鰹節やつゆでお馴染みの(株)にんべんは、1699(元禄12)年、伊勢出身の初代高津伊兵衛が江戸の日本橋で創業。
本書は、その伊兵衛が開業した店、主に鰹節を商う伊勢屋を題材にした時代版経済小説、フィクション。
努力と才覚で日本橋に大店を構えるに至った初代伊兵衛。
ところがその伊兵衛が倒れ、死に、店の舵取りが未だ若い兄弟に任されると、縁戚付き合いをしていた商人仲間に裏切られたり不運が続いたりで、一気に商売は傾いていく。
本書は、そんな兄弟の挫折、苦闘、再生を描いた時代長篇小説。
昔も今も、身一つから商売を大きく成功させた創業者というのは偉大なものです。
でも本当に大変なのは、創業者よりも二代目を任される子供たちだと思います。
常に親と比べられ、今まで以上に商売を発展させて当たり前、少しでも業績が下向いたら何を言われるか判らない、のですから。
本書の主人公となる、二代目伊兵衛・伊之助の兄弟は、まさにそんな苦衷を父親の死の直後から味わうことになります。
相次ぐ不運、不幸。そして落ちるところまで落ちたところで、初めて商売は上向いてくる。
やっと息をついたところで伊之助が向かい会うことになるのは、何の為に商人になるのか、商人になって何をやりたいのか、という命題。
前半は伊勢屋の苦衷ばかりが描かれ、極めて地味な小説という印象ですが、伊之助が自分なりに考えて商売の新しいやり方を探っていく辺りから、ようやく楽しくなっていきます。
商売を引き継いでいくことの難しさと、突き詰めて“商売”とは何なのかということを、言葉ではなくストーリィから語った作品です。
結末近く、伊之助が自ら悟った“商いとは?”の答えが、時代を超えて胸に響いてきます。
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