山口 瞳作品のページ


1926年東京都生。寿屋(現サントリー)で広告制作を経て作家活動入り。63年「江分利満氏の優雅な生活」にて直木賞、1979年「血族」にて菊池寛賞を受賞。63年「週刊新潮」で始まった「男性自身」シリーズは、98年8月31号まで31年9ヵ月間・1614回続き、死の直前まで書き綴られた。95年8月逝去。


1.居酒屋兆治

2.酔いどれ紀行

3.やってみはなれ みとくんなはれ

4.人生論手帖

  


   

1.

●「居酒屋兆治」● ★★★

   

1982年6月
新潮社刊

1986年3月
新潮文庫

1992年10月
山口瞳大全
第一巻

   

1992/11/08

兆治と、兆治が営む小さな居酒屋に集う人々を主人公にした連作短編。兆治の名前は元ロッテの村田投手からとったとのことです。
今回6年振りに読みましたが、最初に読んだ時よりもっと楽しめました。兆治の心根をしんみりと共感できるようになったからだと思います。
会社勤めを辞めて、実直的な規則正しい生活、客そして岩下という幼少からの友人達との交わり。生活できるだけの収入に満足していれば、何の問題もない。と言っても、それだけで世間はすべてうまくいく、という程甘いものではなく、兆治にも店の立ち退き問題という悩みがあります。
このしっとりとした縄のれんの店でのストーリィ。カラオケ狂いとなった井上や、河原、サラリーマン、警察官、タクシーの運転手で女房に先立たれた秋本等々。
様々な人の物語がカルテルのように混じり合って、この小説は出来上がっています。やはり小説というのは、こうした面白みを持っていなくては!と思う、そんな作品です。

高倉健、田中邦衛、加藤登紀子さんら出演の映画も良い出来でした。
 

 
1995/05/05

今までとは違う観点から読めた気がします。
それは、“幸福”ということ。兆治が留置場から釈放された後、幸福について考える場面があります。
茂子は妻として申し分なく、二人の娘は健康で素直、岩下を初めとする友人、客達も親切。山口瞳さんの底辺にある人生観が、この短い部分にしっかりと表されていると思います。
それなら、伝吉(兆治の本名)さよはどうだったのか。
伝吉は、二人の内一人が幸福になればそれで良い、と思ったと言います。結果的に、一人は幸福になった。でも、それはさよではなく、伝吉の方だった。
人生の難しさ、ささやかな幸福であってもそれを勝ち得ることの難しさを語る、一篇だと思います。
古くは長屋物語といったものを、現代の生活の中に蘇らせたかのような作品です。

   

2.

●「酔いどれ紀行」● ★★

 
1981年9月
新潮社刊

1984年8月
新潮文庫

1985/01/07

面白く、かつ楽しめた紀行文です。
時間、およびお金をふんだんに使い、食べるものにも贅沢をする。それにも拘らず、本書において倉敷、小樽、長崎へ行こうとも、要は食べ歩き小説に他ならないのです。
まったく、いい加減な行動とも思うのですが、一方でそんな過ごし方が心地よく、羨ましくも思えてきます。
一度くらい、こんな旅もしてみたいものです。

     

3.

●「やってみなはれ みとくんなはれ」(開高健・共著)● ★★☆


やってみなはれみとくんなはれ画像

2003年9月
新潮文庫
(476円+税)

   

2003/09/20

サントリー株式会社・社史「やってみなはれ サントリーの70年1」(昭和44年刊)に収録された2篇の文庫化。
かつてサントリー(旧・寿屋)東京支社・宣伝部の社員だった、芥川賞作家・開高健、直木賞作家・山口瞳という2人の作家による社史=創始者・鳥井信治郎の伝記というのですから、今から思えば贅沢なものです。
それは読者にとっても同じこと。サントリー創業の歴史を知ると同時に創業者・鳥井信治郎の人となりを知ることができる。それも、開高健・山口瞳という2人の名筆を文庫本一冊で楽しむことができるというのですから、これはもう堪えられません。
創業ストーリィというのはどれも興味深いものですけれど、この2人の筆によるのですから、小説のような興奮、面白さがあります。
とにかく熱気溢れる会社だったこと、宣伝に卓越していたこと、自由奔放なところがあったこと、それらが伝わってきます。

「青雲の志について」は戦前、赤玉ポートワインの大成功のこと。「戦後篇」は戦後、ウィスキーへの挑戦・大成功から、次男・佐治敬三によるビール市場への挑戦のこと、が語られています。
サントリーオールド全盛時代にそれを飲んでいた世代としては、それなりの感慨が生じます。
本書で嬉しいのは、同社広報部に当時在籍の斎藤由香さん(北杜夫氏長女)の後書きが添えられていること。後日談として、楽しく読めるあとがきです。

青雲の志について小説・鳥井信治郎(山口瞳)
○やってみなはれサントリーの七十年・戦後篇(開高健)
※その後の「やってみはなれ」(斎藤由香)

    

4.

●「人生論手帖」● ★☆


人生論手帖画像

2004年3月
河出書房新社

(1500円+税)

 

2004/06/19

単行本未収録のエッセイをまとめた一冊。
「人生論」などという題名がつくととかく身構えてしまいがちですが、本書はそんな偉ぶったものではなく、いつもどおりの山口瞳・エッセイ本。
山口さんが亡くなってだいぶ経つこともあり、山口瞳エッセイを読むのは久しぶり。改めて読んで、その味わい深さを再確認する思いです。
山口瞳エッセイの味わい深さは、ひとえにその哀感にあります。軽妙でコミカルな語りですけれど、それは意図してそうあるものではなく、生真面目にかつ真剣に生きてきた結果に過ぎない。山口さんには失礼ながら、それ以外に道のなかった小人という故に共感を覚えるのです。
それを象徴するような山口さんの文章が本書中にあります。
「私には、軽みの才能がない。小説でも随筆でも、ウンウン唸りながら書く」
読んでいると、山口さんならではの人生作法が感じられます。それが「人生論手帖」と題名された所以でしょうか。

私の人生/こだわりの/生活のなかの美学/旅にしあれば/ラストワン

 

読書りすと(山口瞳作品)

   


  

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