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1.貸本屋おせん 2.無間の鐘 3.春のとなり 4.梅の実るまで |
「貸本屋おせん」 ★★ 日本歴史時代作家協会賞新人賞 | |
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腕の良い板木屋だった父親は御禁制に触れて指を折られ飲んだくれに。その後、母親は男と出奔、父親も自死。 ひとり遺されたおせんは<貸本梅鉢屋>と名うって貸本屋稼業を始め、現在24歳の年増。 孤独なおせんにも家族同然に寄り添ってくる相手はいて、幼馴染で野菜の棒手振りをしている登は、会うたびに「嫁に来い」としつこい。地本問屋<南場屋>の喜一郎夫婦は、自称親代わり。 このおせん、止せばいいのに、本絡みの事となると抑えが利かなくなり、厄介ごとに首を突っ込んでは本人も危ない目に遭う、ということの繰り返し。 という訳で本作、貸本屋商売への興味+本絡みのミステリorサスペンス、という趣向です。 書店や図書館を舞台にしたミステリはいろいろあって、大崎梢“成風堂書店事件メモ”シリーズなどが代表的ですが、本作は時代小説版というところがミソ。 主人公のおせんという女性像、しっかり者なのか、危なっかしいところが多分にあるのか、その辺りがまだ十分まとまっていない印象を受けます。 しかし、早くもシリーズ化されるそうですので、その内こなれることでしょう。今後に期待したいところです。 ・「をりをり、よみ耽り」:紹介篇。しかし、最後におせんに危機が。一体、何故? ・「板木どろぼう」:滝沢馬琴新作の板木が盗まれたと、南場屋が苦境に。つい事件を調べ始めたおせんですが・・・。 ・「幽霊さわぎ」:亭主が死去し、遺された美人女将は手代と浮気? さらに事件が起き、またしてもおせんはその渦中に。 ・「松の糸」:色男と評判の公之介、惚れこんだお松から条件として提示されたのは、「雲隠れ」という本を入手すること。公之介からおせんに協力依頼。それって「源氏物語」幻の巻? ・「火付け」:吉原遊郭の火事で各店は吉原外で仮営業。そうした中、桂屋でお針の小千代が足抜けしたと騒ぎに。小千代に大事な本を貸したままのおせん、自らも小千代探しに・・・。 1.をりをり よみ耽り/2.板木どろぼう/3.幽霊さわぎ/4.松の糸/5.火付け |
「無間の鐘」 ★★ | |
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修験者の風体で各地を旅する<十三童子>。 その持つ鐘は、遠州小夜の観音寺にあったという“無間の鐘”。 この鐘を撞けば、現世で望みを叶えることができる。ただし、来世では底なしの無間地獄に堕ち、その子もまた今生で地獄を味わうことになる。 それでも良いのなら、この鐘を撞いて望みを果たせ。 そんな風に突きつけられたら、普通の人間であれば怖れをなして手を出さないでしょう。でも欲深なものだったら? 冒頭、乗っていた船が難破し、岬の小屋に辿り着いた水夫たち。 そこに宿を求めてやってきたのが十三童子。 彼は水夫たちに、無間の鐘を撞いた者たちが辿った物語を語り始めます。その意図は果たして・・・。 どういう仕掛けがあるのか分かりませんが、一話一話がとても面白い。 その意味で、ストーリングテリングの上手さが際立つ連作もの。 ただ、惜しまれるのは、無間の鐘を撞いた結果、つまり因果が本ストーリー中で殆ど味わえず、その点が弱いと感じざるを得ず。 6篇中、私が好きなのは「親孝行の鐘」と「嘘の鐘」の2篇。 「黄泉平坂の鐘」はストーリィの巧妙さがお見事。 最終篇「無間の鐘」では、全ての関係が明かになります。 親孝行の鐘/嘘の鐘/黄泉比良坂(よもつひらさか)の鐘/慈悲の鐘/真実の鐘/無間の鐘 |
「春のとなり」 ★☆ | |
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江戸の棟割長屋で薬屋を営む、奈緒と義父の長浜文二郎。 二人は、夫であり跡継ぎ息子であった宗十郎の仇討ちのため、信州・米坂藩を出奔し江戸に出てきた、という次第。 その宗十郎、自宅屋敷で二人の賊によって惨殺されたにもかかわらず、大目付は宗十郎が江戸で横領の罪を犯し、その責めを負って自害したものと公表。藩内そのものが信用できない、というのが二人の思い。 ストーリーは、奈緒と文二郎の親子関係(嫁と舅)、薬や治療の求めに応じながら奈緒が知る、市井の人々の家族関係も含めた暮らしぶり、そして事件の裏には何があったのか、という三つの要素が並行して語られていきます。 二人が市井の人たちと関わり合っていく部分は、市井小説の常とはいえ、やはり楽しい。 嫁と舅が互いに寄り添っていく姿を描くという点には新鮮味を感じる一方、江戸市井もの、藩内抗争といった部分は割とよく見られるストーリーです。 ※なお、平賀源内が登場してくる点は、ユニーク。源内が思いがけない活躍を見せますので。 江戸市井ものは随分と読んできましたので、それらに比較すると本作はちょっと堅い、という印象を受けます。 ただし、その点は高瀬乃一さんらしさ、と受け留めても良いのかと思います。 序/1.雪割草/2.願いの糸/3.冬木道/4.雪鳥/最終話.春の雪 |
「梅の実るまで−茅野淳之介幕末日乗−」 ★★ | |
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江戸幕末を舞台にした連作ストーリー。 時代小説といえば、市井ものか武家ものかにより趣きが大きく二つに分かれるように思いますが、本作では主人公が無役の御家人であり、また覇気も余りない、といった人物。 その所為か、幕末という激動の時代にあって武家と町人の間に中途半端に在るような印象を受けます。 でもその中途半端さが、独創的な妙味というか、他では得られない味わいを感じさせてくれます。私は好きですねぇ。 主人公の茅野淳之介は、小普請組の御家人。かつては徒目付の家柄だったが、15歳の頃に父親の政平がある事情から自害して小普請組に組替えとなったという次第。剣の腕は立たないが学問には秀でていたことから、私塾<鶉居堂>を開き一時は賑わっていたものの今は閑古鳥が鳴いている。しっかりものの母=お市にいつも尻を叩かれている、という状況。 そこを友人である奉行所同心の青柳梅太郎に見透かされ、時々手伝いに借り出されるのですが・・・。 ・「水仙香」:青柳に頼まれ攘夷浪士の見張り・・・・ ・「萩の小道」:攘夷浪士に襲われた処、とんでもない悲劇が。あまりに痛ましく・・・。 ・「鑑草」:淳之介、縁談にはとんと見放され・・・。 ・「千鳥啼く」:青柳に頼まれ、なんと間者に・・・。 ・「空蝉」:この篇には驚き! 何故こんな目に遭わなければいけないのか、いくらなんでもこれは酷過ぎる、と絶句。 ・「忘れ草」:彰義隊の上野戦争を前にして・・・。 ※本篇の最後、明治11年の茅野家はどうなっているのか。 なお、淳之介に周囲に登場する女性たち、皆しっかりもので、強そうですよねぇ。 水仙香/萩の小道/鑑草/千鳥啼く/空蝉/忘れ草 |