唯野未歩子
(ただのみあこ)作品のページ


1973年東京都生。武蔵野美術短期大学でグラフィック・デザイン、多摩美術大学で映画制作を学ぶ。多摩美大在学中に映画「フレンチドレッシング」にて女優デビュー、毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞、2005年映画「三年身籠る」にて監督・脚本を担当し高崎映画祭若手監督グランプリを受賞。同時に映画と並行して書いた同名小説にて作家としてもデビュー。


1.
僕らが旅にでる理由

2.
はじめてだらけの夏休み

 


   

1.

●「僕らが旅にでる理由」● 


僕らが旅にでる理由画像

2009年08月
文芸春秋刊

(1524円+税)

  

2009/09/29

     

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大学生の衿子は歯科医のひとり娘で、当然のように跡を継ぐものと目されている。
衿子には恋人というべき存在が「月火水木金」と5人いて、各々「月曜日君」というように呼んでいる。衿子にとって5人とのデートは往診のようなものであって、医師と患者のような関わり。だから一人一人の名前など覚える必要もない、という。
そんな衿子が、休日に歯の治療に訪れてきた40代男性のラーさんとふと旅に出る、というストーリィ。

とらえどころのないストーリィ、私はどうもこのタイプの作品が苦手です。

枠にはまったような生活。そこから旅に出るということはどういうことか。
旅先では生活のパターンというものから一切切り離され、自由。無軌道という方が相応しいかもしれない。
ラーさんと2人、ふらふらと漂っているうちに松本パルコという女性が加わり、やがて具体的な生活という姿が見えてきて、自分もまた決断しなくてはならない時期が見えてくる。
これもまた「可愛い子には旅をさせろ」の、現代変形パターンなのでしょうか。

“唯野版「不思議の国のアリス」”? う〜ん・・・・。

           

2.

●「はじめてだらけの夏休み」● ★★


はじめてだらけの夏休み画像

2012年10月
祥伝社刊

(1400円+税)

2016年07月
祥伝社文庫化

  

2012/11/18

  

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終業式、葉太 9歳が家に帰ると、母親は置手紙を残して新潟の祖父母の元に帰ってしまっていた。このままでは自殺してしまうかもしれないと。母親が心の病気になったのは、自分の所為だと葉太は思い込んでいる。
翌日の朝起きると、5ヶ月ぶりに会う録音技師の父親がリビングで寝込んでいた。父親はだらしない、すぐに部屋は雑然となってしまっている。でも負けてたまるかと葉太は思う。出ていくべきなのは父親の方だから。
 
副題は
「大人になりたいぼくと、子どもでいたいお父さん」
まさにその通りなのが、この父子の姿。
母親が不在となり、後に残された父子2人だけの夏休みが始まります。最初こそ父親を拒否していていた葉太でしたが、ハプニングもあり、それをきっかけに次第に父子の距離が近づいていきます。
父親であり夫であるという自覚の足りない父親は困ったものですが、その子供じみた振る舞いに引き込まれ、いつしか葉太が子供らしい元気いっぱいな姿を取り戻していく処は実に気持ち良い。
大人である以上きちんと大人らしくあらねばならないのと同様、子供はやはり子供らしくあるのが一番と、改めて感じさせられます。

大人らしさの足りない父親と、子供らしさを少し欠いている息子との、ひと夏の前進ストーリィ。
2人の父子としての絆を深めていく姿には心温まるものがあります。
気持ちの好い、ささやかな父子物語。お薦めです。

       


   

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