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31.遠くまで歩く 32.帰れない探偵 |
【作家歴】、きょうのできごと、青空感傷ツアー、ショートカット、フルタイムライフ、いつか僕らの途中で、その街の今は、また会う日まで、主題歌、星のしるし、ドリーマーズ |
寝ても覚めても、よそ見津々、ビリジアン、虹色と幸運、わたしがいなかった街で、週末カミング、よう知らんけど日記、星よりひそかに、春の庭、きょうのできごと十年後 |
パノララ、かわうそ堀怪談見習い、千の扉、公園へ行かないか?火曜日に、つかのまのこと、待ち遠しい、百年と一日、大阪、続きと始まり、あらゆることは今起こる |
「遠くまで歩く」 ★★ | |
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コロナウィルス感染拡大の最中、小説家の森木ヤマネは映画監督の丘ノ上太陽から誘われ、あるオンライン講座に講師の一人として参加することになります。 大学や自治体等が協力して行われているその実践講座は、「身近な場所を表現する/地図と映像を手がかりに」というもの。 写真や散歩、記憶といったストーリー要素は、柴崎作品においてしばしば登場するものですが、その点からして本作は極めて興味深いものがあります。 これまでは主人公の視点から語られるものでしたが、本作においては講座に参加している受講者たちという、複数の視点から語られ、描き出されるという処に、新しい試みを感じます。 ヤマネが参加しての第一回目の課題は・・・写真+文章。 第二回目の課題は・・・3枚の写真+文章。 前者では写真を元に提出者各自の記憶が流れ出し、後者では3枚の写真を基にして生まれた物語が流れ出す、といった具合。 また、受講者の写真や物語から、ヤマネ自身の記憶や思い出が流れ出す処も面白い。 そうか、物語とはこのようにして生まれるのだと感じる処あり。 また、本作の中では、オンラインでの繋がりと、現実で会って話すことの対比が為されているように感じます。 オンラインでも会話や思いを告げることはできる、しかし、現実感はもう一つ、なのではないかと思う処。 それでも人と人との繋がりは確かに生まれます。そう思うのは終盤での集いがあるから。 受講者によるという設定の元に語られる話、物語に、結構惹きつけられます。 小説という技法における新たな試みを読んだ気がして面白く、気持ち良い。好感を覚えます。 1.忘れられた小説−ある年の八月/2.地図をはじめる−九月/3.場所を思い出す−十月/4.道をたどる−十一月/5.声を聞く、声を話す−秋から冬へ/6.話すことを思い出す−次の春から夏/7.遠くまで歩く−さらに次の年の秋 |
「帰れない探偵」 ★★ | |
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題名を知って驚きました。あの柴崎さんが探偵もの? また各章の冒頭、並びに末尾には「今から十年くらいあとの話」とあり、近未来小説? 主人公となるのは、本当に女性の探偵。 <世界探偵委員会連盟>の探偵学校で学び、その後インターン、専修コースの訓練を受けて、フリーの探偵に。 そしてストーリーは、依頼を受けての彼女の探偵活動が描かれるのです。 ただし、彼女はある事情から故国に帰国できなくなっており、さらに冒頭の章で、この街に居つくため借りた事務所・自宅の場所が分からなくなって帰れなくなってしまった、という状況に陥ります。 それ以降、彼女はあちこちの街を転々として探偵仕事を続けることになります。 何故、事務所兼自宅に帰れなくなったのか、探偵仕事の内容が本作の狙いではない、ということが読み進むにつれ次第に感じられてきます。 重要なのは、故郷に帰れない、自分の居場所を失ってしまった、ということ。 彼女はあちこちの場所、街を転々としますが、何処に行ってもよそ者でしかなく、そこで受け容れられることはありません。 そこから感じとることは、分断であり、孤立、孤独、ということ。自分の国を失うとは、居場所を失うとはこういうことなのかと考えさせられます。 既に世界には難民と言われる人々が多くおり、日本にも暮らしています。今のところ日本がそうした状況に追い込まれることは考えられませんが、絶対ありえない、ということでもない。 柴崎さんが10年後の出来事としている意味は、近未来に向けての警告メッセージであるからではないでしょうか。 そのうえで、最後の章には希望が感じられて、ホッとします。 帰れない探偵−急な坂の街で−/知らない街のように−急な坂の町で2−/雨に唄えば−傘を差さない町で−/探す人たちは探しものをみつける−夜にならない夏の街で−/空の上の宇宙−太陽と砂の街で−/夢には入れない−雨季の始まりの暑い街で−/歌い続けよう−あの街の空港で− |
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