「スナック墓場」 ★★☆ (文庫改題:駐車場のねこ) |
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2022年04月
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既読「襷がけの二人」が充分に島津さんの力量を示すものでしたので、デビュー単行本も読んでおきたいと思った次第。 その結果は、予想をはるかに超えて魅了されました。 収録されたどの篇も、日常のほんの小さなヒトコマを描いているだけなのですが、これが実に上手い! そして筆さばきも、実にお見事! どの篇にも温かな可笑しみがあって、楽しさもある。 こうした日々があるなら、充分に生きていける、と思う程。 収録されている短篇のうち、 「カシさん」は第1回林芙美子文学賞最終候補、「姉といもうと」は第96回オール讀物新人賞、「一等賞」はその年のベスト短篇を集めた日本文藝作家協会編「短篇ベストコレクション−現代の小説2019」収録、というのですから、何をか況や。 どの篇も面白いのですが、上記3篇がとくに絶品。 これから注目せざるをえない作家と、また出会えました。 ・「ラインのふたり」:工場のライン作業で働く中年女性二人、シスターフッドのような関係と、ジャミラとの関りが愉快。 ・「カシさん」:夫婦二人で営むクリーニング屋に現れた30代の女性客。下着まで差し出してくるのですが・・・。 ・「姉といもうと」:共に大卒だというのに、姉は通いの家政婦として働き、指に障害をもつ妹はラブホテルのフロント係。 姉の理由が幸田文「流れる」に憧れてというのも興味どころですが、妹の人物像がまた見事。是非お薦め。 ・「駐車場の猫」:布団屋の向かい側にあるふぐ料理屋、不愛想な男等にふと生じた疑念は? ・「米屋の母娘」:安いけれどおかずがスカスカという米屋の弁当、それを巡る主人公と米屋母娘のやりとりが実に滑稽。 ・「一等賞」:商店街店主たちの手渡し感あるリレーションが愉快で、気持ちが温まります。 ・「スナック墓場」:スナックのママと店員という関係にあった3人による閉店後の同窓会。楽しそうです。 ラインのふたり/カシさん/姉といもうと/駐車場の猫/米屋の母娘/一等賞/スナック墓場 |
「襷がけの二人」 ★★ | |
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製缶工場を営み裕福な父親の友人=山田高助、その息子である茂一郎の元に19歳で嫁いだ千代。 夫との関係は、新婚初夜の躓きからうまく行かないままですが、女中頭であるお初さん、若い女中のお芳とすっかり打ち解け、楽しく日々を過ごすことになります。 そこから20年以上にわたる、女性同士の繋がりを描いたストーリィ。 千代と茂一郎との関係はいびつなまま続いていく。 しかし、そんな千代の山田家での生活はいつまでも続きません。生活を大きく変えたのは、戦争、そして東京大空襲。 なお、本ストーリィの冒頭は、失明し三味線の師匠として生計を立てているお初さん(三村初衣)に、口入れ屋の紹介で千代が住み込み女中として雇われるところから。 千代、お初さん、お芳という3人の関係がとても楽しそう、かつ居心地良さそうで、読んでいてとても気持ちいい。 お芳は結婚して山田家から離れますが、千代とお初さんの周囲には様々な人物が登場するものの、この二人の繋がりは最強、といって良いのではないか。 ストーリィの中心にあるのは、家事、中でも特に料理。 お初さんがタンシチューに腕を振るったり、千代が戦後雇われた寮母の仕事や女中勤めで食事作りに奮闘したりと、女性ならではの世界が描かれています。 雇い主と女中とか、そうした主従関係を超えた二人の繋がり、やりとりがとても楽しい。是非お薦めです。 再会−昭和二十四年(1949年)/嫁入−大正十五年(1926年)/噂話−昭和四年(1929年)/秘密−昭和七年(1932年)/身体−昭和八年(1933年)/戦禍−昭和十六年(1941年)/自立−昭和二十四年(1949年)/明日−昭和二十五年(1950年) |