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「青山に在り」 ★★ 日本歴史時代作家協会賞作品賞 | |
2021年11月
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時代小説においては珍しい、と言って差し支えないような、新鮮にして清冽な青春成長ストーリィ。 川越藩の家老=小河原左宮の息子である左京は、ふと訪れた村の剣術道場で、自分に驚くほどよく似た百姓の息子=時蔵に出会います。 その時に木刀を合わせ、その後も何度か時蔵と言葉を交わした左京は、時蔵と心が通じ合うものを感じ、武士・百姓という身分の差を越えて「友」となる約束を交わします。 身分を越えた互いへの信頼を元に、両方の家族に紹介し合い、また左京は時蔵の従妹だという酒問屋の娘=お通と知り合うことによって、お互いに世界が広がっていく。 家老という高い職にある左宮もまた、百姓だからといって時蔵を見下げることなく、2人の友情を良しとし、2人を前に「家青山に在り、道自ずから尊し」という漢詩を以て「清冽に生きよ」と2人の若者を励まします。 しかし、幕末動乱の時世、否応なく2人も無関係ではいられません。 そんな折、高潔な人物を、その高潔さ故に憎悪しようとする旗本小野家の家臣=宗方舎人が立ち塞がります。 舎人にとっては、小河原左宮や左京、時蔵のような清冽な人間こそ憎まずにはいられない相手。 やがて3人と舎人の因縁は、序章に描かれた事件に遡るものであったことが明らかになります。 人はいかに生きるべきか。 その姿勢、心の持ち方、それらを左京や時蔵と共に、左宮から教えられた気がします。 身分や姿格好によって評価せず、相手の人間性をしっかり見取って、真摯に向かい合う。そのどれ程尊いことかと思います。 読後感は、突き抜けるくらいに爽快です。お薦め。 序章/1.縁/2.甘酒/3.さらぬ別れ/4.武州世直し一揆/5.青山の賦/6.お通の客/7.子の日の松/8.富津陣屋/9.烈日/10.道 |