ウィレム・ユーケス著作のページ


Willem Joekes 1916年、オランダ領東インド(インドネシア)スマラン生。祖父は蘭印西スマトラ州長官。父は戦後、オランダ政府の社会福祉大臣を務めた。18年一家でオランダへ帰国。37年勤務先の日本駐在員となり、神戸に暮す。40年スラバヤに転勤。開戦後は日本軍の通訳を命じられる。スパイ容疑で有罪判決を受け、日本軍刑務所で過酷な日々を送る。終戦により帰国。オランダ経済省等に勤務。現在ハーグ在住。

 


    

「よい旅を」 ★★
 原題:"DOOR HET OOG VAN DE NAALD" 訳:長山さき




2012年発行

2014年07月
新潮社刊
(1600円+税)

 


2014/09/08

 


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95歳の著者が70年前の出来事、戦前の1937〜39年貿易会社社員として神戸に暮した体験と、1942〜45年オランダ領インドネシアで日本軍の囚人として刑務所生活を送った体験とをまとめて語った回想記。

著者は、父親の仕事の関係で1916年、中部ジャワ生れ。そして日本から東インドへの輸出の仕事のため、戦前の神戸に住み大阪の貿易会社に勤務していたとのこと。特に日本文化に興味を持っていた訳ではなく日本での生活は一定範囲にとどまるものだったようですが、穏やかな生活に満足していたようです。
蘭印に戻ってから太平洋戦争が勃発、日本軍からスパイ容疑をかけられて拘置所、そして3つの刑務所に亘る囚人生活。当然ながらその間の生活は過酷なものだったようです。
著者は終戦まで幸運にも生き延び、刑務所を出て故国オランダに帰りますが、その後も後遺症、トラウマに長く苦しんだ由。

そうした苦しい思いをさせられたというのに、著者の日本への視線はかなり公平なものです。短い間ですが神戸での暮らしで抱いた日本への好感、そして戦争中の出来事だったからと達観した姿勢がその背後にあるようです。
そんな著者が、何故今頃になって本書を執筆したのか。そこにこそ、本書の意味があります。著者は率直に、慈しみの気持ちをもって日本国家へ、そして日本人へと語りかけています。
非を認めず謝罪しないことと、海外での日本の評価を比較して、いったいどちらが大切なのだろうか、と。
ごく普通の一般人である著者が語る一言だけに、真っ直ぐに胸の中へと入り込んでくるようです。そうした外国人の言葉に日本人は、もっと素直に耳を傾けるべきではないのでしょうか。

なお、著者はオランダにやって来た日本人旅行者に出会う度、声を掛けていたそうです。邦題はその気持から。

推薦のことば(カレル・ヴァン・ウォルフレン)/
まえがき/1.オランダ領東インド軍/2.日本/3.ジャワ島/4.捕えられて/5.刑務所での日々/6.女性抑留所と別れ/7.こだま/あとがき

 


  

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