雀野日名子
(すずめのひなこ)作品のページ


1975年石川県生、大阪府・福井県育ち、大阪外国語大学外国語学部卒。ブラック企業に勤務しながらゴーストライター、ノベライズライター。2006年「機械じかけのアン・シャーリィ」にてジャイブ小説大賞入選、07年「あちん」にて第2回「幽」怪談文学賞短編部門大賞を受賞し作家デビュー。08年「トンコ」にて第15回日本ホラー小説大賞短編賞、09年第10回げんでん芸術新人賞、13年福井県文化奨励賞を受賞。


1.終末の鳥人間

2.笑う赤おに

3.かぐや姫、物語を書きかえろ!

 


           

1.
「終末の鳥人間」 ★☆


終末の鳥人間画像

2012年07月
光文社刊
(1900円+税)

2015年10月
光文社文庫化


2012/09/04


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人力飛行機という題材自体珍しいものだと思うのですが、何と直前に読んだ中村航「トリガール!に続き、またもや人力飛行機制作に向けた奮闘ストーリィ。

「トリガール!」と異なるのは、主人公たちが高校生であること、人力飛行機に情熱を燃やす教師によって無理矢理立ち上げられた同好会であること、メンバー皆々(教師も生徒も)が周りから軽視されあるいはハブされている人間ばかりであること。
そして、舞台設定は何故か極近未来。北朝鮮の挑発に日本国首相も再三挑発をやり返し、米軍在日基地の縮小に合せて、日本の安全保障上の危機がこれ以上ないくらい高まっているという状況。
人力飛行機と日本の危機、どうしてこの2つが合わさっているのか皆目判らないながらも、「トリガール!」のおかげで人力飛行機制作に向けた前半の奮闘部分はよく判ります。
しかし後半、ストーリィは全く予想もしなかった展開へ。余りの変貌に、正直なところ呆然としてしまいます。結末は本当にやるせない。
果たして日本の危機を、若者たちの純粋な行動で救えるのか。

後半に描かれる日本の危機に人力飛行機を絡ませた部分は、かなり無茶苦茶だと思うものの、外交を誤るとこうした危機が現実のものになりかねないという事実を肝に銘じた気分です(現に日米の同盟関係を危うくした愚宰相が実在した訳ですから)。
ある意味、本作品は近未来の政治ホラー小説かもしれません。

    

2.
「笑う赤おに ★★


笑う赤おに

2016年01月
双葉社刊

(1700円+税)



2016/02/08



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高齢者福祉を謳うA市、その市営福祉団地を主舞台に描かれる、不穏でスリリングがサスペンスストーリィ。

ミステリあるいはサスペンスと思われた作品ですが、実態としてはA市に住む3人の人物を主人公にしたドラマが並行して、時には交錯して描かれていきます。
1人目は専業主婦の
篠口依子。不器用なため夫と小2の娘、さらには義母からも軽んじられている女性。しかし、ある日娘の朱里に起きた事件をきっかけに、もう誰にも頼れないと思い定めた依子はたった一人行動をし始めます。
2人目は、実家の酒屋が潰れたため大学を中退し蕎麦屋のバイト店員となっている
下澤亘。国民年金の保険料納付を督促されて苦しむ亘は先輩店員の石崎と組んで、生活保護を不正受給している老人たちを罰しようと小さなネット詐欺を企みます。
3人目は、中年サラリーマンの
近藤賢太郎。福祉団地で親を虐待しているのではないかと思われる男が気になり、“鬼息子”と名付けたその男の挙動に注意を払うようになります。

その3人の視線の視線の先に、常に
赤荻賢吾という中年男が登場します。胡散くさそうで、目が合うとニイッと笑いを浮かべる赤荻は極めて不気味。ネット掲示板には「2人の人間を殺し、3人目を殺すためにこのA市にやってきた」という文言が書きこまれますが、その発言者は赤荻か。いつしか赤荻は“赤おに”と呼ばれ、ネット掲示板で彼の様々な情報が取沙汰されていきます。
サスペンスの筈なのに、描かれるのは3人のドラマばかり。でも一人一人のドラマがとても濃くて読み応え十分なのです。
その一方で、彼らの頭上を不穏な空気が覆います。

老人福祉、不正受給、ニート、家庭崩壊、ネット上に晒される個人情報、本ストーリィに含まれる現代社会の問題は枚挙にいとまがない程。しかし、結末で明らかになる事実は、全く予想外でただただ唖然とする他ありません。
最後はストーリィ全体を覆っていた不気味な黒雲が一気に取り払われ、何やらスカッとした気分です。
仕掛けに満ち、ちょっと恣意的なところも感じますが、このドラマ構成はお見事、文句なく読み応えたっぷりです。お薦め。

                

3.
「かぐや姫、物語を書きかえろ! ★★


かぐや姫、物語を書きかえろ!

2021年11月
河出書房新社

(1670円+税)



2021/11/22



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物語の神>、「正しい物語」は男が中心に存在しなくてはならないと、女性を崇めたてた縄文時代、弥生時代の物語を「正しい物語」に直したのだとか。
そして今、「帝の結婚」という物語を動かしているところ。

ところが、その物語の中で、女の模範と位置づけた
気弱な姫=さよと、戒めるための存在である勝気な姫=ごうが、女人が自在に生きられる物語を一緒に作ろうと反旗を翻します。
そこから始まる、弾圧をくり返す物語の神と、女の自由を勝ち取ろうとするさよ&ごうの闘いが、幾つもの時代、幾つもの文学作品にまたがって繰り広げられていく、という連作ストーリィ。
まずはその着想に興味を惹きつけられます。

本ストーリィの始まりである
「竹取物語」、現在にも語り継がれているものと逆転した展開が面白く、2人の姫の登場に期待が膨れます。
次の
「源氏物語」では、<末摘花>の話をこう持って来るか、さらにまた逆襲の物語が面白い。
「竹取物語」と「源氏物語」の2話はファンタジー的な味わいがあり、物語の神ともそれなりにせめぎ合っている感があり、楽しめます。
しかし、
「舞姫」「蟹工船」の話に至ると、舞台が近代へ移った所為か、女性たちの悲哀を強く感じさせられます。

ユニークでユーモラスな物語かと思って読み始めた本書、実は長きに亘り女性は虐げられてきた、男性はそれを傲慢にも当たり前のこととしてきたという批判を込めた作品かと、気が付いた次第です。
さよとごうという2人の姫君の闘いを描いたこの物語、まだまだ続いていると認識すべきなのでしょう。


1.「竹取物語」−はじまりの物語/2.「源氏物語」−女源氏とかぐや姫/3.「平家物語」−合戦場のかぐや姫/4.「仮名手本忠臣蔵」−四十七女とかぐや姫/5.「舞姫」−舞わない王子とかぐや姫/6.「蟹工船」−もう一度、はじまりの物語/かぐや姫、物語を作りだせ!

         


   

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