山本 弘作品のページ No.1


1956年京都府生、洛陽工業高校電子科卒。78年「スタンピード!」にて第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選。87年ゲーム創作集団「グループSNE」の一員となり、作家およびゲームデザイナーとしてデビュー。「時の果てのフェブラリー 赤方偏移世界」などのライトノベル作品で人気を博す。2003年「神は沈黙せず」、06年「アイの物語」、08年「MM9」にて日本SF大賞候補となり、注目される。11年「去年はいい年になるだろう」にて第42回星雲賞を受賞。


1.
アイの物語

2.MM9

3.詩羽のいる街

4.地球移動作戦

5.去年はいい年になるだろう

6.MM9−invasion−

7.トワイライト・テールズ(文庫:−夏と少女と怪獣と−)

8.MM9−destruction−

9.僕の光輝く世界

10.プロジェクトぴあの


翼を持つ少女、幽霊なんて怖くない、怪奇探偵リジー&クリスタル、世界が終わる前に、君の知らない方程式、プラスチックの恋人

 山本弘作品のページ No.2

  


          

1.

●「アイの物語」● ★★★


アイの物語画像

2008年09月
角川書店刊
(1800円+税)

2009年03月
角川文庫化



2011/06/02



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まず、本作品のストーリィ構成が素晴らしい。
未来社会、人間が劣勢となり、
マシン=AI(人工知能)が優勢となっている世界でのストーリィ。

プロローグ、語り部である主人公の青年が、女性アンドロイドのアイビスに捕えられるから始まります。
そのアイビスの目的は、主人公に7つの物語を読み聞かせることだった。しかも、それらは全て人間が作ったフィクションだという。ヒトとマシンの真実の歴史は決して語らない、というのがアイビスから主人公への約束。
※7つの物語の間には、
「インターミッション」という題で、主人公とアイビスのやり取りが書かれます。

7つの物語。近未来、遠い未来、ありえない未来という違いはあっても、どれもヒトとAIとの繋がりが色濃く描かれます。
マシンとヒトは同一にはなれない、またマシンは
「鉄腕アトム」のようにヒトになりたいとは思わない、だからといってターミネーターのようにヒトを排除しようとも思わない。
どの篇もある意味美しい物語ですが、その中でも
「詩音が来た日」が圧巻。
AIがどう学習していくか、そしてその果てにAIが習得した事実とは何か。
その事実を知った時、この物語がフィクションであると判っていても、驚愕せざるを得ません。そこもまた読み処。
そして、最後の
「アイの物語」は、全てを解き明かす一篇。

7つの物語はどれも単独の物語として読んで面白く、また全体をひとつの長篇として読み終えてみれば余りに見事、端正な美しさが感じられて圧倒されます。
SFというジャンルを超えた名品、と言って良いでしょう。

プロローグ/宇宙をぼくの手の上に/ときめきの仮想空間/ミラーガール/ブラックホール・ダイバー/正義が正義である世界/詩音が来た日/アイの物語/エピローグ

    

2.

●「MM9(エムエムナイン)」● ★☆


MM9画像

2007年11月
東京創元社刊

(1600円+税)

2010年06月
創元推理文庫化



2010/08/11



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地震・台風等と同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代。有数の怪獣大国である日本では、怪獣対策のスペシャリスト集団「気象庁特異生物対策部」、略して「気特対」が災害を最小限に留めるため日夜を問わず警戒と防衛にかけずり回っていた。
自衛隊と連携して怪獣に対する気特対部員たちの活躍を描く、SF+怪獣小説。

昭和40年代の昔、「ウルトラマン」の前に「ウルトラQ」という題名の特撮TVドラマ番組がありました。その番組が小説になって、少し趣向を変えて蘇ってきたような気分です。
ただ、そこには山本弘さんらしいユーモア感覚もあって、怪獣のタイプ・大きさから怪獣災害の規模を予想する基準値があって、それが即ち「MM(モンスター・マグニチュード)」。本書題名はその意味であって、“MM9”とは未だかつて出現したことのない、4000トン以上の大怪獣の出現を意味するとか。
そしてもうひとつ、こうした巨大な生物が物理原則に反して登場するのは、怪獣が我々が棲む“ビックバン宇宙”ではなく、物理法則の異なる“神話宇宙”に依る存在だからという説明は、十分SF的。

特撮TVドラマの専売特許という観ある怪獣をSFジャンルの中に取り込んだ趣向は十分楽しめますが、面白さとしては怪獣負けしていてイマイチ、という感想。

緊急!怪獣警報発令/危険!少女逃亡中/脅威!飛行怪獣襲来/密着!気特対24時/出現!黙示録大怪獣

     

3.

●「詩羽(しいは)のいる街」● ★★☆


詩羽のいる街画像

2008年09月
角川書店刊
(1800円+税)

2011年11月
角川文庫化



2008/12/07



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「あの日まで、僕はこの世に奇跡が存在するなんて信じていなかった」という一文から始まる、ストーリィ。
舞台となる賀来野市には、風変わりな若い女性がいます。
その女性の名は詩羽(しいは)。人に親切にすることを天職にしているという彼女は、まるで触媒の如く人と人とを結びつけ、人々に幸せをもたらしていく。
彼女は決して善意の押し売りや奉仕活動を強いるのではありません。こうした方がお互いに利益になる、我を張って人を利用しないのは損、という論理的な行動の結果に過ぎないという。
そしてそれを身をもって実践している彼女は、ここ6年の間一切金銭に手を触れることなく、親切にしたお礼で衣食住を賄っている。
本作品は、現代におけるそんな奇跡的な物語。

「それ自身は変化することなく」は、漫画家を目指している青年が主人公。1日デートをする中で、詩羽が彼に自信を与えていくストーリィ。
ジーン・ケリーのように」は、自殺しかけた中学生の女の子が主人公。1日デートを通じて、視界を広げれば世界はこんなに楽しいと、詩羽が彼女に夢を与えていくストーリィ。
「恐ろしい「ありがとう」」は、前2篇から一転して、スリリングな展開。主人公は世間に悪意を振り撒くことを唯一の楽しみとして生きている男性。そんな彼に対して詩羽はどう立ち向かっていくのか?
いやはや、この篇にはすっかり参りました。詩羽とは恐ろしい面も備えたとても強かな女性、決して心優しいだけの女性ではないと思い知る一篇。
「今、燃えている炎」は、前3篇の総決算とも言える篇。
賀来野市で人気アニメをテーマにしたイベント祭が開催されるのですが、その中で行なわれる街ぐるみのオリエンテーリング・ゲーム、それが本篇ストーリィの主体となります。いやはやそのゲームの何と難問で複雑極まりないことか。そのうえ最後に出場者を待ち受けている関門ったら! 
まさに登場人物と一緒になってゲームに参加するという楽しさあり、という篇。

人の善意を掘り起こしていく、人と人との繋がりを増やしていくというストーリィはまさに私好みなのですが、本作品はそれだけではありません。
連作形式の作品はいろいろありますが、本作品のように章を追うごとに面白さがスケールアップしていく、という作品はそうあるものではありません。
読み終えた時は、面白さに大満腹、そしてとても幸せになった気分です。
詩羽のような存在になれるとは決して思いませんが、彼女のような存在が自分の街にいてくれたらさぞ幸せだろうなぁと感じる、夢のように楽しいストーリィ。
エンターテイメントとしても傑作! 是非お薦めです。

それ自身は変化することなく/ジーン・ケリーのように/恐ろしい「ありがとう」/今、燃えている炎

        

4.

●「地球移動作戦 OPERATION EARTH SHIFT」● ★★☆


地球移動作戦画像

2009年09月
早川書房刊
(1900円+税)

2011年05月
ハヤカワ文庫化
(上下)



2010/01/16



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SF小説はめったに読まないのですが、久々に読んだ本作品は、ストーリィ展開といいスケール感といい、登場するキャラクターのポジションといい、得難い面白さでした。

2083年、新天体 2075A観測のため飛立った深宇宙探査船ファルケの乗組員は、その天体が24年後地球に極接近し、その結果地球が壊滅的かつ恒久的な打撃を受けることを発見して愕然とする。
地球はどうすれば良いのか。甘んじて耐える他ないのか。それとも地球を脱出するのかないのか。
検討の結果採択されたのは、巨額の必要資金、大きな環境破壊を甘んじた上での、一時的に地球の軌道を変えるという、地球移動作戦。
本ストーリィは、新天体観測から始まり、24年後の地球移動作戦実施までを描くSFストーリィ。

主人公は、移動計画を思いついた天体物理学者=風祭良輔の娘である、天才少女の風祭魅波(みは)
彼女のキャラクターも魅力なのですが、2083年の近未来には各々の人間に寄り添いサポートする AICOM(人工意識コンパニオン)がいるという設定の下に、人間とそのAICOM の関わり合いを描いている部分も魅力あります。とくに魅波の相棒となる美少女姿の AICOM=マイカの成長部分を描いているところは注目点。 

その上で、中心となる地球移動計画という宇宙空間を舞台にした壮大なスケール感には圧倒されんばかりですし、新天体の地球接近によって引き起こされる地球上の大災害は、文章で読むだけでも中々の迫力。

私をはじめ、ふだんSF小説に馴染みの薄い方にも是非お薦めしたい、傑作SF小説です。

       

5.

●「去年はいい年になるだろう」● ★☆        星雲賞


去年はいい年になるだろう画像

2010年04月
PHP研究所刊
(1700円+税)

2012年10月
PHP文芸文庫化
(上下)



2011/08/28



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2001年09月11日、未来から大量のアンドロイドたちがやって来ます。「ガーディアン」と名乗る彼らの目的は、人間への奉仕、少しでも人間を救うことだという。
そのガーディアン、9.11テロを防止したばかりか、全ての国家の武器を無効化し、強権国家を打倒せしめた。
おかげで地球の各地で犯罪、紛争が減り、供与された医療技術で助かる人も増え、死なずに済んだ人の数は統計上確かに多数に及びますが・・・。
自分たちの活動を人間にも理解してもらうため個人的なコンタクト先の一人として選ばれたのが、本書の主人公となる、SF作家の
山本弘。彼の目の前に現れた美少女姿のアンドロイドは、カイラ211と名乗る。
しかし、カイラから教えられた幾つもの自分の未来には、恐れおののく出来事も多い。
さて、ガーディアンの活動により、2001年の人間たち、そして主人公の未来は良くなるのでしょうか。

本書、SF小説ではあるのですが、もしそうしたことが起きたら人間社会はどうなるのか、いうシュミレーション型ストーリィとも言えます。
ふと考えたら良くなること間違いなしのように思えますが、つぶさに考えてみると・・・・。
なお、未来の自分が書いたSF作品であるとして
アイの物語の原稿を渡され主人公が頭を抱えて悩む部分は可笑しい、まぁ苦悶する気持ちは判りますが。

結局、幸せとか平和は人間自らが努力して得る他はなく、一方的に与えられてもダメなのだ、という思いを強くします。
それは何もSF小説の中だけではなく、今ある現実についても言えることではないか。多国籍軍が作り上げてアフガニスタン、イラクの民主社会の現状はどうなのか。さらに遡れば、米国から民主主義を与えられてぬるま湯のようにその恩恵に浸ってきたわが日本はどうなのか、と。
本書はSF小説であると同時に、いろいろ考えてみるきっかけを与えてくれる作品です。

            

6.

●「MM9−invasion(インベージョン)−」● ★★


MM9画像

2011年07月
東京創元社刊
(1700円+税)

2014年05月
創元推理文庫化



2011/08/11



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怪獣災害”に見舞われる日本を描いたSF作品MM9の続編。
いやあー、続編が出るとは思いもしなかったなぁ。
ちなみに「
invasion」とは、侵略、襲来の意味です。

今回日本を襲うのは、並みの怪獣ではありません。何と宇宙怪獣
それも冒頭、前作に登場した善玉怪獣“
ヒメ”がずっと仮死状態にあり、そのヒメを運ぶ途中のヘリと宇宙から飛来した怪獣が衝突するところから始まります。
何やら「
ウルトラマン」の初めを思い出せる上に、「ウルトラセブン」のような展開(後半、何と!と思う部分があります。お楽しみに)。
そして宇宙怪獣との戦いの最前線に巻き込まれたのが、前作に登場した元「
気特対」隊員で宇宙物理学者である案野悠里の息子=一騎とその女友達である酒井田亜紀子という、高校1年生コンビ。
さしづめ、ウルトラセブン+高校生コンビによるSF冒険(?)物語というノリです。
この続編でもまた、怪獣6号=ヒメが大活躍。それも、前作のままのヒメではないところが、注目!点。
一騎とヒメのやりとり、まさに抱腹絶倒の面白さです。

宇宙怪獣との闘いの舞台は、今話題の東京スカイツリー
あの「
モスラ」では、東京タワーが舞台に欠かせなかったんですよねぇ・・・。
昔の特撮怪獣映画を懐かしく思う元子供の大人たち、そして現代の子供たちにとっても、きっと面白くてたまらないストーリィでしょう。夏休みに読むには、格好の怪獣版SFストーリィ。

※宇宙怪獣との戦いストーリィ、まだまだ続くらしく、楽しみ。

            

7.

●「トワイライト・テールズ Twilight Tales」● ★☆
 (文庫改題:トワイライト・テールズ−夏と少女と怪獣と−)


トワイライト・テールズ画像

2011年11月
角川書店刊

(1400円+税)

2015年11月
角川文庫化



2012/01/28



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MM9」「MM9-invasion-に連なる、怪獣を大事にした中篇作品4篇。
「MM9」が怪獣との闘いストーリィであるのに対し、本書は怪獣と人間の関わりがテーマになっています。それ故に勿論、怪獣と一口にいってもその姿は一様ではありません。

「生と死のはざまで」:出現した怪獣によって破壊されたショッピングセンターの地下に閉じ込められた男子高校生と女性自衛隊員。
いじめられっ子でオタクだった高校生は、ついに自分の皮を破ることに成功します。
「夏と少女と怪獣と」:舞台は米国。幼い少年少女の恋を回想するメルヘンチックな展開の中、少女を襲った事件に怪獣が絡む、というストーリィ。私好みの篇です。
「怪獣神様」:舞台はタイ。宇宙から到来した怪獣をすぐ撃滅しようとする軍隊らの一方、別天体で神様だったというその生命体と村中から除け者にされている孤独な少女との間に心の交流が生まれる、というストーリィ。
「怪獣無法地帯」:舞台はアフリカ大陸コンゴ北東部の、怪獣多発地帯。
捜索にやってきた白人3人の前に現れたのは、白人系の金髪美少女と巨大な類人猿。
何やらターザン的なキャラクターですが、異なるのは彼女が文明を認識している点と、傍らの類人猿が怪獣並みの巨大さを有していること。
しかし、3人の捜索隊には秘密があり、最後には壮絶な激闘が繰り広げられます。4篇の中では一番エンターテイメント性の高い篇です。

まぁ好み次第というところですが、「MM9」を面白く読んだ読者なら、ちょっとコーヒーブレイクといった感覚で楽しめる中篇集だと思います。 

生と死のはざまで/夏と少女と怪獣と/怪獣神様/怪獣無法地帯

                 

8.

「MM9−destruction(デストラクション)− ★★


MM9destruction画像

2013年05月
東京創元社刊

(1900円+税)

2014年07月
創元推理文庫化



2013/07/02



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怪獣災害”に見舞われる日本を描いたSF作品MM9」〜「MM9−invasion−の続編。
本書ストーリィは、前作最後の2日目から始まります。

ヒメ、そしてヒメとテレパシーで通じ合ったことから通訳役となった案野一騎、母親の悠里、一騎に恋人宣言した幼馴染の酒井田亜紀子の4人は、安全を期するためという理由で秘密の場所に移送されます。その場所とは古い神社。不思議なのはその神社を守るのが狛犬ではなく、怪獣のような2つの神像であったこと。
そして4人を迎えたのは
御星ひかるという美少女巫女。そのひかるもまた、ある秘密を抱えた人物だった。
前巻が異星人の操る宇宙怪獣との激闘という、ウルトラセブン的なストーリィであったのに対し、本巻ではいつのまにか神話の世界に入り込んでしまうのですから驚き。もっとも、先月読んだ
山貴久子「姫神の来歴のおかげで神話・神々の物語にはいろいろ隠された来歴があると承知していたので、こうした途方もない筋立ても抵抗なく受け入れられました。
その一方、ヒメ、ひかる、亜紀子と美少女たちに囲まれ、一騎が年頃の男の子らしく悶え悩む様子も、青春コメディ風でまた楽しき哉。

それにしても異星人が操る幾種類もの怪獣神と、地球古来の怪獣神が激突するなどというストーリィ、ウルトラセブンからさらに遡り、小学生の頃に観た怪獣映画「地球最大の決戦」(キングギドラvs.ゴジラ・モスラ・ラドン 1964)さながらです。
本作品、基本的には怪獣映画のノリですから、昔の怪獣映画ファンとしてはこりゃ楽しくて堪りません。そこへさらに神話要素が加わっているのですから、想像が膨らんで楽しいかぎりです。
物語というのは時代によって変わっていって当然のもの。ですから、神話物語も原型に拘らずダイナミックに変わっていいと思うのです。そうした点についても本作品を評価したい。

※怪獣神たちの激闘場面、マジンガーZ、ガメラまで連想してしまいました。

             

9.

「僕の光輝く世界」 ★☆


僕の光輝く世界画像

2014年04月
講談社刊
(1500円+税)



2014/06/09



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主人公は、中学時代からずっとイジメに遭ってきた高校一年生、高根沢光輝
冒頭の事件により光輝は失明。そして、視覚ではなく、他の感覚により脳が創り上げたイメージをあたかも実際の視覚で得た画像のように認識するという
“アントン症候群”に見舞われます。

主人公の光輝が見る虚像と実際との乖離、その乖離により謎が生じることもあれば、それをヒントに光輝が謎を解き明かすこともある、というのが本ストーリィのパターン。
その意味で本作品は、ミステリ要素だけでなくSF的要素も合わせ持っています。アニメオタクの主人公はその想像力で現実世界を全く別の世界に創り変えてしまうのですから。
さらに加えて、失明してから知り合った少女への恋もあるという青春ストーリィ要素も有り。したがって各章は一律的な謎解きストーリィではなく、青春ものらしく順を踏んで光輝の成長も描くという展開で各章それぞれの趣向が楽しめます。

本ストーリィ独特の面白味となっているのは、主人公が恋する少女=神無月夕の人物造形。
主人公は当初、彼女を純粋無垢な心優しい少女と思い込んでいるのですが、徐々にその勘違いが明らかにされていきます。そもそも主人公の少女像が勝手な思い込みであって、現実は主人公自身と変わらぬ自分勝手なところもある少女なのだというリアル感が楽しい。
本書を楽しめるかどうかは読み手の好み次第というところが多分にありますが、山本弘ファンの私としては、これも山本弘さんらしいSFかつミステリ風の青春小説かと思って楽しめました。

なお、第1章は失明経緯、第2章は夕を描き、第3章がつなぎ的で、第4章が本格的ミステリという展開。是非最後の章まで楽しんでください。

1.黄金仮面は笑う/2.少女は壁に消える/3.世界は夏の朝に終わる/4.幽霊はわらべ歌をささやく

            

10.

「プロジェクトぴあの」 ★★☆


プロジェクトぴあの画像

2014年09月
PHP研究所刊
(1900円+税)

2020年03月
ハヤカワ文庫
(上下)



2014/11/18



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地球移動作戦の前にある物語、同作に登場した宇宙船のエンジン=“ピアノ・ドライブ”の発明者である結城ぴあのの物語。構想自体は、同作より前にあったそうです。

本書ストーリィの語り手は、物理学専攻の大学生で女装が趣味の“男の娘”である
貴尾根すばる(本名:下里昴)
2025年、そのすばるはアキバで、まるで化粧っ気のない不思議な女の子=結城ぴあのに出会い、その計り知れない科学知識と聡明さに驚きます。さらに驚愕したのは、彼女が少女アイドルグループ“ジャンキッシュ”のメンバーであったこと。

子供の頃から宇宙(それも太陽系外)に行きたいという夢を持ち続け、その実現のための具体的努力に続ける突然変異的天才であると同時にトップアイドルでもあるというキャラクターの造形、そして誰もができる訳がないと思っていたことを何時の間にか現実化していくというストーリィの面白さ、もう楽しくて堪えられません。
本物語の根底にあるのは、子供の頃に抱いた夢を実現したいとの単純な願望、誰もが一度は抱いたであろう宇宙、宇宙旅行への憧れ。如何にもSFらしい要素を取り除けば、ファンタジーな冒険物語といっても良いのではないか。
でも、本書の魅力、面白さはそのSF的要素部分、そして結城ぴあのというミュータント的アイドルの桁違いなキャラクターにあると言って間違いありません(そのセリフは実に痛快!)。

宇宙へ行くための
“プロジェクトぴあの”、果たして実現するのか、そしてぴあのは本当に宇宙へ飛び出せるのか。
全篇 500頁余、科学の天才にしてトップアイドルである結城ぴあののSF的魅力をたっぷり堪能できるSF巨編、お薦め!

  

山本弘作品のページ No.2

    


  

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