藍銅(らんどう)つばめ作品のページ


1995年生、徳島大学総合科学部人間文化学科卒。幼少期を大阪、青春期を徳島で過ごす。ゲンロン大森望SF創作講座、第4期受講生。第4回ゲンロンSF新人賞優秀賞受賞。図書館勤務、図書館司書資格保有。「鯉姫婚姻譚」にて日本ファンタジーノベル大賞2021大賞を受賞。


1.鯉姫婚姻譚 

2.馬鹿化かし 

 


                   

1.
「鯉姫婚姻譚 ★☆        日本ファンタジーノベル大賞2021大賞


鯉姫婚姻譚

2022年06月
新潮社

(1600円+税)



2022/07/20



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人と人魚の恋の行方は?
人間と人間ならざるものとの“異類婚”を題材にしたファンタジー大賞受賞作。

主人公の
孫一郎は28歳。親から呉服屋を継承したものの商売の才なく、嫁にも愛想をつかされて逃げられ、優秀な異母弟の清吉に店を譲って今は楽隠居の身。
父親が残した町はずれの屋敷に住んでいるのですが、そこには大きな池があり、何と上半身は童女で下半身はまるで鯉という人魚=
おたつが棲みついている。
そのおたつ、
「孫一郎と夫婦になってあげようと思うの。嬉しいでしょう」と言い放ち、差し出された菓子を遠慮なく喰らっては孫一郎に話をせがむ、というパターン。

そして孫一郎が語る話というのが、各篇の題名をみれば分かるように、様々な異類婚の物語、という次第。
本作の面白さは、各異類婚話と、孫一郎とおたつがどう結ばれるのか、結ばれないのか、に尽きます。

お伽話を聞くような楽しさがある一方、異類婚の結果はハッピーエンドにはならないという切なさが各物語にはあります。
そして、現代社会においては同性婚問題が取り沙汰されていますが、異類婚とは究極の姿ではないか、とも思えてきます。

さて、孫一郎とおたつの関係は、ハッピーエンドを迎えることができるのか。いや、これをハッピーエンドということができるのか。
いずれにせよ、異類婚とは通常の結婚の形からはかけ離れたものになる、ということなのでしょう。

なお、孫一郎、畠中恵“しゃばけ”シリーズの若だんなのようにぼんやりしている風であるのと対照的に、おたつは可愛げでもあり恐ろし気でもあり。その処を是非楽しんでみてください。


1.猿婿/2.八百比丘尼/3.つらら女/4.蛇女房/5.馬婿/6.鯉姫

           

2.
「馬鹿化かし ★★


馬鹿化かし

2025年05月
集英社

(1800円+税)



2025/06/05



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藍銅さん2作目は、おどろおどろしい?幕末妖異もの。
とは言いつつ、余りに妖異過ぎて、ブラックではあるものの面白く読めてしまう処あり。

主人公は歴史上有名な実在の人物、
山田朝右衛門
江戸時代、徳川家が所有する刀剣の試し切り(御様御用)を務めると共に死刑執行人(斬首)も兼ね、代々「浅右衛門あるいは朝右衛門」を名乗っていた人物の一人。

朝右衛門、ある日引き据えられた罪人を斬首しようとすると、その罪人の顔は馬か鹿の如きに見え、驚く。しかもそう見えるのは朝右衛門だけらしい。
逃げ出したその罪人は夜になって山田屋敷を訪ねてくると、
服部半蔵と名乗り、自分は不死の化け物であり、アンタとは三百年前に逢っていると語る。そしてそれ以来半蔵は、朝右衛門が唯一人で住んでいた屋敷に住み込み、朝右衛門の世話をするようになります。

要は、生真面目な朝右衛門と軽妙な化け物であるの半蔵というコンビが、様々な怪異にぶち当たるという、幕末バディもの妖異ファンタジー。
その二人に加え、末裔だという長屋住まいの
安部晴明が、二人とは違った持ち味を発揮するかと思えば、そもそも朝右衛門自身、半蔵曰く死神に憑かれている、というのですから凄まじい。
さらに、かつて朝右衛門と道場仲間だったという
清水紺太夫、その家は代々犬神に憑かれているというのですから、妖異対妖異の戦いが繰り返される、といった展開。

妖異ではないながら、
吉田松陰、沖田総司、土方歳三というやはり実在の人物も登場し、驚きばかりで飽きることなし。
また、何度身体を切り離されてもその都度また繋がって元通り、という半蔵のキャラクターが賑やかで、とにかく面白い。

読む人の好み次第だと思いますが、相当にユニークな妖異譚。
こうしたファンタジーもありと、面白く読みました。


くび/ゆび/いぬ/ふし/ゆめ/ども/たび/おに/れい

         


   

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