波多野勝著作のページ


1953年岐阜県生、慶応義塾大学法学部卒、同大学院法学研究科博士課程修了。現在常磐大学国際学部教授。

  


   

●「裕仁皇太子ヨーロッパ外遊記」● ★★




1998年5月
草思社刊
(1800円+税)

  

1998/11/14

 

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はじめての試みとして実行された、裕仁皇太子(昭和天皇)のヨーロッパ外遊の経緯とその意義をまとめた本です。
歴史の一部としての興味もありましたが、実際に読み始めると大きな感動を覚える部分が何度もありました。出来事としての歴史以上に、ひとりの人間(昭和天皇)の歴史としての重みを感じます。

皇太子の外遊を強く推し進めたのは山県有朋ら元老、首相原敬たち。そこには、明治天皇以後の天皇のあり方として立憲君主を目指すべきという先見性、それと共に皇太子の見識、人格を開放的に高めるべきという革新的な考えがあったということです。
当時の英王室はまさに立憲君主のお手本。しかし、ジョージ5世らの歓迎ぶりは、遠い親戚の若者を迎え入れるような温かさがあります。さらに、自らの立ち振る舞いにより、立憲君主としての姿を次代の若者に教えようという父親のような配慮も。
皇太子自ら「慈父のよう」と表現したジョージ5世らとの親交、また外遊中に皇太子自身が目覚しいばかりの成長を遂げる部分、供奉員ならずとも大きな感動を覚えます。それにもかかわらず、その英国と戦火を交えるに至ったこと、昭和天皇の苦渋はいかばかりであったかと思います。

昭和天皇を考えるとき、これまで戦前・戦後というふうに区分けしていました。でもこの本を読むと、外遊中に芽生えたであろう“立憲君主”という考えは、その後もずっと一貫していたのだろうと思います。ただ、軍部、戦争がそれを生かすことを許さなかった。昭和天皇が望んだ姿は、きしくも敗戦、アメリカの強制により果たされることになったのです。
昭和天皇に改めて敬愛の念を覚えると共に、「可愛い子には旅をさせろ」の格言をしみじみ感じた1冊です。

    


   

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