立川談四楼作品のページ


1951年群馬県邑楽郡生、太田高校卒。立川談志に入門し談四楼を襲名。談志一門の落語協会脱退をネタにした作品「屈折十三年」を「別冊文藝春秋」に発表し作家デビュー。以後長編小説「ファイティング寿限無」等発表し、“落語もできる小説家”。

 
1.
師匠!

2.一回こっくり

 


 

1.

●「師 匠!」● ★★




2000年08月
新潮社刊
(1300円+税)

2008年08月
ランダムハウス講談社文庫化

2001/06/05

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もうとっくに諦めていたのに図書館に行ったら差し出され、半年以上も経って漸く読めた一冊。
うまいですねぇ。なかなか他の短編小説にはない味が有ります。
5篇ともすべて若手落語家を主人公とし、そして師弟関係を中心に据えた短編小説です。
落語家世界だからこそのストーリィと言ってしまえばそれまでですが、小説として充分見事な出来です。
単なる短編小説の上手さというより、まるで落語を聴いているような、そつのなさ、のりの良さを感じます。つい引き込まれてしまったなぁ、という感じ。そこが本書の魅力です。

なかでも良かったのは、「すず女の涙」文雀師匠に惚れ込んで久々に入門した弟子すず女と師匠との、気持ちの通じ合う様子が素直に伝わってきて、じんとする気持ち良さがあります。
「講師混同」にはしてやられた感じで、主人公と一緒に思わずハラハラしてしまいました。
また、「打ちどころ」
は、うまく引っ掛けられた、というストーリィ。
いずれも、噺ネタが挿入されているという楽しみがあります。

すず女の涙/講師混同/打ちどころ/先立つ幸せ/はんちく同盟

 

2.

●「一回こっくり」● ★★




2008年09月
新潮社刊
(1400円+税)

 

2008/11/12

 

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小説というより、人情噺が物語になった、という趣きある長篇作品。
物語は主人公である正昭の少年時代から語られます。それは、ちょっとした怪我が原因で死んだ弟のこと。兄として自責の念と悔いが残る思い出です。
そして念願した師匠の元へ弟子入りして、気侭に過ごした二つ目時代。そこでは三遊亭円生一門の分派騒動、師匠が一門を率いての協会からの独立と、落語協会内部の内輪話が語られるので、これはもう立川談四楼師匠の自伝的物語かと思うのですが、実際にそうであるかどうかまでは判らず。
すると一転、母親急死の報せが届き、再び兄弟や親族が集まって身内の死を悲しみ、葬儀のこと等が描かれます。

呆気なく死んでしまったからこそ、弟や母親への想いが残る。そんな胸の内、家族が悲しみにひたる場面を情濃く描いて流石に上手いなぁと思うものの、それだけでは単なる噺家の来し方話に過ぎません。
あっと思わされるのは、そのまま最後の章となっている、主人公の創作噺「一回こっくり」
それまで4章は全てこの創作噺を深く味わうための序章だったのか、と初めて判ります。

この創作噺「一回こっくり」が実に好い。この一篇だけで充分な読み応えがあります。
「一回こっくり」とは、人間誰しも生きるも死ぬも一回こっくりという意味ですが、その他にも当てはめているところが巧い。
小説家ではなく、噺家だからこそ語れる一話でしょう。
さて、それはどんな話か? それは聴いてのお楽しみ。

弟/一年生/出た長男/独立/一回こっくり

 


  

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