高野知宙(ちひろ)作品のページ


2005年生、神奈川県出身。2022年現在都内の高校に通う。22年「闇に浮かぶ浄土」にて第3回京都文学賞中高生部門最優秀賞を受賞。大幅な加筆を経て「ちとせ」と改題した同作にて作家デビュー。

 


                   

「ちとせ ★★☆          京都文学賞中高生部門最優秀賞


ちとせ

2022年11月
祥伝社

(1600円+税)



2022/12/13



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明治5年、博覧会の開催に湧く京の街が舞台。
疱瘡を患い視力を失いつつある14歳の少女=
ちとせは、この京の街で、三味線を縁(よすが)として生きようとしていた。
そんなちとせの、様々な葛藤とそれを乗り越えて成長する姿を描く清新なストーリィ。

ストーリィ設定に多少拙いところも感じますが、ちとせという主人公の造形は魅力に富んでいますし、ストーリィ展開も滑らかで気持ち良い。
何より感じる本作の魅力は、主人公であるちとせの、そして本ストーリィの健やかさと伸びやかさ、そこが嬉しい。

冒頭、三条大橋近くの川べりで、たどたどしいながら、一音一音を大事に重ねて曲を弾いているちとせの姿が愛おしい。
その音に魅かれたのが、俥屋<美濃屋>の跡継ぎ息子の
藤之助。そこから、ちとせと藤之助という2人を軸に、ストーリィは綴られていきます。

ちとせが三味線の師と仰ぎ、一緒に暮らす
は、現在料亭の仲居ながら元は芸妓。藤之助の友のは、今は邏卒ながら元々は小藩の留守居役の息子。さらに三条大橋の袂に暮らすツバメと名乗る男性等、登場する人物像がいずれも楽しい。
また、舞台にしたその時代、そして京の街の扱い方も良い。

その一方、次第に失われていく視力、失明という現実に向き合いながら、自分の生きる道を探し求めようとするちとせの、素朴で一途な姿に胸打たれます。 


高野知宙さんの今後に、十分期待を抱かせてくれる作品です。
お薦め。


1.天皇さんの町/2.祇園祭/3.丹後の巻貝/4.新しい道/5.闇に浮かぶ浄土

        


   

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