渡辺淳子作品のページ


滋賀県生、放送大学卒。看護婦として病院等に勤務。
「父と私と結婚と」にて第3回小説宝石新人賞を受賞。改題した「私を悩ますもじゃもじゃ頭」を収録した「もじゃもじゃ」にて作家デビュー。


1.
もじゃもじゃ

2.
東京近江寮食堂

 


               

1.

「もじゃもじゃ ★★


もじゃもじゃ画像

2011年04月
光文社刊
(1400円+税)

  

2011/07/15

  

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市が行っている結婚相談所=「かいつぶりの会」を題材に、結婚したくて会に登録した女、同じく男、そして娘を何とか結婚させたい父親、3人各々の姿・心情を描いた連作短篇集、3篇。
 
何と言っても舞台設定がいいですよね。
結婚相談所、う〜ん、という感じなのですが、もはや現代には欠かせない存在でしょう。
恋愛を別として、まず結婚、というスタンスですから恋愛小説にはなりにくいのでしょうけれど、本人たちの切実な胸の内に親近感が湧きます。

そんな結婚したいと切実に願う女性が
戸倉明美28歳、小さなトラック運送会社勤め。紹介された相手に何度も断られた挙句、やっと先方も会いたいと返事してきた相手が田中浩二24歳と年下、クリーニング屋の店員、そしてデブかつモジャモジャ頭。

「おかんに捧げるバラード」は、その浩二の側から描いた篇。
そして
「かいつぶりの胸の内」は、34歳になる娘を何とか結婚させたいと願う「かいつぶりの会」の所長=大栗大蔵と、その都度父親にひどく反発する娘のみずき、口八丁の「会」相談員=中井房子63歳が絡む篇。

「私を悩ますもじゃもじゃ頭」は、思いもしなかった逆転劇が痛快。
「おかんに捧げるバラード」、もじゃもじゃ頭、結構いい奴じゃないか、という篇。
そして「かつぶりの胸の内」は、大栗と中井の思いがけない行動が傑作、妙味たっぷりです。また、父親の胸の内、娘の胸の内、お互いの気持ちの擦れ違いを描いたところに妙味があります。

等身大の主人公たちの、等身大の切実な心情に基づく、等身大のドラマ。切なくてユーモラスで、親子の温もりがあります。

 
私を悩ますもじゃもじゃ頭/おかんに捧げるバラード/かいつぶりの胸の内

    

2.

「東京近江寮食堂」 ★★




2015年03月
光文社刊
(1600円+税)

  


2015/04/30

  


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郷土料理である近江料理店を開いたものの失敗して借金を抱えた夫は、借金返済が終わった頃家出し、以来10年間音信不通。
その夫の
秀一から妻である妙子の元に突然「元気ですか」という暑中見舞いが届きます。定年前の有休を一ヶ月取得した妙子は夫を探す為東京に出てきますが、財布を掏られた顛末で偶然世話になった「東京近江寮」で賄い婦として働きながら夫の行方を探すのですが・・・。

滋賀県人のための施設「東京近江寮」に近江料理。そして、その寮で知り合った人々との交流を通じて妙子は、夫と暮らしていた頃の自分を振り返り始め、やがて夫との再会に向けて地道に一歩一歩足を進めていく、というストーリィの着想が秀逸。
料理が重要な鍵となり、料理によって人と通じ合い、そして自分も他人も元気にしていくという展開が楽しいことしきりです。

こてこての豪華料理ではなく、普段着の料理と同じような雰囲気を本作品は感じさせてくれるところが、素直に楽しめる気がします。
また、登場するどの人物にも好感が持てるところも大きい。
この近江寮、宿泊施設というよりまるでシェアハウスのような感じなのですよね。

自分の居場所探しは、幾つになっても終わることがないのだなぁと感じます。 

  


   

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