篠 綾子作品のページ


1971年埼玉県春日部市生、東京学芸大学卒。私立高校に国語教師として勤務する傍ら小説を執筆。99年「春の夜の夢のごとく−新平家公達草紙」にて第4回健友館文学賞を受賞し作家デビュー。2003年「明月に楽す」にて第20回新風舎出版賞奨励賞、05年短編「虚空の花」にて第12回九州さが大衆文学賞佳作、17年「更紗屋おりん雛形帖」シリーズにて第6回歴史時代作家クラブシリーズ賞、19年「青山に在り」にて日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。

 


                   

「青山に在り ★★       日本歴史時代作家協会賞作品賞


青山に在り

2018年12月
角川書店

(1600円+税)

2021年11月
角川文庫



2019/02/07



amazon.co.jp

時代小説においては珍しい、と言って差し支えないような、新鮮にして清冽な青春成長ストーリィ。

川越藩の家老=小河原左宮の息子である左京は、ふと訪れた村の剣術道場で、自分に驚くほどよく似た百姓の息子=時蔵に出会います。
その時に木刀を合わせ、その後も何度か時蔵と言葉を交わした左京は、時蔵と心が通じ合うものを感じ、武士・百姓という身分の差を越えて「友」となる約束を交わします。

身分を越えた互いへの信頼を元に、両方の家族に紹介し合い、また左京は時蔵の従妹だという酒問屋の娘=
お通と知り合うことによって、お互いに世界が広がっていく。
家老という高い職にある左宮もまた、百姓だからといって時蔵を見下げることなく、2人の友情を良しとし、2人を前に
「家青山に在り、道自ずから尊し」という漢詩を以て「清冽に生きよ」と2人の若者を励まします。

しかし、幕末動乱の時世、否応なく2人も無関係ではいられません。
そんな折、高潔な人物を、その高潔さ故に憎悪しようとする旗本小野家の家臣=
宗方舎人が立ち塞がります。
舎人にとっては、小河原左宮や左京、時蔵のような清冽な人間こそ憎まずにはいられない相手。
やがて3人と舎人の因縁は、序章に描かれた事件に遡るものであったことが明らかになります。


人はいかに生きるべきか。
その姿勢、心の持ち方、それらを左京や時蔵と共に、左宮から教えられた気がします。
身分や姿格好によって評価せず、相手の人間性をしっかり見取って、真摯に向かい合う。そのどれ程尊いことかと思います。
読後感は、突き抜けるくらいに爽快です。お薦め。


序章/1.縁/2.甘酒/3.さらぬ別れ/4.武州世直し一揆/5.青山の賦/6.お通の客/7.子の日の松/8.富津陣屋/9.烈日/10.道

        


   

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