絵門ゆう子著作のページ


1957年生。津田塾大学国際関係学科卒業後、NHKアナウンサー(当時:池田裕子)。「NHKニュースワイド」等担当後フリー、キャスターや女優として活躍。2003年「がんと一緒にゆっくりと」の出版以降、執筆や講演活動、朗読コンサート等で活躍するほか「おひるねうさぎ」プロジェクトを立ち上げ、がん患者の環境改善を目指し、心のサポートや情報の提供・検証等の活動中。本名:三門裕子。絵本「うさぎのユック」他、著書多数。2006年04月転移性乳がんにより死去。

1.
うさぎのユック

2.がんでも私は不思議に元気

 


         

1.

●「うさぎのユック」● 




2005年01月
金の星社刊

(1600円+税)


2006/01/14

絵門さんが聖路加病院の退院後に行った朗読会で出会った少女、小児科病棟に入院中だったまゆちゃんとの約束から生れた絵本とのこと(この経緯は「がんでも私は不思議に元気」の中でも語られています)。

うさぎの五人兄弟妹の中で、ユックは後ろ足が動かず、心臓も弱いというハンデを背負って生れてきました。
外に出られないユックを他の弟妹たちが助けて外に連れ出し、ライオンに襲われそうになったときはユックが自分を犠牲にしてまでも皆を救おうとする。
そこには、ユックの身体が弱い故の不自由はあっても、偏見も差別もありません。
ハンデがあっても臆病にならず、自分のできる範囲でゆっくり進んでいけばいいのだ、という絵門さんのメッセージが籠められた絵本です。
※「ユック」という名前は、「ゆっくり」という言葉から。

 

2.

●「がんでも私は不思議に元気」● ★★




2005年12月
新潮社刊
(1300円+税)

 

2006/01/13

「全身転移」「不思議に元気」というショッキングな言葉と??と思う言葉に惹かれたのが、本書を読んだきっかけ。
買った後に著者紹介を見て、初めて絵門さんが以前NHKのアナウンサーとして活躍していた池田裕子さんと知りました。

本書については、がん闘病記といった内容だろう、それでも「元気」とあるからには苦しいばかりの話ではないのだろうと思って読み始めたのですが、端的に言って本書は“闘病記”の類ではありません。
本書の中に「闘っている相手があるとすれば、それは、がん患者になったために置かれている社会的状況であり、がん患者を取り巻く環境なのだ」という一文がありますが、本書の内容を象徴的に伝えている言葉だと思います。

絵門さんの発病は乳がん。しかし、実母が抗がん剤の治療で苦しんだだけという思いがあったために、様々なサプリメントや民間医療に頼って西洋医学の治療を拒否した結果、がんが全身に転移してしまった、ということです。この辺りの経緯は前著「がんと一緒にゆっくりと」に書かれているとのこと。
絵門さんの語る中から、がん患者の気持ちを大事にすることがいかに重要か、ということを強く感じます。がんに限らず、病気になった場合にはまず直そう、良くなろうという気持ちが大切なのまた、ですから。

また、絵門さんの言葉にハッとすることが幾度もありました。何故がんだけ「告知」といい、死刑宣告みたいな扱いをするのか。病気ががんというだけで、がん患者はみな痛みに耐え、我慢し続けている、余命いくばくもないと何故決め付けてしまうのか、ということ。絵門さんが講演会等で元気に活躍しているのは、そうした姿もあるんだということを多くの人に知ってもらいたいためのようです。
がん患者への無理解は、一般の人だけでなく治療にあたる医師にもあると絵門さんは続けます。医師の場合は専門家であるだけにもっと性質が悪い、と。なかには、延命させてやっているのだから痛くても文句言うなとか、死ぬのを待つだけだということを平気で患者にぶつける人がいるとのこと。そして、それが病気に立ち向かおうとしている患者の気持ちをどんなに傷つけ、挫くものであるか、と。一方民間治療の提唱者の側にも、がんになったのも悪くなったのも患者が悪い所為と叱り付けるような態度をとる人がいるそうです。
「病は気から」という言葉があります。病気は物理的な問題であり殆どは物理的に解決するしかないと思いますが、もし自分がそうなった場合、心まで病になりたくない、と思います。
でも結局、心も病んでしまうかどうかは、医療者、周囲のケアに負う部分が大きいようです。

自然・民間医療と西洋医学の両方をがん患者として経験してきた本人からの率直な言葉として、また医療と患者の根本的な問題として、本書には傾聴に値するものがいっぱいあります。
是非手にとって読んでみて欲しい一冊です。

「ゆっくりと」からバタバタと/小さな友人たち/患者から医療を思う/行けども行けどもやはり荒野/悟りの道は遠けれど/私は生きる、仲間も生きる/こうしてみんなと生きている

※がん闘病記 → 多和田奈津子「へこんでも」(新潮社)

   


     

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