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1.さよなら、田中さん 2.太陽はひとりぼっち 3.私を月に連れてって 4.星に願いを |
「さよなら、田中さん」 ★★★ | |
2024年04月
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そのうちに読もうと思いながら、ついつい先延ばししてきてしまったのですが、新刊「星に願いを」を読む前に読んでおかなくてはとようやく読了。 もっと前に読んでおけば良かったと、心から思います。 主人公は、小学6年生の田中花実、貧乏な母子家庭。 母親の真千子は、男性に交って建設現場で力仕事、でも底抜けに明るく、いつも豪快に笑って日々を過ごしている女性。 そんな母親と一緒だからでしょう、花実も明るく、健気で、元気いっぱいな女の子。 息ぴったりの、そんな母娘の日々を描いた連作ストーリィですから、頁を繰る度に明るさと元気が溢れ出すようです。 この母娘の魅力は、貧乏であることに引け目を持っていないこと、悲壮感がなく、いつも堂々としていること。 それは母親も花実も、できることを精一杯やって生きている、という自信を持っているからでしょう。 ・「いつかどこかで」:同級生とその実父との再会に花実が立ち会うのですが・・・。 ・「花も実もある」:母親に縁談。自分がいなければ、と思い定める花実の胸の内がとても切ない。 ・「Dランドは遠い」:思い出作りに仲の良い友達とDランドへ行きたい、でもそんなお金はない・・・。母親を大事に思う花実の心情が愛おしい。 ・「銀杏拾い」:母娘が銀杏拾いに夢中になっている一方、神社では同級生が綺麗に着飾って七五三。余りに対照的。 ・「さよなら、田中さん」:花実によって元気づけられた同級生=三上くんの貴重な思い出と旅立ち。 作者の眼力が凄い。 小学生らしい目線で、背伸びすることなく、健やかに花実という女の子を描きだしているだけでも凄いのですが、子どもたちだけでなく、大人の世界もきちんと捉え、リアルに描き出しているところが素晴らしい。 他の作品もこれから読んでいこうと思います。 いつかどこかで・・・・・第10回<12歳の文学賞>大賞受賞作 花も実もある・・・・・・書下ろし Dランドは遠い・・・・・第 8回<12歳の文学賞>大賞受賞作 銀杏拾い・・・・・・・・書下ろし さよなら、田中さん・・・書下ろし |
「太陽はひとりぼっち」 ★★ | |
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好きだなぁ、この田中真千子・花実母子のストーリィ。 少しずつ追いかけて読んでいこうと思っています。 本巻は、前作の登場人物を各篇の主人公にした連作もの。 表題作の「太陽はひとりぼっち」は、母娘の元に、いきなり実母・祖母であるタツヨが現れ、いつものお金を貰うまで泊まらせてもらう、と強引に上がり込んできます。 祖母とは、必ずしも孫を無条件に可愛がってくれる存在ではないということを花実は知ります。そして母と祖母との関係に胸を痛めます。 「星に願いを」へと繋がっていくストーリィ。 なお、中学で花実が友人となった小原佐知子の状況、その決意には胸が痛みます。何て大人たちだ、と憤りを感じます。 また、賢人の不登校〜高校中退に至るまでの事情が明らかに。 「神様ヘルプ」の主人公は、「さよなら、田中さん」と口にして別れていった三上信也。 母親によって山梨の山奥にある寄宿制のミッションスクールへ入学させられた信也、いつの間にか信仰心を篤くし、将来は神父になろうと決意。 その信也と家族4人(両親、兄姉)とのすれ違いぶりがとにかく可笑しい。花実と再会した後の2人の一日が楽しそうです。 「オーマイブラザー」は、木戸先生。 大学4年生の時に失踪した兄は、何処へ行ったのか。 その謎が突然明らかになるのですが、成程と納得。気持ちの良いエンディングです。 太陽はひとりぼっち/神様ヘルプ/オーマイブラザー |
「私を月に連れてって」 ★★ | |
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花実母娘シリーズの第3作。 これで既刊4作を読了。やっと落ち着いた気分です。 ・「遠くへ行きたい」 花実と佐知子、のんちゃんという少女と知り合い、親しくなります。のんちゃん、ずっと家の中に隠れるように暮らしていて学校も行ったことがないという。何とかしてあげたいと花実と佐知子は行動するのですが、思わぬ展開に。 二人は思いも寄らぬ社会問題を知ることになります。 学校の職場体験で花実は工場へ。 そこで花実の指導担当になった村山しのぶさんという女性、花実の母=真千子と知り合いなのか? でも語ってくれず・・・。 ・「私を月に連れてって」 今もニート状況の賢人、27歳にして初恋を知る。 相手は、花実の北町小で担任だった木戸先生を訪ねてきて、賢人が案内してあげた、文代と名乗る綺麗な女性。 その正体は・・・多分、あの人。何も知らないのは賢人ばかり。 ・「夜を越えて」 冒頭篇に登場した村山しのぶが主人公。 小六の時、小児科外科病棟で同室となった田中真千子について回想する篇。 母親との関係で辛い目にばかり遭ってきたというのに、さらにこんな出来事まであったのかと、真千子の過酷な運命には涙を禁じ得ません。 花実と真千子の母子ストーリィ、未だ未だ奥があるようです。 遠くへ行きたい/私を月に連れてって/夜を越えて |
「星に願いを」 ★★★ | |
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「さよなら、田中さん」から始まり「太陽はひとりぼっち」「私を月に連れてって」と続く、花実母娘シリーズの第4作。 順番どおり読みたいところですが、デビュー作を初めて読んだのが今月のことですから、もはや仕方ない。ゆっくり読むより、早く本書を読みたいのですから。 「金の星」 小六だった田中花実も既に中三、高校進学を目前にしています。 母親の真千子は、相変わらず大家のおばさんと一緒のお茶をしながら馬鹿笑いしている日々。 そうした中、母親がひったくり被害に遭い、怪我をするという事件が発生。連絡を受けた花実、青ざめますが大した怪我ではないと知り、ホッ。それでも母娘の家計問題が心配になりますし、思わぬことで同級生の香川君との間にも・・・。 さらに、吉澤さんという女性が家を訪ねてきて、祖母タツヨが死去したという知らせをもたらします。 「星に願いを」 タツヨが遺したノート(日記)を花実が読み、祖母の人生が如何なるものであったか、母の真千子との確執の事情が明らかになります。 そこに書かれていたタツヨの人生は、まさに凄絶・・・。 前半は、デビュー作から変わらぬ花実の健気さ、強さ、明るさが味わえます。 しかし、後半の「星に願いを」の主役は、祖母タツヨとなり、余りに辛いことばかりの人生に、涙せずにはいられません。 真千子や花実の前でクソババアに徹するという覚悟が、如何ほどのものであったのか、それはもう本作を読んでもらう他ありません。 それにしても作者の鈴木るりかさん、まだ若いのに、何故これ程の、重たい人生ストーリィ、登場人物が抱えた苦しみ、悔いをかくもリアルに描き出すことができたのかと、驚くばかり。 真千子、タツヨにもう心からの和解はできないでしょうけれど、亡き祖母を想う花実の健やかな心に救いを感じます。 ※未読の2冊も、絶対に読もうと、改めて思う次第。 金の星/星に願いを |