津本 陽作品のページ


1929年和歌山県生、東北大学法学部卒。78年「深重の海」にて第79回直木賞、「夢のまた夢」にて第29回吉川英治文学賞を受賞。


1.柳生兵庫助

2.生を踏んで恐れず

         


 

1.

●「柳生兵庫助」● ★★

 

1991〜92年
文春文庫刊
全8巻

 

1991/11/15

1992/02/10

 

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津本陽さんという作家の特徴は、手堅さにあると常々思っていました。本書もまさにそんな風で、華やぎやロマンというものはあまり感じられず、ひたすら手堅く綿密に仕上げているという印象です。

本書の主人公は、柳生兵介。祖父・石舟斉から新陰流正統第三世を継ぎ、後に尾張徳川家の兵法指南役となった人物です。
ただ、物語は一旦3巻で完結。連載誌が変更になったことが理由らしいのですが、第4巻でそれまでの途中からストーリィが再び進行します。3巻までは正直言って不満足です。
4巻目以降は、剣の奥義を如何に極めていくかが中心になっています。途中から宮本武蔵も登場、兵庫助とは対照的な剣の達人として描かれています。
武蔵は相手を圧倒するような強さをもつものの、妻帯もせず常に一人。弟子をもったことはあるものの、円明流を継承する後継者は遂に得られなかった。
一方、兵庫助は、相手を威圧することなく、自然のままに何時の間にか勝ちを制するという剣。千世、珠という妻を得、後の連也斉等の後継者に恵まれます。

剣のみに生き、世俗を嫌い、人との交わりも好まない。そして花に親しみ、老いては入道する。兵庫助の剣、人生の過ごし方は、津本さんの理想に通じるものではないかと思われます。

 

2.

●「生を踏んで恐れず―高橋是清の生涯―」● ★★




1998年12月
幻冬舎刊
(1700円+税)

2002年04月
幻冬舎文庫化

 

1998/12/26

 

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横浜正金銀行副頭取、日本銀行副総裁・総裁、総理大臣、大蔵大臣7回、他大臣2回を歴任したダルマ宰相こと高橋是清(1854-1936) の生涯を語った本です。
とくに昭和初期の金融恐慌時には、大蔵大臣に復帰(74歳)し辣腕を振るって事態を収拾、42日間で辞任。また81歳の時に請われて再任し、2・26事件で非業の死を遂げました。
津本さんの文章は、華やぎがなく地味なものですが、読んでいていつも信頼を感じます。本書では、いつも以上に淡々とした書きぶりなのですが、それが一層高橋是清という人物の魅力を際立たせてくれているように思います。
それにしても浮き沈みの多い人生です。幕府絵師と女中との間に生まれた私生児ですが、仙台藩足軽の養子となり、14歳でアメリカ留学したと思ったら奴隷に売られていた。帰国後は翻訳、学校経営を手がけ、特許局を創設して順風満帆かと思うと、ペルー鉱山への投資にまきこまれ急転落魄。そんなことを繰り返しつつ、政界、官界に知己を得、力量を評価されていくのですから、面白いものです。
高橋是清をもっと高く評価したのは、イギリス、アメリカの財界人だったのかもしれません。堂々と彼らに対峙し、明快な論調で日本の状況を説明する。そんな人格が信頼され、海外での莫大な公債発行による日露戦争戦費の調達に成功したように思われます。(その功績により男爵、貴族院議員)
自分の地位にこだわらず、請われた場所で常に抜群の力量を発揮する。それも、常に国家の為というのが行動理念。まさに怪男児といった風があります。
2・26事件で陸軍に狙われたのも、経済原則、国家理念に基づき、蔵相の立場から堂々と軍部を批判したから故のこと。

 


 

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