|
|
1.鯉姫婚姻譚 2.馬鹿化かし |
「鯉姫婚姻譚」 ★☆ 日本ファンタジーノベル大賞2021大賞 | |
|
人と人魚の恋の行方は? 人間と人間ならざるものとの“異類婚”を題材にしたファンタジー大賞受賞作。 主人公の孫一郎は28歳。親から呉服屋を継承したものの商売の才なく、嫁にも愛想をつかされて逃げられ、優秀な異母弟の清吉に店を譲って今は楽隠居の身。 父親が残した町はずれの屋敷に住んでいるのですが、そこには大きな池があり、何と上半身は童女で下半身はまるで鯉という人魚=おたつが棲みついている。 そのおたつ、「孫一郎と夫婦になってあげようと思うの。嬉しいでしょう」と言い放ち、差し出された菓子を遠慮なく喰らっては孫一郎に話をせがむ、というパターン。 そして孫一郎が語る話というのが、各篇の題名をみれば分かるように、様々な異類婚の物語、という次第。 本作の面白さは、各異類婚話と、孫一郎とおたつがどう結ばれるのか、結ばれないのか、に尽きます。 お伽話を聞くような楽しさがある一方、異類婚の結果はハッピーエンドにはならないという切なさが各物語にはあります。 そして、現代社会においては同性婚問題が取り沙汰されていますが、異類婚とは究極の姿ではないか、とも思えてきます。 さて、孫一郎とおたつの関係は、ハッピーエンドを迎えることができるのか。いや、これをハッピーエンドということができるのか。 いずれにせよ、異類婚とは通常の結婚の形からはかけ離れたものになる、ということなのでしょう。 なお、孫一郎、畠中恵“しゃばけ”シリーズの若だんなのようにぼんやりしている風であるのと対照的に、おたつは可愛げでもあり恐ろし気でもあり。その処を是非楽しんでみてください。 1.猿婿/2.八百比丘尼/3.つらら女/4.蛇女房/5.馬婿/6.鯉姫 |
「馬鹿化かし」 ★★ | |
|
藍銅さん2作目は、おどろおどろしい?幕末妖異もの。 とは言いつつ、余りに妖異過ぎて、ブラックではあるものの面白く読めてしまう処あり。 主人公は歴史上有名な実在の人物、山田朝右衛門。 江戸時代、徳川家が所有する刀剣の試し切り(御様御用)を務めると共に死刑執行人(斬首)も兼ね、代々「浅右衛門あるいは朝右衛門」を名乗っていた人物の一人。 朝右衛門、ある日引き据えられた罪人を斬首しようとすると、その罪人の顔は馬か鹿の如きに見え、驚く。しかもそう見えるのは朝右衛門だけらしい。 逃げ出したその罪人は夜になって山田屋敷を訪ねてくると、服部半蔵と名乗り、自分は不死の化け物であり、アンタとは三百年前に逢っていると語る。そしてそれ以来半蔵は、朝右衛門が唯一人で住んでいた屋敷に住み込み、朝右衛門の世話をするようになります。 要は、生真面目な朝右衛門と軽妙な化け物であるの半蔵というコンビが、様々な怪異にぶち当たるという、幕末バディもの妖異ファンタジー。 その二人に加え、末裔だという長屋住まいの安部晴明が、二人とは違った持ち味を発揮するかと思えば、そもそも朝右衛門自身、半蔵曰く死神に憑かれている、というのですから凄まじい。 さらに、かつて朝右衛門と道場仲間だったという清水紺太夫、その家は代々犬神に憑かれているというのですから、妖異対妖異の戦いが繰り返される、といった展開。 妖異ではないながら、吉田松陰、沖田総司、土方歳三というやはり実在の人物も登場し、驚きばかりで飽きることなし。 また、何度身体を切り離されてもその都度また繋がって元通り、という半蔵のキャラクターが賑やかで、とにかく面白い。 読む人の好み次第だと思いますが、相当にユニークな妖異譚。 こうしたファンタジーもありと、面白く読みました。 くび/ゆび/いぬ/ふし/ゆめ/ども/たび/おに/れい |