宇佐美まこと作品のページ No.2



11.鳥啼き魚の目は泪 

12.誰かがジョーカーをひく 

13.その時鐘は鳴り響く 

【作家歴】、展望塔のラプンツェル、黒鳥の湖、ボニン浄土、夜の声を聴く、羊は安らかに草を食み、子供は怖い夢を見る、月の光の届く距離、夢伝い、ドラゴンズ・タン、逆転のバラッド

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11.
「鳥啼き魚(うお)の目は泪 ★☆


鳥啼き魚の目は泪

2023年07月
小学館

(1800円+税)



2023/08/13



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「清闥」は枯山水の名庭園で、戦前は華族の吉田侯爵家が所有していたもの。

吉田侯爵家の屋敷にあった元々の庭は<池水式>。
それが何故枯山水に作り替えられたかというと、関東大震災で岩が崩れ、池の中から10年前らしい白骨遺体が発見されたため。

ストーリィは、枯山水の庭を造るにあたり、
溝延兵衛という庭師が吉田侯爵家に招かれたところから始まります。
庭造りが進められていく中で、所有者である吉田侯爵家の内幕、その難しい面が語られていきます。
語り手は、侯爵夫人である
韶子付きの女中であるトミ

吉田侯爵家の当主は
吉田房興、男子のいなかった吉田家に養子として入った人物。先代夫人である御後室様(倭子)は、縁戚にあたる黒河子爵の慈仁を五女=準子の婿に迎えることを望んだが、準子が不義の子を妊娠し死産を経て死去したことから、房興が養子入りすることとなった、という経緯。
そのため房興・韶子夫妻に対し、倭子は不満を抱くこと多。

戦前の華族家の様子、枯山水庭園とは、そして侯爵夫妻と庭師の交流と、読みながら興味を惹かれる要素が幾つも複層的に繋がって現れてきます。
そして終盤、白骨遺体事件等々、吉田侯爵家が抱えてきた問題のすべて、その真相が明らかになっていく・・・。

最後の対決場面は、もう圧巻という他ありません。
ただ、何を描こうとした作品なのかという点で、イマイチ不満が残ります。
※なお、本作題名は、芭蕉が「奥の細道」に旅立つ時に読んだ、別れの句とのこと。

             

12.
「誰かがジョーカーをひく ★★


誰かがジョーカーをひく

2023年11月
徳間書店

(1900円+税)



2023/12/28



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自分には何の取柄もないと自認している地味で平凡な主婦=川田沙代子は、傲慢な夫や姑、夫の連れ子3人から、まるで家政婦のような扱いを受けてきた。
この度も実家の窮状について、夫、姑から心無い言葉を浴びせられ、耐えられずに家を飛び出し当てもなく車を走らせていた処、その前に飛び出してきたのがキャバ嬢の
城本紫苑
車に当てられたと文句を言う紫苑に主導権を取られたまま、紫苑を車に乗せて走り出した沙代子は、紫苑が入れ込んでいるホストの
桐木竣に言われたからと、公園に置かれたバッグを取ってこさせられます。
しかし、まさかそれが、誘拐事件の身代金だったとは。

竣が留守番を託されたという金持ち女性の家に身を潜めた紫苑と沙代子でしたが、何とそこに誘拐された筈の女子高生ギャル=
入船陽向が押しかけてきて、自分を誘拐したのは社長である父親と対立する専務の叔父だと主張します。

キャバ嬢にホスト、女子高生ギャル、さらに<
鬼炎>という犯罪集団を操る謎の男まで登場し、支離滅裂なドタバタ劇が展開されていきます。
次から次へと、いったい何なのだこれは、と言いたくなるような迷走が増していくばかり。
自分では何も考えられないまま紫苑らに押しまくられているばかりの沙代子でしたが、沙代子が自分を取り戻し、さらのその真価を発揮するのは、野草や薬草などに関する知識と料理の腕。

前半は、愚鈍と言うしかないような沙代子の有り様につい苛立ちを感じてしまうところがありましたが、終盤における沙代子の颯爽とした逆転ぶりはまさに爽快。
また、紫苑、陽向という問題児も、最初こそ憎たらしいところがありましたが、それぞれの人物の良いところも分かって来て、最後はスッキリとした決着です。

さて、多くの登場人物の中、最後にジョーカーを引くのは誰なのか。どうぞお楽しみに。

                  

13.
「その時鐘は鳴り響く ★☆


その時鐘は鳴り響く

2024年10月
東京創元社

(1800円+税)



2024/11/29



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路上での実業家殺人事件という警察ものと、大学マンドリンクラブ部員の過去と現在という、2つの側から進むストーリー。

冒頭はまず、殺人事件捜査から進んでいきます。
赤羽警察署初の女性刑事である
黒光亜樹は、初めて捜査する殺人事件に興奮を抑えきれませんが、捜査本部で組まされた警視庁捜査一課の刑事=榎並はとにかく不愛想で、やりにくいことこの上ない。その榎並、先輩刑事から耳打ちされた処によると、監察から何か目をつけられているらしい。

一方、松山大学時代にマンドリンクラブ部員だった
国見冴子、既に廃部となった同クラブの部室を片づけるよう依頼され、当時の仲間2人ともに大学に向かう。
すると部室の黒板に、30年前夏合宿時に事故死した
篠塚瞳を含めた5人がよく使っていた「その時鐘は鳴り響く」という言葉が書き込まれていた。事件以来音信不通となっている高木圭一郎が、最近になって書き残したものなのか?

最初は、警察事件捜査もの、と思って読み進んでいましたが、途中、登場人物それぞれの様々なドラマ要素が入り込んできて、戸惑うところが無きにしも非ず。
読み終える頃になって、本作、実は警察ミステリではなく、人物群像劇だったのではないか、と感じた次第です。

登場人物それぞれのドラマは理解できますし、感じる処もいろいろありますが、全体としてはドラマがあり過ぎて、張り合わせた、という印象が無きにしも非ず。
そのため読了後、釈然としない思いが残らざるを得ず。


プロローグ/1.血だまりの中の花びら/2.事故人材/3.音叉の響き/4.ペルセウス座流星群/5.黒文字/6.高潔と無邪気/7.束縛と無邪気/8.署名行為/9.星の精/10.散りぬべき時知りてこそ/エピローグ

     

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