|
|
1.レールの向こう 2.あなた |
1. | |
「レールの向こう」 ★★☆ 川端康成文学賞 | |
|
川端康成文学賞を受賞した「レールの向こう」を含む、沖縄を舞台とした短篇集。 |
2. | |
「あなた」 ★★☆ |
|
|
私小説とは縁のない小説ばかりを書いてきたという、92歳になる作家が「レールの向こう」に続いて刊行した私小説集。 読み始めてすぐ、あぁ良い小説だなぁと感じました。 じっくり読むほどに味わいがあり、また喜びも感じる、という類の一冊。 また、行間から感じられる沖縄の雰囲気も好いんだよなぁ。 ・「あなた」:1954年に見合い結婚して以来60年余を連れ添った亡き妻へ「あなた」と語り掛け、2人で共に過ごした年月を振り返った表題作。 名前を呼ぶのではなく「あなた」と呼ぶその言葉の中に、客観的に語ろうとし、妻を正当に評価したいと願う気持ちと共に、愛しく想う気持ちが温かみをもって感じられ、とても味わい深い篇になっています。 また、結婚が決まり2人でデートした折に亡き妻が語ったという「わたし、一所懸命やるわ」という言葉が、いつまでも清冽に繰返し響いてきて、印象的です。 ・「辺野古遠望」:いうまでもなく、普天間基地の辺野古移転問題について、沖縄人の一人としての思いを語った篇。 今は、日本政府と米国の両方を相手にしなくてはならない。「米国だけを相手にしていたころの方がむしろ楽だった思われる節がある」というその言葉には、思わず頭を下げたい気持ちに駆られます。 ・「B組会始末」:同窓会を機に、かつての同級生たちのその後と思い出を語った篇。懐かしさと郷愁を感じる次第。 ・「拈華微笑(ねんげみしょう)」:父親の思い出を語った篇。身勝手で浪費家、一緒に暮らした時間も短いという、どうしようもない父親ではあったものの、確かに筆者に対する愛情、優しさがあったと語っています。 ・「御嶽の少年」:中城村の祖父母の家で過ごした夏休みの日々の思い出を語った篇。いかにも田舎らしくのどかに過ぎていく時間が、むしろ豊かに感じられて愛おしい。 ・「消息たち」:東亜同文書院時代の学友たちから始まり、学生時代当時らの友人たちの消息を語った掌編。 あなた/辺野古遠望/B組会始末/拈華微笑/御嶽の少年/消息たち |