トム・リード著作のページ


T.R.Reid ワシントン・ポスト紙の日本支局長(1990〜95)、同・ロンドン支局長を経験。

 


 

●「ヨーロッパ合衆国の正体」● ★★
 原題:"THE UNITED STATES OF EUROPE"     訳:金子宣子

 

 
2005年8月
新潮社刊
(2000円+税)

 

2005/10/15

2002年01月01日にヨーロッパの単一通貨「ユーロ」が誕生したことにより、EU(欧州連合)は本格的に国を超えた統一の道に踏み出したといえます。本書は、そのEUの経緯と現在における意味および効果を解き明かした一冊。
新聞やTVニュースを追っただけでは理解し得ないEU像が本書には描かれています。こういった読み応えがあるからこそ、こうしてまとまった一冊で読むことは面白い。
読んでおいて良かった。本書を読んだことにより、これからニュースを見る目が変わりそうです。

ヨーロッパ統合という理念は、第二次大戦という瓦礫の中から生まれた。戦争という災禍をヨーロッパに2度と見えさせたくないという強い思いが、その理念を生んだとのこと。
しかし、実際にEUが誕生した時世界情勢は変わっていて、全く別の意味をもつことになります。
それは、唯一の強大国家となったアメリカへの懸念。それはイラク戦争をみれば一番感じられることでしょう。EUは、そのアメリカに対抗し得る“超大国”としての存在感をいみじくも持つに至った。
市場という面でも大きいし、国連での票数という面でも大きい。
それは当初アメリカが思いもよらなかったことでしょうけれど、その持つ意味はとても大きいものがあります。
それを象徴するような出来事が、GEウェルチが仕組んだハネウェルとの合併がEUの「競争総局」から独占禁止法違反と認定され、阻まれ挫折したこと。アメリカの経済論理がヨーロッパの経済論理に屈服したということですから。GE・ウェルチのこれまでの実績を知るほど、この章は読み応えがあります。
国家を超えた統一というEUの片鱗を、本書で知れば知るほど魅せられます。アメリカとEUという超大国、そして次に来るに違いない中国という超大国の存在を思うと、日本という国はいったい大丈夫なのだろうか。結局は、江戸時代鎖国という中でぬるま湯につかり、気がつけら列強の圧力に何の抵抗もできなかったという歴史を再び繰り返すのではないかと、暗澹たる気持ちになるのです。
しかし、そんな懸念を吹き払うほど、このEUという壮大な実験は面白いし、素晴らしい。お薦めできる一冊です。

本書で初めて知った話ですが、英国では医療費がゼロ、全て無料とのこと。そんなことが資本主義国家で行われ得るとは思っても見ませんでした。ただし、そのために売上税が17.5%とのこと。果たしてどちらが良いのか。
でも、こうした問題、本当に真剣に議論すべきことでしょう。
なお、医療費が無料である反面、ガンのある種の検査は断られてしまったとのこと。その理由が「費用対効果が見出せない」というのには、何ともはや・・・。

大変革に気がつかない/広がる亀裂/平和の構築−そして繁栄の追求/ドル神話の崩壊/ジャック・ウェルチの屈辱/これ、アメリカ製のバターじゃないの?/揺りかごから墓場まで/戦力の格差/E世代と新たなヨーロッパの絆/大変革に目を向けよ

 


  

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