デルフィーヌ・ミヌーイ作品のページ


Delphine Minoui  1974年フランス生。中東問題を専門とする女性ジャーナリスト。イランとイラクについてのルポタージュで、フランス語圏の最も権威あるジャーナリズム賞であるアルベール・ロンドル賞を受賞。現在はイスタンブールに在住し、シリアの現状を伝え続けている。

 


 

「シリアの秘密図書館−瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々− ★★☆
 
原題:"Les Passeurs de livres de Daraya"       訳:藤田真利子


シリアの秘密図書館

2018年02月
東京創元社
(1600円+税)



2018/03/27



amazon.co.jp

筆者のミヌーイは2015年10月、フェイスブックでシリアの若い写真家集団のページ“シリアの人たち”の中で、不思議な光景を見つけたのだそうです。
それが本書で語られる、
ダラヤの町の地下に設けられ、40人ものボランティアが瓦礫の下から救い出した1万5千冊もの本を集めた“秘密の図書館”。
その写真の撮影者は、図書館を作った一人である
アフマド・ムジャへドという23歳の青年。それから筆者は、アフマドやその仲間らとスカイプ等によって交流を続け、その協力を得て本書を書き上げたのだそうです。

シリア国内、ダマスカスに近いダラヤは、アサド政権に対する平和的な抗議運動の象徴と言える町だったとのこと。
2012年から4年にわたってシリア軍に包囲され、町は爆撃に次ぐ爆撃で破壊尽くされ、国連等からの食糧援助の手も差し伸べられず、ついに2016年08月反体制派武装勢力と民間人が町を撤退するに至ったという経緯。

そうした過酷な状況の中で、何故図書館が大事にされたのか。
それはシリアの文化遺産を守ると同時に、
バッシャール・アル=アサド政権の抑圧に対抗して何かを作り上げる象徴という意味があったのだそうです。
反体制派側に立って著述されたノンフィクションですから、反アサド的になるのは当然のこと。そうした前提があってもなお、ニュースを見るだけでは伝わらない、アサド政権の非道さ、容赦なさがリアルに伝わってきます。

M・G・マニング「戦地の図書館でも感じたことですが、本というものがどんなに人々の心を勇気づけるものであるか、ということをつくづく感じさせられます。
アサド政権の行動は抑圧以外の何物でもないと思いますが、そこには物理的抑圧と精神的抑圧の2通りがあると言ってよいでしょう。
ダラヤの町は最終的にアサド政権の物理的抑圧に屈せざるを得ませんでしたが、精神的な抑圧に屈することはなかった筈。
そこで大きな力となったのは本、人々は本を通じて、知識への欲求を知り、自由、希望を失うことがなかったからではないかと思います。
本の持つ力の大きさ、そしてシリア問題を別角度から知るのに格好の一冊。お薦めです。

    


 

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