中村理聖(りさと)作品のページ


1986年福井県生、早稲田大学第一文学部卒。2014年「砂漠の青がとける夜」にて第27回小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー。

 


                   

「若葉の宿 ★★☆


若葉の宿

2017年06月
集英社刊

(1600円+税)



2017/09/15



amazon.co.jp

予想以上に面白かったです。
京都での対照的な2つのタイプの旅館、祖父母が営む
町屋旅館の“山吹屋”と、仲居として勤め始めた老舗の料理旅館“紺田屋”を舞台にして描く、夏目若葉・21歳の迷い悩みつつ、手探りで進んでいくような青春記。

若葉、父親は誰とも知れず、シングルマザーの母親は1歳の若葉を祖父母の元に残して家を出たまま行方知れず。
そんな生い立ちが影響したのか、いつも自信なさげで、祖母の
とき子からも、紺田屋の仲居頭であるからも、ぼーっとしていないで・・・と年中叱られてばかり。おかげで若葉の口から出る言葉といえば、いつも「ごめんなさい」。

そんな若葉ですから、遠縁の男に馬鹿にされたり、仕事で大失敗もしてしまう。そのうえ、実家の山吹屋には土地を売れという横やり、紺田屋には財務悪化による経営危機が到来します。
しかし、ある出来事を機に、若葉に変化が生じます。
おそらく若葉、感じ方や考え方のテンポが他の人と異なるのでしょう。だから人からドジ、ボンヤリと言われ続け、自信がない故に自分でもそう思い込んでしまっていたのではないか。

若葉が変わり始めてから、一気にストーリィが面白くなります。
京都という街で、親の世代と考え方と、若葉ら若い世代との違いもはっきり目に映るようになり、町屋旅館の佇まいから、改めて京都という街の魅力が感じられる思いです。
全体のバランスがとても良く、若葉の新たな出発を心から祝いたくなるような清新なストーリィ。

※若葉だけでなく、親友で舞妓の道を選んだ
紗良、板前見習いの慎太郎、若葉の祖父母や紺田屋の女将である志乃を始めとして、若葉を取り巻く人々の懐の深さ、温かさが素敵です。お薦め。

1.祇園祭/2.京の老舗/3.晩夏の京町屋/4.帰るべき場所/5.波乱の紅葉/6.山吹屋の誇り/7.おことうさん/8.庭のぬくもり/9.静かな年明け/10.八坂さんの祈り/11.葵の記憶

        


   

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