(ヤン・イー)作品のページ


1964年中国黒龍江省ハルビン市生。87年来日し、日本語学校を経てお茶の水女子大学にて地理学を専攻。卒業後日本にある中国語新聞社で記者、その後中国語講師。2007年「ワンちゃん」にて 第105回文學界新人賞、08年「時が滲む朝」にて 第139回芥川賞を受賞。

 
1.
ワンちゃん

2.時が滲む朝

 


   

1.

●「ワンちゃん」● ★★☆       文學界新人賞


ワンちゃん画像

2008年01月
文芸春秋刊

(1143円+税)

2010年07月
文春文庫化

   

2008/08/28

 

amazon.co.jp

時が滲む朝は民主化運動に関わった2人の中国人青年を主人公としていましたが、本書の主人公はヴァイタリティ溢れる中国人女性の王愛勤(日本名:木村紅)。
名前のとおりの働き者で、日本でのニックネームはワンちゃん

元夫から逃げ出すようにして日本人の旦那と結婚し、姑の世話をしながら、お互い農村暮らしの日本人男性と中国人女性との集団見合いを取り持つといった、八面六臂の活躍中。
ヴァイタリティに富み、苦難に負けずに明るく生きているワンちゃんは、魅力溢れる女性主人公。
でも、そんなワンちゃんの現在の旦那はとても喜べるような代物ではないし、そんな相手とわざわざ結婚してまで日本にやってきたのにはそれだけの事情がある訳です。
それはワンちゃんが見合いを世話する中国農村の女性たちにも言えること。まだ若くきれいな女性たちが、何でまた風采の上がらない中年の、言葉もろくに通じない相手との結婚を選択しなければならないかといえば、それだけの事情が彼女たちにもある訳です。
そんな集団見合いの仲介を何故ワンちゃんがやっているのかといえば、単に金儲けではなく、彼女たち一人一人に少しでも今より幸せになって欲しいという強い気持ちがあるから。

どんな困難な状況に置かれても強い気持ちで生き抜いていこうとするワンちゃんの姿には、生きるということの原点を見る思いがします。そして同時に、ワンちゃんや彼女が仲介する中国の若い女性たちに心からエールを送りたい気持ちになります。
天安門事件という歴史性、小説としての完成度という点で「時が滲む朝」の方が優るかもしれませんが、私としては本作品の方が好きです。
女性にはとくにお薦めしたい作品。

「老処女」は、親の価値観を忠実に守って生きてきた挙句、目標とした博士号も取得できず、恋愛もせず結婚もしないまま日本で45歳を迎えてしまった中国人女性=万時嬉(ワンシューシュー)を描いた作品。
可笑しくもあり哀しくもありといった、味わい深い作品。

ワンちゃん/老処女

       

2.

●「時が滲む朝」● ★★       芥川賞


時が滲む朝画像

2008年07月
文芸春秋刊

(1238円+税)

2011年02月
文春文庫化

 

2008/08/07

 

amazon.co.jp

天安門事件を背景に、民主化運動に加わった2人の中国人大学生の辿った道を描いた作品。

1988年、親友同士である梁浩遠謝志強の2人は難関の試験に見事合格して秦漢大学に進学する。
そこで彼らが出会ったのは、共産党幹部の腐敗を批判し、中国を良くするためには民主化を進めなくてはならないと訴える教師、仲間の学生たち。
何の警戒心もないままに学生たちの抗議運動に加わった2人は、偶発的な事件のために、大学を退学させられてしまう。
2人の人生図面がそこで大きく変わってしまった一方で、天安門事件以降中国社会自体も大きな変貌を遂げて行く。

今まで全く知らなかった中国人青年たちの理想と挫折、彼らの辿った道を大きな視点からとらえた本作品はとても鮮烈です。
在日中国人作家による初の芥川賞受賞ということで話題になり、その興味から読んだ本書ですが、この作品を世に問うた意味はとても大きいと思います。
そして同時にまた、隣国である中国の青年たちの胸の内を知るという点でも、日本と中国の双方にとって意義のある作品だと感じます。

それにしても浩遠と志強たちは、何と純真で、何と無防備であったことか。
自分の置かれている状況、自分たちの行動がもたらす結果を深く考えないままに、まるで軽いノリといった調子で民主化運動に加わっていってしまう。怖いくらいです。
何故こんなにも純真で無防備なのか。
・理想を求めることばかりを教えられてきた所為なのか
・情報が与えられず、自分の状況を理解していなかったからか

2人の青年の軌跡に感銘を覚えると同時に、一人一人の行動を越えて動く中国国家、中国社会、ひいては世界の大きなうねりを感じる、本書はそんなスケールの大きな作品でもあります。
是非お薦めしたい一冊です。

      


   

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