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1.月下上海 2.食堂のおばちゃん 3.恋するハンバーグ−佃はじめ食堂− |
「月下上海」 ★★ 松本清張賞 | |
2015年06月
2013/07/09
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1930年代、戦時下の上海を舞台に、財閥令嬢で女流画家でもある八島多江子を主人公にしたサスペンスロマン。 ストーリィは、中日文化協会から招聘された多江子が上海に到着したところから始まります。 話題の女流画家が個展を上海で開催という触れ込みですが、実は多江子にはスキャンダルを足場にして人気画家にのし上がったという経緯があった。 その多江子が上海で出会うことになるのは、傲岸な憲兵隊将校、地元の中国人実業家、抗日運動に身を投じた中国人青年、そして元の夫。多江子を自分の為に利用しようとする者、恋に落ちるもの、慕う者、そこは様々です。 多江子が人気画家として大事に扱われている前半は、単調でやや物足りない。それが一転して面白くなるのは、彼女が蹂躙され、優位性を失う後半になってから。一旦優位性を失ってしまえば、異国の地でただ一人、非力な女性という立場は心許無い限り。 しかし、そこから多江子の真価が発揮されます。人間としての誇りを奪われることを拒絶し、諦めることを良しとしない。まるで女性の強さを体現するかのような処に多江子の魅力があります。 そんな多江子の姿には、ふと「風と共に去りぬ」のヒロイン=スカーレット・オハラを彷彿させられます。 共に逆境に立てば立つほど、その底力を発揮する女性像。 戦時下の上海という国際都市の雰囲気をもうひとつ足りないところは残念ですが、その一方、終盤において芯の強さを見せる多江子は惚れ惚れする程です。 松本清張賞受賞に恥じない、女性主人公の魅力たっぷりの作品と言えます。 |
「食堂のおばちゃん」 ★☆ | |
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佃の大通りに面した定食屋“はじめ食堂”。 店を切り回しているのは2人の“おばちゃん”、一(にのまえ)家の姑と嫁。 姑はかつて「佃島の岸恵子」と言われたという一子(いちこ)82歳、嫁は元百貨店の腕利きバイヤーだった二三(ふみ)56歳。 いつも常連客で賑わう小さな定食屋を舞台にした、食と下町人情を絡めた連作ストーリィ。 刊行順序は本書「食堂のおばちゃん」がまず最初で、その後に一子と孝蔵が始めた洋食屋“はじめ食堂”の頃を遡って描いた「恋するハンバーグ」が続くわけですが、たまたま読む順序が逆になり、物語としてはその方が順序通りという訳で、すんなり本書ストーリィが腹落ちしました。 評判の洋食屋から普段着の定食屋への変化はちょっと寂しい思いも味わいますが、その分常連客でにぎわい、あれこれと人情話が展開していくところは楽しい。 その楽しさをさらに上乗せしているのは、はじめ食堂が提供する多彩で身近なメニューにあることは間違いありません。 居心地が良くて親しみ易い定食屋に毎日通うつもりで、本書の頁を繰るのが何よりの楽しみ方でしょう。 1.三丁目のカレー/2.おかあさんの白和え/3.オヤジの焼き鳥/4.恋の冷やしナスうどん/5.幻のビーフシチュー |
「恋するハンバーグ−佃はじめ食堂−」 ★☆ | |
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昭和の時代、佃の下町で小さな洋食屋を始めた若い夫婦を描くストーリィ。 紹介文に興味をそそられて手を出したのですが、既刊「食堂のおばちゃん」の昭和に遡る物語だったようです。 銀座で繁盛していたラーメン屋の娘だった一子(いちこ)、帝都ホテルのメインレストランで副料理長を務めていた一(にのまえ)孝蔵の夫婦は、「寿司貞」を営んでいた孝蔵の父親が商売を辞めて引退したことを契機に、店を改装して洋食屋を開きます。 一子と孝蔵の夫婦、その2人が営む「はじめ食堂」を中心にした連作風ストーリィ。 何はともあれ夫婦2人が明るく力を合わせて店を繁盛させていくというストーリィは楽しいものですが、それに加えて本書に描かれる昭和の風景が懐かしい。 2人の息子である小学生の高(たかし)が夢中になる特撮TV「ウルトラQ」や「ウルトラマン」、私もリアルタイムで観てましたから思わずそそられます。 頑張れば良くなる、という時代だったのではないでしょうか。 そんな明るさが本ストーリィには満ちています。 さて、本書の前作となる「食堂のおばちゃん」、こちらもそのうち読んでみようと思っています。 1.覚悟のビフテキ/2.ウルトラのもんじゃ/3.愛はグラタンのように/4.変身!ハンバーグ/5.さすらいのコンソメスープ/6.別れのラーメン |