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31.琥珀の夏 32.闇祓 33.レジェンドアニメ! 34.嘘つきジェンガ 35.Another side of 辻村深月 36.この夏の星を見る |
【作家歴】、冷たい校舎の時は止まる、ロードムービー、太陽の坐る場所、ふちなしのかがみ、ゼロハチゼロナナ、光待つ場所へ、ツナグ、本日は大安なり |
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きのうの影踏み、図書室で暮したい、東京會舘とわたし(上)−旧館、東京會舘とわたし(下)−新館、クローバーナイト、かがみの孤城、青空と逃げる、噛みあわない会話とある過去について、傲慢と善良、ツナグ−想い人の心得 |
「琥珀の夏」 ★★☆ | |
2023年09月
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前半は、少女たちの物語。 舞台は<ミライの学校>という団体の、静岡にある<学び舎>と呼ばれる施設。 そこでは<ミライの学校>の考え方を信奉する親から預けられた子供たちが、親から離れて共同生活を送っていた。 ミカはそこで暮らすことになった少女。そしてノリコは、同級生母娘から勧められて夏の<学び舎留学>で一週間、そこに滞在した少女。共に小四。 2人はそこで出会い、友情を結ぶのですが・・・。 それから約30年、既婚で3歳の幼い娘を持ちながら女性弁護士として働く近藤法子は、驚くべきニュースを目にします。それはかつて参加した学び舎の跡地で、女児の白骨遺体が発見されたというニュース。まさか、あのミカでは。 そんな法子に、娘と孫娘が<ミライの学校>に入っていたという老夫婦から、白骨遺体が孫娘でないことを確認したいという依頼が舞い込みます。 心ならずも法子は、<ミライの学校>、<学び舎>に関わる事件に巻き込まれることになります。そこで法子が向かい合うことになったのは・・・。 <学び舎>という特殊な状況下で暮らす少女の姿と、一時的にそこを訪れただけの少女、本ストーリィは常にその双方の視点から描かれます。前半はそこが抜群に面白い。 そして後半は、30年後に女児白骨遺体事件を巡るミステリ。上記の背景があるからこそ、いったい誰が? どうして?と、事件の真相を探っていくストーリィ展開に引きこまれずにはいられません。 全てが明らかになったその時、ちょっとした感動が・・・。 大局的に見ると本作は、親子に関わるストーリィとも言えます。 子どもを親の手から放して育てることは是か非か。 本作に描かれるような子どもたちだけの共同生活は、極端な姿ではあります。 しかし、幼い子供を保育園に預けてまで母親が働き続けるのは是か非か、と言ったらもっと身近な問題になります。 でも現代は男女均等社会。そうであれば女性に選択を迫るのではなく、子育て支援体制の確立こそ国が果たすべきことでしょう。 親の愛情は大切ですが、共同生活にもまた良い点はあると思いますから。 プロローグ/1.ミカ/2.ノリコ/3.法子/4.<ミカ>の思い出/5.夏の呼び声/6.砕ける琥珀/7.破片の行方/8.ミライを生きる子どもたち/最終章.美夏/エピローグ |
「闇 祓 Yamihara」 ★★ | |
2024年06月
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「闇を祓う」、何となくその意味は分かりますが、その前提として“闇ハラスメント”なるものがあったとは。 「闇ハラ」=「闇ハラスメント」の略。辻村さんが作った言葉だそうで、精神・心が闇の状態にあることから生ずる、自分の事情や思いなどを一方的に押し付け、不快にさせる言動・行為のこととの由。 高校2年である原野澪のクラスに転校してきた白石要、最初から澪に固執する風。白石要に恐怖を感じた澪は、陸上部の憧れの先輩である神原一太に助けを求めるのですがその結果は・・・。 こんなことになるなんて、と思う展開だからこそ恐ろしい。 「闇ハラ」、彼の正体はいったい・・・? そこから始まる連作ストーリィ。 「隣人」はある団地での出来事、「同僚」はある会社、「班長」はある小学校でのこと。 そこがどんな世界であっても、自分都合で他人を振り回し、勝手な価値観を押し付けてくる人がいる、ということはありうることだと思います。 本作はそれを「闇ハラ」、特異な人間集団という設定にパワーアップして現代ホラーに仕立てあげたもの、と感じます。 私としては「転校生」最も不気味で、「隣人」は“あるある”という印象。 そして、「同僚」「班長」を経て、最終章の「家族」に集約して全てを明らかにする、というストーリィ構成です。 その過程で読み手を「あっ」と言わせ、かつホッとさせるところは、辻村さんらしい心憎さ。 辻村さんの<楽しめる>ホラー&ミステリを是非味わってください。 1.転校生/2.隣人/3.同僚/4.班長/最終章.家族/エピローグ |
「レジェンドアニメ!」 ★★ | |
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「ハケンアニメ!」のスピンオフ、5篇。 私自身は、映画もTVもアニメは観ていない(ピクサーを除く)のでアニメ作品そのものについてはピンと来ないのですが、個性的な面々が顔を揃える前作、そして本作も、実に楽しい。 「九年前のクリスマス」はプロローグ、「声と音の冒険」は主に回想談なのですが、それ以外は「ハケンハニメ」後の彼らの様子が描かれます。 ・「声と音の冒険」:「運命戦線リデルライト」で音楽監督を務めることになった五條正臣が、12年前の、王子千晴との出会いについて語ります。 ・「夜の底の太陽」:小学生の冨田太陽、母親が厳しくて漫画もTVアニメも観させてもらえません。おかげで仲の良い友達と諍いに。そんな太陽を二度も助けてくれた女性は誰? ・「執事とかぐや姫」:フィギュア会社の社員=逢坂哲也と、フィギュア造形師=鞠野カナデの関わりが語られます。ちょっと素敵な展開です。 ・「ハケンじゃないアニメ」:長く続く人気TVアニメ「お江戸のニイ太」、若手プロデューサーの和山和人、無事独り立ちできるのか? ・「次の現場へ」:仲間のアニメーターと人気声優の結婚式とあって、有科香屋子と王子千晴も出席します。時間の無駄だと愚痴ってばかりの王子とそれを宥める有科、この2人の組み合わせはとても楽しい。そのうえ有科、相変わらず相当に鈍感ですし。 九年前のクリスマス/声と音の冒険/夜の底の太陽/執事とかぐや姫/ハケンじゃないアニメ/次の現場へ |
「嘘つきジェンガ」 ★★ | |
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辻村さん曰く、短篇集「鍵のない夢を見る」で泥棒、放火、誘拐等の犯罪を書いた時、詐欺を扱えなかったことが心残りだったそうです。 ようやく詐欺を題材にできた、というのが本中篇集。 ・「2020年のロマンス詐欺」:主人公の加賀耀太は、山形から上京したばかりの大学1年生。コロナ下とあって授業は行われず、バイトもできず、実家の定食屋も休業という苦境から、地元の友人から不法ではないという言葉についひっかかり、詐欺に関わってしまったという次第。 ・「五年目の受験詐欺」:次男の中学受験時、まさこ塾から特別紹介の事前受験が可能と言われ、百万円を支払った経緯をもつ専業主婦の風間多佳子。突然、あれは詐欺だった、ついては訴訟に協力して欲しいとの電話を受け、不安を抱えてしまう。 ・「あの人のサロン詐欺」:人気漫画家=谷嵜レオとして創作サロンを主催している紡・36歳。実は無職の実家暮らし、谷嵜レオというのは全くの騙り。ところが、その谷嵜レオがある事件を起こし・・・。 詐欺に関わった方はもちろん犯罪となる恐れがありますが、詐欺に掛かった方も堂々とそれを口に出せない処が、詐欺という犯罪の曲者なところ。 とはいえ、ただ詐欺を描くだけなら、犯罪小説あるいはミステリ小説ということで終わってしまいます。 そこから先の展開、それを踏み台にしてさらに進んでいくストーリィがあるからこそ、本中篇集の魅力があります。 そこはやはり、辻村深月さんならではの巧妙な上手さ。 是非、3篇のオチを楽しんでください。きっと辻村さんに拍手を送りたくなることでしょう。 2020年のロマンス詐欺/五年目の受験詐欺/あの人のサロン詐欺 |
「Another side of 辻村深月」 ★★ | |
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小説家・辻村深月、そして辻村深月作品の魅力を、対談・エッセイ、論考等々いろいろな角度から語り込んだ、ファンには嬉しい玉手箱のような一冊。 当然にしてこれまでの辻村作品についていろいろな人から語られるのですが、あぁ情けないことに私は殆どストーリィを忘れていてそれらの語りに同調できず、悔しく、かつ勿体ないと思うばかり。 ・冒頭は、宮部みゆきさんとの対談から。 対談の双方ともファンという訳で、宮部みゆきさんと伊坂幸太郎さんとの対談が、私としては特にお薦め。 ・そしてもう一つ、今年6月刊行予定の「この夏の星を見る」の最速レビューと<スピンオフ書下ろし短編>が嬉しい。刊行に向けて期待感が盛り上がります。 ・<全作品解説インタビュー> あらすじ紹介ではなく、辻村さんの作家としての思い入れとか、狙いとかが語られていて、これは貴重。 ・また、作家仲間からの<100門100答> 辻村さんの意外な一面も窺えるところが楽しい。 ※なお、辻村さんって、ホラーとドラえもんがお好きだったんですね、初めて認識しました。 【特別対談】宮部みゆき「作家の眼差し」/伊坂幸太郎「代表作と、書き続けるモチベーション」 【新作長編】書評:「この夏の星を見る」最速レビュー/「この夏の星を見る」スピンオフ書下ろし短編 【全作品解説インタビュー】 【エッセイ】浅倉秋成/一穂ミチ/呉勝浩/白尾遥/武田綾乃/成井豊/吉野耕平 【論考】東畑開人/千街晶之/朝宮運河 【単行本未収録短編】「影踏みの記憶」 【対談】あずまきよひこ/羽海のチカ/藤田貴大/中村義洋/松坂桃李/朝井リョウ/大島てる/大槻ケンヂ/藤巻亮太/松本理恵/幾原邦彦 【コミック】「十円参り」 【イラストギャラリー】 【証言します!辻村深月ってこんな人】 【辻村深月の100問100答】 【大山のぶ代にお会いした日】 【師弟問答 with 綾辻行人】 【辻村深月の10冊】 【文庫解説】宮内悠介/森博嗣/三浦しをん/宮下奈都 【辻村深月がおすすめ! ホラーミステリ5選】 【辻村深月の人生を変えたアニメ5選】 【辻村深月 全作品リスト】 |
「この夏の星を見る Catching The Stars of This Summer」 ★★☆ | |
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新型コロナ感染に日本中が怯えていた時期、当然ながら高校生たちも、学校生活の制限、クラブ活動や目指していた大会の中止、大切な思い出となる筈だった修学旅行の中止、といった様々な苦衷を味わっていた。 茨城県の砂浦第一高校天文部では、亜紗や凛久らが毎夏恒例の“スターキャッチコンテスト”が出来ないことに悔しさを感じていた。 一方、東京の渋谷区にあるひばり森中学校理科部では、真宙や天音が砂浦第一高校のWebを見て、自分たちにも望遠鏡が作れますかと問い合わせをしたことから、事態が動き出していきます。 そして、砂浦第一の顧問である綿引先生から仲間に加わらないかと声を掛けられたのが、長崎県五島列島にある天文台に親しく通う、円華、武藤、小山といった泉水高校の生徒たち3人。 そこから、茨城・東京・五島という3地域、3つの中高生たちがオンライン会議で繋がりながら、望遠鏡の制作&天体観測を競うといったリモートによる“スターキャッチコンテスト”開催を目指して動いていく、という夏を本番にした物語。 と言って、天体観測活動だけに終始するストーリィではありません。 制約を受け、楽しみにしていた様々なイベントが中止になるというだけではなく、仲の良い友人との間に諍いが生じたり、別離がもたらされるといった苦渋のこともあります。 それでも、今自分たちにできること、逆に今だからこそ発案できたことの実現に向けて、高校生や中学生たちが意欲的に取り組んで前に進んでいく=成長していく姿は、とても素晴らしい。 子供たちが、先に向けて大きな可能性をその内に秘めていることを感じさせられて、圧倒させられる思いです。 登場する一人一人の高校生、中学生たち。その一人一人に、それぞれの生活、人生があることがしっかり書き込まれていて、コンテスト参加に向けた活動ストーリィと合わせ、個性的な彼ら一人一人の物語を読めることが実に楽しく、爽快かつ読み応えたっぷり。 是非、お薦めです。 ※昨年、五島列島に旅して、舞台の一つである展望台にも行きました。そして、実際に夜、望遠鏡で月を観測するといったこともしてきました。ですから読んでいる最中、五島天文台(実際は鬼岳天文台)の様子が思い出され楽しかったです。 プロローグ/1."いつも"が消える/2.答えを知りたい/3.夏を迎え撃つ/4.星をつかまえる/5.近くて遠い/最終章.あなたに届/エピローグ |
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