吉村喜彦
(のぶひこ)作品のページ


1954年大阪府生、京都大学教育学部卒。サントリー宣伝部勤務を経て作家。

  


    

●「ビア・ボーイ」● ★★


ビア・ボーイ画像

2006年07月
新潮社刊
(1400円+税)

   

2006/08/18

 

amazon.co.jp

花の宣伝部で大活躍していたというのに、女でしくじり地方転勤を命じられた上杉朗が主人公。
しかも、赴任先の広島支店は、営業成績が全国最低のところ。鬱々とした気分で主人公が広島へ向かうところから本ストーリィは始まります。
この主人公、まだ若手社員だというのに女癖も悪いうえに、酒癖はもっと悪い。ビール会社の営業マンが酒癖悪かったら、もうどうしようもありませんよねェ。
顧客回りを始めた早々、酔っ払って大事な取引先の社長相手に狼藉三昧。お酒をやめてしまった私などからすると、もう人非人というに近い。
それでも支店の先輩から温かくかつ厳しく指導されたり、無茶苦茶ぶりがかえって気に入られて営業上プラスになったりしているうちに、主人公は営業の仕事に手応えを感じるようになっていきます。
このスターライトという洋酒+ビール製造会社、吉村さんが勤務していたサントリーがモデルであることに疑いなし。

後半は社内の派閥争いが主軸、善者側と悪者側が時代劇ドラマの如くに単純ニ別化され、テンポは盛り上がっいきます。
私の好きな源氏鶏太のサラリーマン小説「青年の椅子」、雰囲気や前提は異なりますが本書は良く似ています。
主人公一人がヒーローになるのではなく、仕事に夢をかけている同僚たちや顧客である酒問屋の社長たちと、気脈を通じ手を携えて熱心に頑張り始めた主人公の姿が気持ち良い。

本書の中のさりげない文章ですけれど、私が注目したのは、先輩営業マンのから上杉に宛てた手紙の中にあった「組織にずっとおるんやったら、絶対に主流になるな。傍流で生きろ」という一文。
長年サラリーマンをやってきた身として(悔し紛れでは決してなく)、これは正しく真実を伝える言葉だと思うのです。
気持ち良く楽しめる、青年サラリーマン小説。

 


  

to Top Page     to 国内作家 Index