歌野晶午作品のページ


1961年千葉県生、東京農工大学農学部環境保護学科卒。88年「長い家の殺人」にて作家デビュー。2004年「葉桜の季節に君を想うということ」にて第4回本格ミステリ大賞および第57回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。

 
1.
葉桜の季節に君を想うということ

2.絶望ノート

  


 

1.

●「葉桜の季節に君を想うということ」● ★★  
                本格ミステリ大賞・日本推理作家協会賞

 

 

2003年03月
文芸春秋刊

(1857円+税)

2007年05月
文春文庫化

  

2004/04/06

 

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評判のとても高かったミステリ作品。
そんなに面白いの?とやや手探りするような思いで読み始めました。
かなり分厚いことから重たいかなぁと思ったのですが、それは読み始める迄の杞憂。
警備会社勤務の成瀬将虎を主人公として、地下鉄に飛び込み自殺しようとした麻宮さくらの救出、知人の女性から頼まれた悪徳販売業者の調査、時間を遡った探偵事務所勤務時代の暴力団への内偵調査と、現在と過去のストーリィが交互に語られていきます。ちょっと複雑ながら、テンポは極めて良い。どんどん引きずり込まれます。

登場人物はそれぞれ個性的ですし、快調に読み進むテンポの良さはあるものの、ストーリィ自体はそれ程特筆すべきものとは思いません。それにも拘わらず何故そんなに評判が高かったのか? と思ったのは中盤まで。
一気に結末に向かう終盤は、まさに やられたぁ! の一言。
ストーリィ自体にトリックが仕掛けられていたという作品はこれまでにもありましたが、これ程見事にひっかけられ、さらに唖然とまでしてしまったのは、記憶にありません。引っ掛けられたとはいえ、気分は愉快です。
細部を突付けば騙しという部分も無い訳ではありませんが、そんなことに拘泥することに何の意味もありません。見事に騙されたことをむしろ楽しむべきでしょう。
そもそも題名からして読者を騙し気味。でも、そこにユーモラスがあります。これから読む人は努々油断なさいませんように。

    

2.

●「絶望ノート」● ★★

 

 

2009年05月
幻冬舎刊

(1600円+税)

 

2009/09/17

 

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中学の同級生からイジメにあっている太刀川照音(しょおん)
誰にも助けてもらえない現状に絶望した彼は、新しい日記帳の表紙に「絶望」と記し、苛酷な日々と救いを求める心からの叫びを書き付けていった。
一方、拾ってきた石にオイネプギプトという名をつけて神様として拝み、イジメから守られること、ついにはイジメ相手を殺して欲しいと願う。そして、それは現実になってしまう・・・・。

イジメという陰惨さ、絶望、憎悪、そして連鎖。
何が、どうあって、照音の願いは聞き届けられたのか。
謎に満ちたストーリィは、闇の中を手さぐりで進むようにスリル満点に展開していきます。そのスリル、緊迫感、底知れない恐怖感は、抜群の面白さ。
しかし、施された仕掛けが明らかになったとき、これを凄いストーリィと思うか、凄いストーリィではあるけれど・・・と思うかは、人それぞれではないかと思います。

度肝を抜かれる驚愕の真相、それは葉桜の季節に君を想うということと共通する仕掛けですが、いきなり床が抜けたような空虚感に通じるものでもあります。
私に関しては、仕掛けを明らかにされて少々シラッとした、というのが正直なところ。
でも本作品の仕掛けはそこだけに止まりません。さらなる仕掛けが待ち構えていたのですから。その周到さには脱帽です。

ただ、まさかとは思いつつ、小説だから何があるか判らない、と思いながら読み進んでいた間の方が、残念ながら面白かった気がします。

  


  

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