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21.まぬけなこよみ 22.ディス・イズ・ザ・デイ 23.サキの忘れ物 24.つまらない住宅地のすべての家 25.現代生活独習ノート 26.水車小屋のネネ 27.うどん陣営の受難 28.うそコンシェルジュ |
【作家歴】、君は永遠にそいつらより若い、カソウスキの行方、ミュージック・ブレス・ユー!!、婚礼祭礼その他、アレグリアとは仕事はできない、ポトスライムの舟、八番筋カウンシル、ワーカーズ・ダイジェスト、まともな家の子供はいない、とにかくうちに帰ります |
やりたいことは二度寝だけ、ウエストウイング、ダメをみがく、これからお祈りにいきます、ポースケ、エヴリシング・フロウズ、二度寝とは遠くにありて想うもの、この世にたやすい仕事はない、くよくよマネジメント、浮遊霊ブラジル |
「まぬけなこよみ」 ★☆ |
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2023年01月
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「ウェブ平凡」に2012.09.24〜15.09.18まで連載されたという、歳時記エッセイの単行本化。 津村さん曰く、平凡社のスマホアプリ「くらしのこよみ」が優れもので、それにちなんで「まぬけなこよみ」という題にしたのだそうです。つまり、「くらしのこよみ・まぬけ版」との由。 各篇、末尾に「二十四節気」「七十二候」付き。 私も本書で初めて知ったのですが、共に古代中国で考案された季節を表す方式のひとつで、二十四節気をさらに約5日ずつ3つに分けたのが七十二候なのだそうです。 江戸期に日本の風土にあうように改訂され、それぞれに気象の動きや同省物の変化を知らせる短文付き。 内容は日常生活のことを語ったエッセイなのですが、津村さん、自らの生活を評して「無味乾燥な暮らし」と。 でも、一般人の毎日の暮らしなど、津村さんならずともそうしたもので、だからこそ共感を覚えます。 そうした中で、よくぞエッセイを続けたものだと思いますが、そこは、さすが作家さん、と言うべきなのでしょうね。 なお、各篇に挿入されているイラストが、リアルで楽しい。 イラストを見ているだけでも結構楽しめますよ。 新年/冬から春へ/春から夏へ/夏から秋へ/秋から冬へ |
「ディス・イズ・ザ・デイ」 ★★ サッカー本大賞 | |
2021年10月
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津村記久子さんにしては、珍しい趣向の一冊。 サッカー2部リーグ、順位が確定する最終戦に向かう、22チームそれぞれのファンたちの姿を描く、11話=11試合&エピローグ(1部リーグ昇格を決するプレーオフ)からなる連作短篇集。 私はあいにくサッカーの熱烈ファンでも、スポーツの試合をわざわざ観に行くまでの関心ももったことがないのですが、本書中に描かれる2部リーグの試合、楽しそうですねー。 1部リーグではなく2部リーグ、そして地元チームだからこそ応援するというファンたち、そこには勝ち負けを超えた楽しさがありように感じられます。 贔屓チームや、贔屓選手をただ単純に応援する楽しさ、スタジアムで販売されているその土地だからこその弁当、見知らぬ同士でありながら一緒に応援する楽しさ、等々。 本書中においても、元々ファンでもなかったのに試合場に通ううちファンになったという主人公たちの姿があります。 本ストーリィを読みながら、一緒に応援している気分になることも、きっと許されることでしょう。 11篇の中で特に楽しかったのは、「若松家ダービー」「権現様の弟、旅に出る」「また夜が明けるまで」「おばちゃんの好きな選手」の4篇。 とくに、見知らぬ関係だった人との繋がりが広がっていく「権現様」と「夜が明けるまで」は好きだなぁ。 サッカーファンではない方にも楽しめること、間違いなし! お薦めです。 1.三鷹を取り戻す/2.若松家ダービー/3.えりちゃんの復活/4.眼鏡の町の漂着/5.篠村兄弟の恩寵/6.龍宮の友達/7.権現様の弟、旅に出る/8.また夜が明けるまで/9.おばちゃんの好きな選手/10.唱和する芝生/11.海が輝いている/エピローグ−昇格プレーオフ |
「サキの忘れ物 a lost article of Saki」 ★★☆ | |
2023年09月
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題名からだけではピンとこなかったのですが、「サキ」とは英国小説家で短編の名手と言われるサキのこと。 名前は知っていましたし、高校時代いろいろな作家の短編集を意識して読んだ時期があるのですが、サキは未読のままでした。その所為でピンと来なかったのかも。 表題作「サキの忘れ物」は、病院に併設されている喫茶店で働く千春が主人公。高校中退したところで、今まで本を読んだこともなく、自分に価値を感じられない女の子。 それが、常連の女性客が忘れものした文庫本「サキ短編集」を手に取ったところから、少しずつ変わっていく、人生が開けていくというストーリィ。 良いなぁ。本好きにとっては堪らない嬉しさを感じる篇です。 本作、共通テーマに基づく短編集ではなく、あちこちの雑誌等に掲載された短編を集めたもの。 でも面白いもので、こうして一冊にまとめられるとそれなりの統一感があるから不思議です。 どれも、ありふれた日常的な出来事を綴った篇。 それなのに、巧妙にいじくるとこんなにも面白い、新たな世界が広がってくるのかと興奮します。 「王国」:幼稚園児の見る世界は、こりゃ何とも・・・。 「ペチュニファフォールを知る二十の名所」:観光業者による観光名所案内と思えていたのですが、こんな面が見えてくるなんてゾクゾクッとします。 「Sさんの再訪」:学生時代の友人から届いた葉書、それを機に仲の良かった友人たちとの関わりを思い出します。しかし、当時の日記には、皆を「Sさん」と記載。自ら推理、その結果生まれ出たものは・・・。 「行列」:お馴染みの行列ですが、確かにいろいろなドラマ要素があるかも・・・。 「真夜中をさまようゲームブック」:読み手の好み次第でしょうけれど、私はこうした遊び心、大好きです。 まさにゲーム形式。読み手の選択によってストーリィが幾つも生まれます。最終的に主人公の運命が救われるかどうかも、読み手の選択次第・・・とは。(笑) 「隣のビル」:何とまぁ、自社ビルから隣のビルへ飛び移るなんて・・・。でもそこから新しい未来が生まれそうなところは、表題作と共通するところ。 味わいの良い締めくくり方で、心楽しくなります。 サキの忘れ物/王国/ペチュニアフォールを知る二十の名所/喫茶店の周波数/Sさんの再訪/行列/河川敷のガゼル/真夜中をさまようゲームブック/隣のビル |
「つまらない住宅地のすべての家」 ★★☆ | |
2024年04月
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とある町の住宅地、路地を挟んで10軒の家が立ち並ぶ一角。 そこに刑務所から脱走した女性受刑者が入り込んでくるかもしれないというニュース。 自治会長の提案により、自分たちの住む一角を夜、交替で見張ることになるのですが・・・。 とある住宅地にある10軒の家、それぞれの家族の様子を描く、住民群像劇。 まずは冒頭、各家、各家族の状況が紹介されていきます。 そこから分かるのは、お互いに没交渉のうえに、どの家族も何らかの問題を抱えている、ということ。 よどんだ空気に暗い雰囲気。なにやら不幸になる運命を抱えているようで、こんな住宅地には住みたくないよなーと思う程。 しかし、そこに投じられた一石が波紋を広げていき、住民たちの間に行き来、交わりが生まれていくと、雰囲気がガラリと変っていきます。 その一石が、脱走した女性受刑者であることは言うまでもないこと。 なお、受刑者といっても凶悪犯ではなく、勤務先で10年間にわたり横領(計1千万円)をしていたという経済犯、36歳。 そのうえ住民の中に、中学の同級生だったという者もいれば、その女性と従姉弟の関係にあるという中学生も登場します。 ドラマチックな展開はありませんが、目を逸らし合っていたような住人関係がお互いにきちんと向かい合うようになる、冷たかった人の関係が少しずつ温もりをもっていく、という変化がとても快い。 それも、女性受刑者を囲んで、という処が、住民たちの間に人間的な温かさが広がっていく証のようで、上手いなぁ。 暗から明へ、冷から温へ、という群像劇。お見事! |
「現代生活独習ノート」 ★★ | |
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エッセイともとれるような題名ですが、れっきとした短篇集。 でも冒頭、津村さん自身のいろいろな思い、体験を詰め込んだ体験談エッセイかと思わされ、すっかり騙されてしまいました。 ・「レコーダー定置網漁」:2週間の休暇、することと言えばビデオ・TV等々。定置網漁とは言い得て妙。 ・「台所の停戦」:台所、冷蔵庫内の領域を巡る、母・主人公・娘の争い。一番優勢なのは、やはり所有者か。 ・「現代生活手帖」:主婦的妄想に基づく、SF日常生活譚。 ・「牢名主」:<アドリアナ・スミス症候群>とか。 ・「粗食インスタグラム」:なんとまぁ、そんなものをアップしたって・・・もの哀しくなってきます。 ・「フェリシティの面接」:職安、紹介した女性フェシリティに対するフォロー面談。完璧な仕事ぶり。 ・「メダカと猫と密室」:身勝手な上司から休日出勤を求められた3人。結局振り回されただけ・・・。 ・「イン・ザ・シティ」:キヨ(清原)とアサ(葛原)、合同清掃をきっかけに友人となったが、クラスが異なると距離はどうしても遠い・・・。 それなりに面白いのですが、ストーリィとして弾みがつかず、何やら読み進みにくかったなァ。 レコーダー定置網漁/台所の停戦/現代生活手帖/牢名主/粗食インスタグラム/フェリシティの面接/メダカと猫と密室/イン・ザ・シティ |
「水車小屋のネネ」 ★★☆ 谷崎潤一郎文学賞 | |
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18歳の山下理佐が 8歳の妹=律を連れ、家を出て特急に乗り、2人でこれから生きていこうとする町に向けて出発するところから始まります。 娘たちより婚約者の男の意に沿おうとする母親に見切りをつけ、その男から不当な扱いを受けている妹を救うため。 理佐が向かった先は、予め決めておいた働き先=石田守・浪子夫婦が営む蕎麦屋。そこでの理佐の仕事は、店内での接客業務と、水車小屋でそば粉を挽く石臼の見守り番をしているヨウム(鳥)=ネネの世話。 そこから10年毎、理佐・律姉妹とネネを軸に、善意や人に親切でありたいと思う人々との繋がり、広がりを描いた長編。 約500頁という分量といい、本作で描かれる時間の長さといい、まさに読み応えたっぷり。楽しい読書時間を過ごせること、間違いなしです。 母親によって短大進学の道を閉ざされた上に、18歳の身で 8歳の妹の面倒を見ようと決心した理佐の勇気、覚悟が凄い。 その意味ではやはり、第一話に一番惹きつけられます。 そして言葉を話し、まるで会話をしているかのようなヨウムのネネの存在が圧巻。 理佐にとっては仕事のうえで、また律にとっては姉のいない時間、まさに友人といった関係になるのですから。 その後も、理佐や律らとの出会いにより、またネネの世話という形で、まるで家族に近いような繋がりが広がっていく処が、嬉しい。 現代社会では薄れてしまった、気にかける、親切にする、という人間関係が花開いていくかのようです。 それがなくては、いくら理佐が覚悟を決めていたからといって、律と二人で暮らしていくことはできなかったでしょう。 石田夫婦に、画家の杉子さん、律の担任となる藤沢先生、親友となる寛実とその父親である榊原さん、発電所の清掃係になった鮫渕聡、中学生の笹原研司ら、順次登場するそれぞれの人物も魅力あるのですが、ダントツに魅力ある存在がネネであることは間違いありません。 読書する楽しさをたっぷり味わえる作品、是非お薦めです。 第一話.1981年/第二話.1991年/第三話.2001年/第四話.2011年/エピローグ.2021年 |
「うどん陣営の受難」 ★☆ | |
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主人公が勤める社之杜(やしろのもり)社は、20年前この土地にやってきて、地元の野乃花社を吸収合併。 地域の伝統的な丸い帽子を被り主食がうどんで夜型の人たち、その内20年以上の勤務者は野乃花社で働いていた人たち。だからといって社員同士の間で特に対立があるという訳ではない。 この会社では4年毎に代表者を選ぶための投票が行われる。 自然と野之花の人たちは、地元に縁のある候補者=緑山さんを支持。しかし、その緑山は第3位となり、決戦投票に進んだのは、現代表者で会社の業績悪化を繰り止めるには社員の減給が必要だと訴える藍井戸氏と、旧野之花社員のリストラを訴える黄島氏の2人。 接戦を繰り広げる両氏はいずれも、緑山派の表を取り込もうと、運動員を使って露骨な活動を繰り広げる、というストーリィ。 主人公は、うどん派の女性社員、小林。 読み進んでいくと、こんなことまでやるのかと、その露骨さ、阿呆らしさには、ただただ呆れるしかりません。 まぁ、代表者選びをこうした投票で行うような会社組織は稀でしょうけれど、現実としてすぐ思い浮かぶのは、政治家をめぐる選挙。 選挙が終わればいつもの日常に戻ってしまうのも、よく似ています。 いずれにせよ、会社を舞台にした小説を数多く書いてきた津村記久子さんらしい中編。コミカルさと阿呆らしさあり。 |
「うそコンシェルジュ」 ★★ | |
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ひょんなことから相談を受けてうその請負をすることになった女性会社員の奮闘を描く2篇と、日常の悩み事をうまくやり過ごす様を描いた9篇、妙味ある11篇を収録した短篇集。 まずは何と言っても、表題作「うそコンシェルジュ」と続編の2篇が抜群に面白い。 方便としての嘘を吐くことは結構ありますから、その程度は充分許されることと思いますが、相手に嘘と見破られないように上手く嘘を吐くためにはどうしたら良いか。 会社員の林本みのり、姪の大学生=佐紀から相談を持ち掛けられてつい協力したところ、そこから数珠繋ぎに依頼が持ち掛けられてしまう。まるで“うそ請負人”であるかのようになってしまう展開が面白い。 また、それにまつわる上司の小島部長や佐紀とのやりとり、実に愉快です。 そして続編になると、これってまるでかつてのTVドラマ「スパイ大作戦」のようではないか、と思ってしまうほど。 その他の篇も楽しい。 私としては「我が社の心霊写真」「食事の文脈」「二千回飲みに行ったあとに」「居残りの彼女」の4篇が好きだなぁ。 お薦め! 第三の悪癖/誕生日の一日/レスピロ/うそコンシェルジュ/続うそコンシェルジュ−うその需要と供給の苦悩篇/通り過ぎる場所に座って/我が社の心霊写真/食事の文脈/買い増しの顛末/二千回飲みに行ったあとに/居残りの彼女 |
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