山中 恒作品のページ


1931年北海道生。56年「赤毛のポチ」にて日本児童文学者協会新人賞を受賞し、児童よみもの作家としてデビュー。大林宣彦監督映画に原作を多数提供。

 
1.
ぼくがぼくであること

2.おれがあいつであいつがおれで

  


    

1.

●「ぼくがぼくであること」● ★★★


ぼくがぼくであること画像

1976年02月
角川文庫
第39版
2007年04月
(500円+税)

 

2007/06/09

 

amazon.co.jp

おれがあいつであいつがおれでが面白かったので、もう1冊文庫化されている本書も読んでみようと思った次第。
それが何と予想した以上に大正解。実に好い作品で、読んでいて楽しいことしきり。そのうえ読後の満足感もたっぷり。
こんな本に出会えるから読書は楽しい、という典型例のような作品でした。

主人公である平田秀一(ひでかず)は、小学6年生の12歳。5人兄弟の4番目です。兄弟姉妹の中でただ一人出来が悪く、学校では教師から、家では母親からもいつも叱られてばかり。何をやってもヘマばかりしでかすのですから仕方ないのですが、母親からあれだけ年中、くどくど叱られてはますます・・・というのは無理ないところ。
家出すらできるもんかと言われ本当に家出し、トラックの荷台に潜り込んだところ、走り出したトラックに連れられてあっという間にどこそこの田舎まで。
辿り着いた先で近くの家に転がり込むこととなり、秀一はひと夏を谷村老人とその孫娘である夏代の2人暮しの家に世話になります。

何をやってもダメな三男坊と口喧しい母親との関係が、夏休みの家出を境にコロッと変わってしまう。その変わり方の面白さ、痛快さったらありません。実に楽しい、面白い、気持ち良い。
本作品は40年も前に執筆された少年成長小説ですが、今読んでも全く古さを感じることはありません。少年の自立という、決して古びるところのないテーマを扱っているストーリィだからでしょう。
ひと夏を農家でそれなりに仕事の手伝いをしながら過ごした秀一のその後の姿は、惚れ惚れしたくなるほど凛々しい。
秀一と夏代の溌剌として、かつ子供ながらに堂々とした姿が魅力的なのは格別なこととして、秀一の兄弟姉妹、父母、谷村老人たちも実に生き生きと描かれているところに読み応えがあります。
少年成長物語の傑作と言って良い作品です。是非お薦め!

※判っていながら、できるようでできないこと。それは子供のことを大人の尺度で考えてはいけない、ということ。本書を読んで改めて反省しました。

   

2.

●「おれがあいつであいつがおれで」● ★★☆


おれがあいつであいつがおれで画像

1980年06月
旺文社刊

1998年07月
理論社

2007年05月
角川文庫
(476円+税)

 

2007/05/31

 

amazon.co.jp

かつて観てその面白さ故にずっと忘れられないでいる、尾道を舞台にした大林宣彦監督の映画「転校生」の原作。

斉藤一夫斉藤一美、昔幼稚園で仲良しだった2人が一美の転校で再び出会い、揉めあった挙句ぶつかり合って気を失い、気がつくと2人の身体が入れ替わっていた、というストーリィ。中身と身体が入れ替わってしまったら誰しも慌てふためくのは当然ですが、本ストーリィの面白さは2人がちょうど年頃の男の子と女の子だというところにあります。
単に言動だけでなく、お互いの男の部分、女の部分+αに戸惑い、慌てふためく。お互いの本来の母親からウチの子にしつこくつきまとわないでと嫌がられるのも辛い。そんな2人の混乱、悩みぶりはすごく理解できて同情つきませんが、その一方で笑ってしまうこともつきません。
自分の本来の身体の状況を一夫より一美の方がより心配するのは女の子故よく判ることですが、それを傍から見ると男の子が女の子の身体をやたらと触っているという風になってしまうのですから、このうえなくユーモラス。
今なら異常性癖と騒ぎ立てられるところかもしれませんが、当時はユーモラスで済まされる分、世間がまだ健全だったと言うべきでしょう。
入れ替わることによって2人が学んだことといえば、人間で大切なのは表面的なみてくれではなく中身である、ということでしょうか。

なお、映画では中学生でしたが、原作は小学6年生という設定。小学生向けに書かれたことから上限の6年生ということになったのでしょうけれど、そりゃ中学生に設定した方が断然面白いですよ。
ちなみに私が観た映画は、まだ10代だった小林聡美、尾美よしのりの2人が主演。この小林聡美さんが良かった。女の子のくせして思い切った言動をする、スカッとする思いをしたのは女の子たちだけでなく男の子たちも同様だったのです。私が小林聡美ファンとなったのは「転校生」がきっかけです。

 


  

to Top Page     to 国内作家 Index