横山秀夫作品のページ


1957年東京都生、国際商科大学卒。上毛新聞社に勤務後、フリーライター。91年「ルパンの消息」にて第9回サントリーミステリ大賞佳作、92年「陰の季節」にて第5回松本清張賞、2000年「動機」にて第53回日本推理作家協会賞短篇部門を受賞。


1.
半落ち

2.クライマーズ・ハイ

 


 

1.

●「半落ち」● ★★

 


2002年9月
講談社刊

(1700円+税)

2005年9月
講談社文庫化

 

2002/11/09

実直な現職警官が病苦の妻を扼殺し、自首。証拠も整い犯罪立件に何の問題もない筈ですが、事件後から自首するまでの2日間の空白につき、何故か本人は口を閉ざす。完落ちではない、半落ちの状況。
W県警幹部は、警察不祥事への追求を恐れ、力づくで無難な供述を捏造しようとする。
取調べにあたった志木警視は、被疑者である梶警部の澄み切った目に接し、空白の2日間、そして何故自殺しなかったのか、その謎を解こうとします。しかし、W県警幹部は真相解明をむしろ妨げようと圧力をかけていきます。
その後、担当検事、新聞記者、弁護士、裁判官、事件処理の進行に伴い、まるで謎の解明を各章の主人公が引き継いで担っていくかのような展開。しかし、その都度様々な圧力が彼らの上にかかり、真相が解明されないまま、事件は受け継がれていきます。
まるでボールのようにストーリィが受渡されていく構成、梶警部を見守る如く各章の主人公がひとつのチェーンに結ばれていくような展開が新鮮で、魅力充分。
しかしその一方において、隠す程の謎だったのか、病妻からの委託殺人とはいえ軽く済まされてしまっていいのか、という思いも残ります。
とはいえ、展開の面白さと結末の爽快さは、読み応え充分。

志木和正の章/佐瀬銛男の章/中尾洋平の章/植村学の章/藤林圭吾の章/古賀誠司の章

 

2.

●「クライマーズ・ハイ」● ★☆

 


2003年8月

文芸春秋刊
(1571円+税)

2006年6月
文春文庫化

 

2003/11/26

御巣鷹山への日航機墜落事故を背景に、群馬県の地元新聞社における人間的葛藤を描いた作品です。

主人公となるのは、日航機事故全権デスクに任命されたベテラン記者の悠木。記者として充分な力量をもつものの、息子とうまく折り合えない悩みを持ち、ひいては部下を使う自信の欠如から繰り返し逡巡し、さらに登山仲間の突然の事故に悔いを覚える、という主人公像です。
そんな悠木がデスクとして指揮をとる上で、社内の様々な軋轢が吹き出します。思わず読み手も主人公に感情移入して憤怒にかられてしまうのですが、逆に一歩引いて眺めてみると、いささか誇張し過ぎという面を感じます。そこまで相手を矮小化して描かなくても、というのが正直な思いです。
さらに、相手の狭量さ、僻み根性を協調するあまり、本来立場の違いからぶつかり合うのが当然なことまで、相手の人間的な矮小さに収斂されてしまっているのではないか、という疑問を感じます。
題名の「クライマーズ・ハイ」とは、困難な登山に挑む時の高揚した気分の由。大事故に対面した新聞社編集現場の興奮、苦闘、挫折、それらを経て辿り着いた結果を、登山の言葉により言い表した、ということのようです。
業界の内部を描いた小説というとアーサー・ヘイリーを思い出しますが、本書はそこまでに至らず、職場および家庭を通じての人間ドラマを描いた作品と言えます。

  


  

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