2014年発行
2024年08月
新潮社
(2100円+税)
2024/11/02
amazon.co.jp
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題名の固有名詞から内容はすぐ見当がつく、というものですが、ナチスによるホロコーストを描いた作品。
ただし、本書は小説ではなく、著者自身による体験記。
ハインツ・アドルフ・オースター、ケルン生まれのユダヤ系ドイツ人。父親は百貨店を幾つか経営し尊敬されていた人物。
しかし、6歳になって小学校に初登校した帰り、ユダヤ人の子どもたちはヒトラー・ユーゲントの少年少女に襲われます。
そこから後、ドイツ系ユダヤ人たちはまるで坂道を転がり落ちるようにホロコーストへと追いやられて行く。
本書の全ては、少年の目から描かれています。その点が貴重。
10年以上の日々を毎日、今日生き延びることだけに、機転を利かせ、知恵を巡らせ、全力を尽くす。いつ殺されても不思議ない状況の中で。
少年の視点で描かれている故に、その語りは簡潔で分かり易く、読み易い。ちょっと気を緩めてしまえば、少年のサバイバル冒険ストーリーと読めてしまうかもしれません。でも語られたことは全て、現実なのです。
もしハインツが自分だったらと想像するだけで、心底恐ろしくなり、絶望して諦めてしまうかもしれません。しかし、ハインツは生を諦めず、そしてついに生き延びるのです。まさに一人の闘い続けた少年の魂の記録。
でも、米軍によって解放されたからといってそこで終わりではありません。いざ解放され自由になっても、身内はいない、住む場所も行き場所もない、何の教育も受けていない。
解放後も、ハインツは闘い続けなければならなかったのです。
少年の身で体験したことだからこそ、リアルで、切実。
ホロコーストについて語った本は限りなくありますが、少年の視点による記録という点で、本書は独自の輝きを放っています。
お薦め。
※なお、本書は最初、2014年に「絞首刑執行人の親切」という題名で自費出版されたが注目されず。その後、2023年 4月に出版社から再刊行され、ベストセラーになったとのこと。
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