榊 東行作品のページ


東京大学、ハーヴァード大学等を経て、現在某省庁課長補佐との由。

   


  

●「三本の矢」● ★★




1998年04月
早川書房刊

上下
(各1600円+税)

   

1998/08/23

日本においても現実となってきた銀行倒産のストーリィ、しかも著者が現役の大蔵省キャリア官僚とのことで話題になった作品です。
宣伝過剰かと思っていましたが、どうしてどうしてなかなか面白いし、興味をそらせない書きっぷりで、見事なものです。
ストーリィはというと...国会での蔵相の失言から、長期信用銀行のひとつである日本不動産金融銀行が倒産に追い込まれる。しかしその裏には答弁資料を摩り替えた計画的な陰謀があった。
誰が、何の為に、摩り替えたのか。大蔵省銀行局の一課長補佐・紀村が、特命を受け、限られた時間の中で犯人探しに奮闘する。
面白さのひとつは、大蔵省キャリア官僚の仕事振りを細かく説明するように描き出していること。更に、市中銀行との密着振り、政治家の官僚への依存振りまでも描き出していて、興味津々。
大蔵省内での主計グループと財政グループの主導権争いなどは、迫真的な面白さがあります。
ちょうど、長銀の救済合併がニュースで取り上げられている時期。本書と現実のニュースを合わせ読むようで、リアルさが増します。
もうひとつは、官僚の立場からの金融論、経済論、政治論も展開され、考えるべき問題が無理なく織り込まれていること。さすが大蔵官僚というべきか、単なるミステリだけの作品に終わらせていません。

下巻にはいると、理論・理屈の展開が多くなりますが、要は政官財のトライアングル構造を具体的に描き出した作品と言えます。登場するキャリア官僚像には、使命感の強い人間もいる一方、良い加減にせよと言いたい輩もいる。まあ、一般社会と変わらないのでしょう。
また、結果的共犯者とも言うべき、貧相な日本のマスコミへの批判も具体的に述べられています。
ミステリ仕立ての中で、政官財の構造を浮き彫りにし、日本のこれからの課題を分かり易く知らしめているという点で、充分評価に値する作品だと思います。

  


    

to Top Page     to 国内作家 Index