「進化論の現在」シリーズ


シリーズ編者:ヘレナ・クローニン&オリヴァー・カリー
    訳者:竹内久美子

※「新化論の現在」シリーズの契機となったのは、ロンドン大学のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでのダーウィンプログラム。


1.シンデレラがいじめられるほんとうの理由 M・デイリー&M・ウィルソン

2.農業は人類の原罪である コリン・タッジ

 


 

1.

●「シンデレラがいじめられるほんとうの理由」● ★☆
 原題:"THE TRUTH ABOUT CINDERELLA"  by Martin Daly and Margo Wilson 

 

 
2002年10月
新潮社刊
(850円+税)

 
2002/12/22

シンデレラは何故継母からあんなにも苛められたのか? 
童話として読むと、継母と義姉たちは稀代の悪女ということになるのですが、進化論の見地から考えると特段不自然なことではない。むしろ、当然のこととなる。
そんな説明を展開する一冊。

種の保存より、まず自分という個の保存が優先というのが、現代の進化論における常識なのだそうです。したがって、配偶者に他の父親あるいは母親の子がいると、その子を排除して自分の遺伝子を継承する子を優先しようとする。
この辺りは、竹内さんの著書を読んでいると既にお馴染みの理論であって、目新しいことではありませんが、この題名には改めて興味を呼び起こされます。
ただ、童話という夢はなくなってしまう(苦笑)し、継子殺人というニュースをそれ当然とばかりには言っていられない。
だからこそ安易に離婚−再婚すべきではない、というのは、それなりに納得できる論理ではありますけど。

民話/動物的に振る舞う/人間におけるステップ・ファミリー/シンデレラの真実/親が優先するもの/否定されたシンデレラ/ステップをそろえての生活

  

2.

●「農業は人類の原罪である」● ★★☆
 原題:"NEANDERTHALS, BANDITS AND FARMERS -How Agriculture Really Began-"
         by Colin Tudge

 


2002年10月
新潮社刊
(850円+税)

 

2002/12/22

えっ!と思う題名ですけれど、これは本当に面白い一冊。“知的興奮”という宣伝文句は、決して誇張ではありません。

近年、行き過ぎた工業化→環境破壊が問題視されていますが、まず本書が語るのは、農業こそ環境破壊の始まり!ということ。
農業によって収穫量が増加すると、人口も増加する。すると、ますます農業に精を出す他なくなり、結果として環境を破壊する。狩猟生活だったら獲物の量以上に人口を維持することはできず、環境を破壊することもなかった。多品種の生物を絶滅に追いやったのも農業の所為。農業とは所詮悪循環である、という。
ネアンデルタール人が歴史から消滅したのもクロマニヨン人の技巧の所為ではないか、と言うのですから、本仮説は極めて面白くなります。
さらに、“エデンの園”は氷河期の肥沃なペルシア湾の土地のことであり、氷河期が終わって海水の嵩が増したことからエデンの土地が消滅、農業は厳しくなったと筆者は推論を展開します。
日本人は典型的農耕民族だからこそ、働けば働く程ますます働くという悪循環を繰り返しているのか。ウ〜ン、納得いくなぁ。
遠い祖先はあくせく働かなかった筈、我々はそういう祖先から学ぶべきであるという筆者の結論に、素直に賛同してしまうのは私だけでしょうか。

序論/農業の持ついくつもの側面/ネアンデルタール人の最期と更新世の大量殺戮/新石器革命/結論

  


  

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