宇佐見りん作品のページ


1999年静岡県生、神奈川県育ち。2019年「かか」にて第56回文藝賞および第33回三島由紀夫賞、21年「推し、燃ゆ」にて 第164回芥川賞を受賞。20年現在、大学2年生。


1.かか

2.推し、燃ゆ

3.くるまの娘

 


                   

1.
「か か ★★         文藝賞・三島由紀夫賞


かか

2019年11月
河出書房新社

(1300円+税)

2022年04月
河出文庫

2020/10/23

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父親(
とと)が浮気して家を出て行って以来、壊れてしまったような母親(かか)。
祖母(
ババ)は、現在病んでいる娘を顧みず、亡くなった娘=明子の子である孫=夕子のことばかり気に掛ける。

かかの娘で19歳の浪人生=
うーちゃんは、そんな家族の状況に我慢できなくなり、かかが入院して手術を受けるその日、ある望みを抱えて神のいる熊野へ向けて旅立ちます。

ストーリィはどうあれ、うーちゃんの抱える悩み、苦しみ、葛藤がその全身から迸り出るような文章が圧巻。

家族というものは、これだけ悩ましいものか。
振り切ろうとしても振り切れないもの、それが家族でしょうし、だからこそうーちゃんの苦しみや、叫びがあるのでしょう。

            

2.
「推し、燃ゆ ★★☆         芥川賞


推し、燃ゆ

2020年09月
河出書房新社

(1400円+税)

2023年07月
河出文庫

2020/12/23

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「推し」、その意味するところは解りますし、若い人たちの間で今流行っている言葉であることも知っています。
そうであったとしても、「推し」って何でしょう?

主人公は女子高生の
あかり
あかりの推しは、アイドルブループのメンバーである
上野真幸
その推しがファンを殴ったらしい。その結果、ネットでは炎上、人気低下、批判殺到という具合。
それでもあかりは、推し(真幸)一筋。
チケット購入のために定食屋のバイトも頑張るのですが・・・どうもこのあかり、学業もバイトも満足にいかないらしい。

そんなあかりにとって「推し」とは何なのか。
生きる拠り所、逃げ場所、偶像崇拝、ファンを超えた領域?
いや、推しの存在があって、推しへの思いがある、そこに自分の存在を確信できる、というものなのではないでしょうか。

最初は??と思いつつも、次第に「推し」というものが、アイドルとかファンとかで言い表せない、独特の存在感を持っていると実感できます。

同世代でなければ書けない小説と思います。
あかりの気持ちがビシ、ビシと伝わって来る処が、凄い。

                

3.
「くるまの娘 ★★☆


くるまの娘

2022年05月
河出書房新社

(1500円+税)



2022/06/03



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17歳のかんこ(かのこ)は、授業中居眠りばかり。理由は家で喧嘩が絶えず、寝る時間がないから。
兄は昨年独断で大学を辞めて家を出た。
弟は今年の春、母親の実家近くの高校に合格し、家を出て母方の祖父母の家に移り住む。
2年前、母親が脳梗塞で倒れ、半身麻痺、記憶障害という後遺症に苦しみ、快方に向かっているとは言いつつ、今でも爆発のように突如感情的になることを再三繰り返している。
父親は理不尽に振る舞うことが多く、兄が家を出たのもそれが原因。

まさに混乱と分裂に満ちた家族の姿を描くストーリィ。
父方の祖母が死去し葬儀に出席するため、かんこたち家族は車、兄夫婦は新幹線でそれぞれ祖母の家に向かうことになります。
その車中で、今のこの家族の、象徴的なやり取りが繰り広げられます。
しかし、かんこは両親の元から出ようとは思わない。それは何故か。その部分が圧巻、まさに本作の読み処、です。
かのこ、ボケッとしているようで大人だなぁ、と感じます。
 
それと同時に、限られた本作の世界の中で、現代的な問題をしっかり描き出して見せた宇佐見さんの力量に感嘆します。

なお、表題の
「くるま」は、本家族がかつて車中泊の家族旅行をしてきたからのようですけど、エピローグ部分が面白い。

僅か 160頁程の作品ですが、
かか」「推し、燃ゆに優るとも劣らない逸品です。 是非お薦め。

        


   

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