服民族という対立が、結果的に議会での政治闘争に繋がっているようです。上院vs下院という構造は、確かに上院=貴族=支配民族、下院=土豪=被支配民族であった、それ故に元々英国の政党(保守党・自由党)は“階級政党”であったのだと説明されると、よく理解できます。
その階級政党が、産業革命を過ぎ、社会主義思想の影響を受けて、保守党・労働党という、中産階級vs労働者階級という構図になった、というのも歴史をひも解くような説明で、とても面白いのです。そして近年、保守党、労働党を躍進させた2人の人物、サッチャー、トニー・ブレアが、本来の党方針と異なる手法によって成果をあげたという説明に至り、本書を読んでいて少しも飽きることがありません。とにかく明快で簡潔、というのが本書の魅力です。
総じて考えると、英国という国は、伝統を守りつつ歴史・社会の変化をそれなり取入れてきた、そして国全体としてバランス感覚をなんとなく発揮してきた、ということが感じられます。
英国を一方的に讃美し、日本を一方的にけなす、というつもりは勿論ありませんが、国民の大勢が不支持を表明し、かつ人格的・能力的に不適格であることが明瞭であるにもかかわらず一生懸命御輿をかついでいる政権与党を見ていると、バランス感覚などどこにも感じられません。そうであるのなら、選挙に一体何の価値があるのでしょうか。

1.なぜ700年の歴史があるのか/2.なぜ二大政党政治なのか/3.なぜ政権交代が起きるのか/4.なぜ選挙違反がないのか/5.なぜ「サッチャー革命」ができたのか/6.なぜ労働党政権なのか

 


 

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