高田大介
作品のページ


1968年東京都生、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。早大、東京学芸大等で講師を務めた後渡仏。現在はリモージュ大EDSHS EHICに籍を置き博士論文執筆中。専門分野は印欧語比較文法・対照言語学。2010年「図書館の魔女」にて第45回メフィスト賞を受賞。


1.
図書館の魔女

2.図書館の魔女 烏の伝言

3.まほり

  


     

1.

「図書館の魔女 de sortiaria bibliothecae ★★☆   メフィスト賞


図書館の魔女画像

2013年08月
講談社刊
上下
(2400円+税)
(2600円+税)

2016年04月
講談社文庫化
(1・2巻)
2016年05月
(3・4巻)



2013/09/08



amazon.co.jp

“図書館の魔女”と言われる少女と彼女を守る少年の冒険を描いた壮大なファンタジー叙事詩。
上下巻 1,450頁と大部な物語ですが、緻密にして精緻、その長さに飽きることはなくたっぷりと長大な物語が楽しめます。
なお、
「図書館」、「魔女」という言葉からはちと想像し難い物語です。

史上最古、古来からの書物を集めたと言われる一ノ谷国にある高い塔=“図書館”。その番人であり、あらゆる書物に通じるその主は“高い塔の魔法使い”と言われる。
その当代の魔法使いは、先代の祖父からその地位を譲られて間もない
マツリカ、まだ可憐な少女という年頃ですが、尊大にして権威を持ち“図書館の魔女”と呼ばれる。
しかしマツリカは声が出せない。その為に新たな手話通訳として選ばれたのが、山中で育った少
年キリヒト。そのキリヒトが高い塔に出仕し、マツリカに仕え始めるところから本物語は幕を開けます。

主ストーリィは、本物語世界での国同士の争い。その争いを如何に収めるか、そのために図書館に仕えるメンバー(2人の他にハルカゼ、キリン等々)が前代未聞の冒険と闘いを繰り広げます。
その点、
上橋菜穂子「天と地の守り人を彷彿させますが、「守り人」が児童向けに書かれ、その底辺には成長と冒険という様子を置いていたのに対し、本書は大人向けだけにその底辺には、自分が背負った宿命と選択という要素を感じます。
また、国同士の争いをどう治めるかという主ストーリィと並行して、言葉についての考察が深く描かれます。
つまり、言葉の集積が書物であり、その集積が図書館であること。そこには伝えようという意思が存在する。そして言葉とは、話言葉だけに限定されるのではなく、
手話も書物も言葉であり、究極には意思があれば言葉があり、それは智慧をもたらすものであるということ。さながら“図書館の魔女”とは、魔法を操る存在ではなく、古来からの言葉、智慧を今に伝える伝道師と言うべきなのでしょう。

言葉が溢れ出てくるような本物語に溺れそうになりながら、本物語が俄然面白くなってくるのは、上巻の終盤、キリヒトという少年の正体が明らかになってから。それからは一気呵成です。
まだに壮大なファンタジー叙事詩にして、面白さ尽きず、たっぷりその面白さに浸ることのできる大長編。
ファンタジー好きな方には、是非お薦めです。

第1部 山賤ノ里、一ノ谷 図書館の魔女と手の中の言葉/第2部 一ノ谷 地下の覊旅と暗殺者の所在/第3部 一ノ谷、ニザマ 文献学講義と糸操る者たち/第4部 ニザマ、アルデシュ 円卓会議と双子座の館の対決

   

2.

「図書館の魔女 烏の伝言(つてこと) ★★
  de sortiaria bibliothecae angeli alus nigris


烏の伝言画像

2015年01月
講談社刊
(2700円+税)

2017年05月
講談社文庫化
(上下)



2015/02/21



amazon.co.jp

ファンタジー冒険小説“図書館の魔女”第2弾。
ただし、ストーリィは前作とは別。
ニザマの地方官僚の姫君ユシャッバを守りつつ近衛兵の一行が剛力たちに案内されて山越えをしているところからストーリィは始まります。
ニザマで起きた政変の為、港から船で姫君を逃がそうというのが一行の任務。しかし漸く辿り着いた港町は陰謀渦巻く場所。早くも彼らは新たな危険に直面します。

ニザマで起きた政変というのが、前作で
高い塔の魔女=マツリカが活躍して一ノ谷とニザマが手を結び、ニザマ帝室がそれまで帝国を牛耳っていた宦官組織との決別を決断したところから生じたもの。
その意味で本書は、場所や登場人物たちを異にするものの、前作に続くその後のストーリィと言えます。
本書題名に少々惑わされますが、“図書館の魔女”シリーズの続編「烏の伝言」と理解すれば判りやすいと思います。
剛力の中に、カラスを使って文をやり取りする
鳥飼のエゴンがおり、題名の所以となっています。ただし、そのエゴンが本書主人公という訳ではなく、これはという主人公が不在という珍しい作品になっています。

大部な長編、それにもかかわらずストーリィ舞台の殆どは港町内に限定されますし、登場人物もほぼ固定されているのですが、それでも何故か面白いのです。
そして最後にはやはり高い塔の魔女が登場し、ストーリィをまとめ上げます。
この展開からすると、シリーズものとしてこの後の作品もありそうです。長いファンタジー物語の途中の巻、と言ったところでしょうか。


1.烏と馬鹿/2.廃墟と唐臼/3.姫御前、娼館/4.飯場、暗渠/5.鼠と鈴/6.掟と弁え/7.薬師の目覚め/8.蛍火/9.奪還/10.伝言二信/11.嘘の賭金/12.狐と鼠/13.院/14.識字/15.牛目/16.杣道/17.港

      

3.

「まほり ★★☆


まほり

2019年10月
角川書店

(2100円+税)

2022年01月
角川文庫
(上下)



2019/11/17



amazon.co.jp

ストーリィは、小児喘息の妹のため家族で山間集落の祖母の家に越してきた中学生の長谷川淳が、渓流で着物姿の不思議な印象の女の子を見かけるところから始まります。

次いで、大学で社会学を専攻する
勝山裕が、卒研グループの飲み会で蛇の目紋の札が大量に貼られているのを目撃したことがあるという話に興味を示します。それが裕の郷里に近い山間の村のことであり、ちょうど夏休みということもあって、裕は調査しようと帰郷します。
さっそく出向いた地元図書館で再会したのは、中学時代の塾仲間で図書館バイト中の
飯山香織。何故か香織、積極的に調査の協力を申し出てそれ以降、裕は香織とコンビでフィールドワークを始めることになります。

裕の調査にはある個人的な動機も絡んでいるのですが、調査の方向は次第に「
毛利神社」、その神社がある排他的な集落“巣守郷(うらもりごう)”へと繋がっていきます。
巣守郷へ赴いた裕と香織はそこで、この郷で少女が監禁されているらしいと主張する中学生の淳と出会います。二つのストーリィがここで一つになったという次第。

確かに事件らしい要素はあるのですが、本ストーリィの中心は、様々な古文書、言語の変遷を手当たり次第に調べていく、というもの。その意味で本作は、事件ものミステリではなく、郷土史や秘められた因習という密林に分け入って調べていく
“民俗ミステリ”という表現に相応しい。

当初は余りに大部ということもあってパスしようかと思っていたのですが、機会を得て本作を読めたことは本当に良かった。
本を、物語を読む楽しさを満喫させてくれた一冊です。
そして、淳の着物の少女への、裕と香織の間に、それぞれの想いが秘められている設定が良い香料になっています。

題名の
「まほり」とはどんな意味を持っているのか。それが分かるのはもう終盤ですが、驚愕の真相には衝撃を受けずにはいられません。最後はスリル満点でした。
長い物語、ややこしい話を苦にされない方に、是非お薦め。


1.馬鹿/2.説話の変容/3.蛇の目/4.帰郷/5.神楽/6.縁起の転倒/7.井戸/8.戒壇石/9.資料館/10.巣守郷/11.琴平、毛利/12.古文書/13.翻刻/14.市子/15.まほり/16.盂蘭盆/17.奪掠/18.形見

  


  

to Top Page     to 国内作家 Index