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「擬傷(ぎしょう)の鳥はつかまらない」 ★★ 新潮ミステリー大賞 |
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2025年03月
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新潮ミステリー大賞という言葉に惹かれて読んだ作品ですが、ミステリというより、生きるうえでの覚悟を問う、異世界の扉を開くサスペンス、と感じます。 読後感は、複雑な思い、という一言。 主人公の沢渡幸(サチ)は、“アリバイ屋”(風俗嬢たちに偽の身元証明を提供)のほか、極秘で“逃亡屋”を務める女性。 そのサチの元にいきなり「自分たちを逃がしてほしい」と飛び込んできたのは、未成年のデリヘル嬢2人(メイとアンナ)。 危ういものを感じながらも以来を依頼を引き受けたサチですが、依頼を果たす前にメイは飛び降り自殺? そしてサチは、2人が引き起こしたデリヘル店長の久保寺とその背後にいる暴力団員とのトラブルに巻き込まれてしまう。 しかも、2人の過去には、共同生活をしていた少年少女が仲間の少女を殺して遺棄するという事件があった。 メイとアンナが引き起こしたトラブルは何なのか? 久保寺に監視しながらサチはその真相を明らかにしようと行動を始めます。その辺りはまさにミステリそのもの。 一方、9年前に人を殺したというサチには、どんな過去が隠されているのか。そして、サチが持つ鍵、<ここではない何処か>への扉の向こうにある世界の正体は何なのか。 ストーリィ自体は、ハラハラしながらも面白く辿っていけます。 しかし、読後感はとてもスッキリしたものとは言えません。 それでも、安易に別世界へ逃げず、自分が仕出かした罪を背負って生き続けることもまた、ひとつの生きる道なのでしょうか。 ※題名の「擬傷の鳥」とは、外敵に襲われそうになったとき、ひな鳥を逃がすため親鳥が傷を負って弱っているように擬態し、自分を狙わせる好きにひな鳥を逃がす行動、とのこと。 プロローグ/1.偽称/断章T/2.戯笑/断章U/3.偽証/断章V/4.擬傷/終章 |